12 / 172
第一部 綿毛のようにたどり着きました
ご近所づきあい
しおりを挟む
雄鶏の声で目が覚めた!
自然の目覚まし時計だね。
昨日の夜は疲れ切って、結局パスタも茹でずにパンとミートソースをちょっと口に入れて眠った。それも食べきれなくて、食べかけのパンをお皿に載せてその上からお椀を逆さまに被せた。
ラップないしね。
窓を開けて、カーテンを閉めて着替える。昨日の夜汲んでおいた水が水差しに入っているのでそれで顔を洗う。鏡を確認。
うん。おかしくない……!と思うけど、よくわからないな。
鶏と豚に水をやって……見てみたら卵があった! なんか感動する。
でも豚はちょっとムリ。可愛いけど面倒見きれない。でも豚肉は絶対必要なんだよ……悩ましい。
お茶を飲んで、パンを食べて、ぽんかんを一つ食べる。皮がいい匂いなので捨てるのは忍びない。皮をマーマレードに入れるか、乾かして再利用するか……とちょっと悩んで、とりあえずは乾かすことにする。
窓辺の紐にぶら下げておく。乾いてね!
それから思い立ってポンカンをエコバッグに入れて家を出ることにした。
まず目指したのはホワイトさんの家……というか店。店と言っても我が家の車庫的な場所に売り物がある、みたいな状態で、いわゆる店……みたいな物を想定するとちょっと肩透かしをくらう。
この村は2つの街の中間点にある。どちらの街も隔週で市が立つんだけど、ホワイトさんの「店」は基本的頼まれたものをそこで買ってくることで成り立っている。
もちろん、売れそうなもののストックもしているんだけれど、それは頼んで倉庫から出してもらわないといけない。
生活の基盤はやはり畑なんじゃないかなぁ。客あしらいは奥さんのエレンさんがやっていて、旦那さんと子供は畑をやっていることが多い。
でも商人としてもそこそこ認められてはいるみたいで、徒弟は一人いる。このあたり、よくわからない。
「こんにちわー!」
勝手口から声をかける。玄関は正式なお客様用だ。結婚式と葬式にしかつかわない、なんて言ったりする。
普段使うのは勝手口。
私の家も小屋に毛が生えたようなものだけど、裏口と表口があるんだよ。表口は寝室とリビングの間。大きな鉄製の鍵がかかっている。
「はいはいー」
明るい声がして、エレンさんが出てきた。如在ない人だ。笑うとエクボが左頬に出来る。
「あら! マージョ、帰ってきていたの!お帰りなさい」
どうやら私の名前はマージョらしい。
慌てて頭の中で「知識」を参照したら、本当にそれが私の名前だった。
この世界の言語で「真珠」という意味があるのだそうだ。
それは素敵だけれど、名前を変えるのだったら先に言っておいて欲しい。
ちょっとだけアナスタシアに文句が言いたくなった。
「お母さん、一緒なの?」
「あ……あの……母は……」
口ごもると、エレンさんは深刻な顔になった。
「そっか……。残念だったね」
何と言って言いのか分からずに私は俯く。
母と二人暮らしだったんだけど、母が病気になって良い医者を求めて街へ半年くらい前に出ていった……という設定が「知識」を参照したら、どん!と一気に脳内にやってきたからだ。
「そっか……」
エレンさんはショックを受けたみたいでまだ繰り返してるけど、私もショックだよ!
