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ペンとか紙とか

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朝起きたらジャムを煮るには薪が足りないことに気づいて、結局ポンカンは砂糖漬けにすることにした。
でも火は起こしたよ、今朝は。

瓶を煮沸消毒して砂糖を入れ、輪切りにしたポンカンと交互に入れていく。小さなジャムの瓶をいくつもいっぱいにした。台所の壁の棚に見栄え良く並べていくと、カーンカーンと音が庭からする。

窓を開けるとチャーリーが薪を割っていた。
あれ、我が家に斧なんかあったっけ。


「預かってたんだよ。無用心だから」

チャーリーの口調でなんとなくピンとくる。他にもメンストンさんが私の知らないところで「預かって」くれているものがありそうだ。
私が村に帰ってきたから、きっと少しずつ小屋に返ってくるだろう。

どうせ使うことのできないものだったし罪悪感から薪を割ってくれるんだったら私としては文句は(今のところ)ない。薪割りは結構な重労働だ。
昨日やってくれていればマーマレードができていましたけどね!

「朝の仕事が終わったんだったら勉強に取り掛かる?」と尋ねると、チャーリーは素直にうなずいて入ってきた。

すぐに昨日作ったラグに気づいたらしい。

「おい、あれ……」
「昨日作ったの」
「すげー色だな」

おや。チャーリーには不評? 可愛い組み合わせだと思うんだけど。鮮やかな緑と紫とマスタード。
ま、いいや。
心はおばちゃんだもん。
十代の少年に何を言われても気にしないよ!


チャーリーは意外と物覚えが良かった。というかむしろなんで毎回テストに落ちるのかわからないくらいだ。

「知識」を参照しながら子供が勉強する文字や単語をチャーリーの目の前で紙に書いてあげると目を丸くして見ている。
使っているのはガラスペンだ。それに紫色のインク。
当然だけど筆記具はほとんど持ってこれなくて、文房具ヲタ友がくれたブルーのガラスペンとインクが一番使いでのある筆記具。あと、実は書道用の小筆と硯と墨もあるんだけど、さすがにそれは普段遣いにしづらい。


「それ、カッコイイな……」
羨ましそうにチャーリーが言う。
ああ、そうだよね。まだ羽根ペンが一般的だもんね。ちょっと裕福でもつけペンだとか。

「母さんの形見なんだよ」
そう言うと神妙な顔になった。

紙も結構高価だからチャーリーは石板とチョークを使っている。私は家にあったプリンター用の紙をまるまる二束持ってきたから今のところ少し気分的に余裕がある。
今書いているのはお手本だよ。

話を聞いたところ、学校に行って教わっても教科書もないし、石板に書いた文字も1時間以上歩いて帰るうちに擦れて読みづらくなってしまって結局「もういいや」ってなってたみたい。

できるだけ丁寧に書いてあげたお手本をものすごくまじまじと見ているから、何だか嬉しくなってしまって、「全部書けるようになったら紙を何枚かあげるよ」と約束してしまった。

「本当か?! インクもくれる?」

インクは無理だけど、色素は植物からもとれるし、羽ペンは水鳥の羽根から結構簡単に作れる。
そう言うとチャーリーは頷いた。


これは結構早く試験に合格するかも。
真面目に勉強してくれるのは嬉しい。
手伝ってもらえなくなると困るけどね。


帰りにジャムの空瓶とワンカップ大関の容器を持って行ってもらおうと用意をしていると、ドアがノックされてアリスちゃんが顔を出した。

「マージョ、燈心草とうしんそう摘んできたよ。あげる!」

燈心草は沼地に生えている草だ。摘んで来て灯りを作るのに使う。
ちょっと手を加えて乾かして獣脂に浸してろうそく代わりにするのだ。

「え、アリスちゃんが一人で行ったの?」

まだ7つの子だよ。危ないじゃないの。

でもチャーリーもアリスちゃんもキョトンとしてる。

「そうだよ! 燈心草摘みは子供の仕事だもん」

すごいなあ。この世界の子供は労働力なんだ。

「ちょっと待ってね、お母さんに渡すものを準備してるの」

空き瓶を見せるとアリスちゃんは興味があるみたいで目を輝かせて見てる。

「マージョのお家すごいよね。窓に布がついてるし」

……カーテンのことかな。

「床の布もすごいんだよ」

ボソッとチャーリーがアリスちゃんに指差す。

「わー! すごい色!」

ギクッ。アリスちゃんにまで不評とか……へこむよ!

まあ、でも気を取り直して小さなお客様のためにお茶を入れる。庭から摘んできたミントに朝砂糖漬けにしたオレンジを一切れ、半分に切って入れる。
コップ代わりなのはワンカップ大関の容器だ。
上からスプーンでくしゃっと潰してお湯を注いで出来上がり。

「お茶をどうぞ」
と言ったらアリスちゃんが固まった。

「おひめさま……」
「え?」
「おひめさまくらいだよ、こんなスゴイ飲み物飲めるの!」

アリスちゃん。お姫様はワンカップ大関は飲まないと思うよ!
そのお姫様観は色々ファンキーだね!
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