母はどうやらどこかの貴族の隠し子だったらしい。薬師の能力を持っていて、あの小屋はその貴族の家から与えられたのだ。
でもマージョはそれ以上は知らなかった。
母が亡くなったことで、そういうわけで、支援はなくなるらしい。
というか、母のそのあたりのことはマージョは一切把握していない。
でもこれで、小屋の中が割と空っぽだった理由がわかった。布団も中身がなかったしね。
最低限のものを残して後は売り払って町に行ったんだね。そこで母親を医者に見せたのだけど、甲斐なく亡くなってしまったからマージョは帰って来たんだ。そういう設定。
でも私にはその母の知識はあるけれど、母がいなくなって悲しいという感情はない。当然のことだけれど。
「いない間おせわになりました。……あの、これ、お土産です」
ポンカンを出すとエレンさんの目がピカッと光った。
「まあ!こんな珍しいもの……!いいの?」
「はい。キリングホールから持ってきたんです。よかったらみなさんで、召し上がって下さい」
柑橘類は珍しいんじゃないかと思ったんだけど、想像通りだった。
「こんなもの、何年に一度食べられるかどうかよ~!」
エレンさんの声が華やいでいる。
良かった。これはメンストンさんの家も手土産はポンカンだね。
残りは早めにマーマレードにして小さめの瓶に詰めよう。
この村は物々交換が盛んな感じがあるから、多分役に立ちそう。
「帰ってきたんだったら色々必要なものがあるんじゃない?」
エレンさんはニコニコしている。
「うちの倉庫見ていく?」
「はい、お願いします!」
食い気味で返事をしてから「あっ……」てなる。
「お金だったら心配しないでいいわよ~」
エレンさんは心を読むっぽい。
「薬酒か軟膏をおろしてくれれば来週市場に持っていくから」
そう。マージョと母親はいつもそうやって生計を立てていた。薬酒と軟膏。でもマージョには母親ほどの知識はない。
「薬酒……はちょっと時間がかかるかもしれませんけど、売れそうなものがあるんです。今度持ってきますから相談に乗っていただけますか?」
「あら、何? キリングホールで買ったもの?」
「そんなところです」
とりあえず、そういうことにしておくよ。
薬関係は人の口に入るものだと思うと腰がひける。薬事法だとか色々しっかりした国から来てるからね。
でも、布物で何かを作ることはできるだろう。とりあえずお金は必要だ。
自然の目覚まし時計だね。
昨日の夜は疲れ切って、結局パスタも茹でずにパンとミートソースをちょっと口に入れて眠った。それも食べきれなくて、食べかけのパンをお皿に載せてその上からお椀を逆さまに被せた。
ラップないしね。
窓を開けて、カーテンを閉めて着替える。昨日の夜汲んでおいた水が水差しに入っているのでそれで顔を洗う。鏡を確認。
うん。おかしくない……!と思うけど、よくわからないな。
鶏と豚に水をやって……見てみたら卵があった! なんか感動する。
でも豚はちょっとムリ。可愛いけど面倒見きれない。でも豚肉は絶対必要なんだよ……悩ましい。
お茶を飲んで、パンを食べて、ぽんかんを一つ食べる。皮がいい匂いなので捨てるのは忍びない。皮をマーマレードに入れるか、乾かして再利用するか……とちょっと悩んで、とりあえずは乾かすことにする。
窓辺の紐にぶら下げておく。乾いてね!
それから思い立ってポンカンをエコバッグに入れて家を出ることにした。
まず目指したのはホワイトさんの家……というか店。店と言っても我が家の車庫的な場所に売り物がある、みたいな状態で、いわゆる店……みたいな物を想定するとちょっと肩透かしをくらう。
この村は2つの街の中間点にある。どちらの街も隔週で市が立つんだけど、ホワイトさんの「店」は基本的頼まれたものをそこで買ってくることで成り立っている。
もちろん、売れそうなもののストックもしているんだけれど、それは頼んで倉庫から出してもらわないといけない。
生活の基盤はやはり畑なんじゃないかなぁ。客あしらいは奥さんのエレンさんがやっていて、旦那さんと子供は畑をやっていることが多い。
でも商人としてもそこそこ認められてはいるみたいで、徒弟は一人いる。このあたり、よくわからない。
「こんにちわー!」
勝手口から声をかける。玄関は正式なお客様用だ。結婚式と葬式にしかつかわない、なんて言ったりする。
普段使うのは勝手口。
私の家も小屋に毛が生えたようなものだけど、裏口と表口があるんだよ。表口は寝室とリビングの間。大きな鉄製の鍵がかかっている。
「はいはいー」
明るい声がして、エレンさんが出てきた。如在ない人だ。笑うとエクボが左頬に出来る。
「あら! マージョ、帰ってきていたの!お帰りなさい」
どうやら私の名前はマージョらしい。
慌てて頭の中で「知識」を参照したら、本当にそれが私の名前だった。
この世界の言語で「真珠」という意味があるのだそうだ。
それは素敵だけれど、名前を変えるのだったら先に言っておいて欲しい。
ちょっとだけアナスタシアに文句が言いたくなった。
「お母さん、一緒なの?」
「あ……あの……母は……」
口ごもると、エレンさんは深刻な顔になった。
「そっか……。残念だったね」
何と言って言いのか分からずに私は俯く。
母と二人暮らしだったんだけど、母が病気になって良い医者を求めて街へ半年くらい前に出ていった……という設定が「知識」を参照したら、どん!と一気に脳内にやってきたからだ。
「そっか……」
エレンさんはショックを受けたみたいでまだ繰り返してるけど、私もショックだよ!
母はどうやらどこかの貴族の隠し子だったらしい。薬師の能力を持っていて、あの小屋はその貴族の家から与えられたのだ。
でもマージョはそれ以上は知らなかった。
母が亡くなったことで、そういうわけで、支援はなくなるらしい。
というか、母のそのあたりのことはマージョは一切把握していない。
でもこれで、小屋の中が割と空っぽだった理由がわかった。布団も中身がなかったしね。
最低限のものを残して後は売り払って町に行ったんだね。そこで母親を医者に見せたのだけど、甲斐なく亡くなってしまったからマージョは帰って来たんだ。そういう設定。
でも私にはその母の知識はあるけれど、母がいなくなって悲しいという感情はない。当然のことだけれど。
「いない間おせわになりました。……あの、これ、お土産です」
ポンカンを出すとエレンさんの目がピカッと光った。
「まあ!こんな珍しいもの……!いいの?」
「はい。キリングホールから持ってきたんです。よかったらみなさんで、召し上がって下さい」
柑橘類は珍しいんじゃないかと思ったんだけど、想像通りだった。
「こんなもの、何年に一度食べられるかどうかよ~!」
エレンさんの声が華やいでいる。
良かった。これはメンストンさんの家も手土産はポンカンだね。
残りは早めにマーマレードにして小さめの瓶に詰めよう。
この村は物々交換が盛んな感じがあるから、多分役に立ちそう。
「帰ってきたんだったら色々必要なものがあるんじゃない?」
エレンさんはニコニコしている。
「うちの倉庫見ていく?」
「はい、お願いします!」
食い気味で返事をしてから「あっ……」てなる。
「お金だったら心配しないでいいわよ~」
エレンさんは心を読むっぽい。
「薬酒か軟膏をおろしてくれれば来週市場に持っていくから」
そう。マージョと母親はいつもそうやって生計を立てていた。薬酒と軟膏。でもマージョには母親ほどの知識はない。
「薬酒……はちょっと時間がかかるかもしれませんけど、売れそうなものがあるんです。今度持ってきますから相談に乗っていただけますか?」
「あら、何? キリングホールで買ったもの?」
「そんなところです」
とりあえず、そういうことにしておくよ。
薬関係は人の口に入るものだと思うと腰がひける。薬事法だとか色々しっかりした国から来てるからね。
でも、布物で何かを作ることはできるだろう。とりあえずお金は必要だ。
28
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~
中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」
唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。
人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。
目的は一つ。充実した人生を送ること。
異世界でスローライフを満喫する為に
美鈴
ファンタジー
ホットランキング一位本当にありがとうございます!
【※毎日18時更新中】
タイトル通り異世界に行った主人公が異世界でスローライフを満喫…。出来たらいいなというお話です!
※カクヨム様にも投稿しております
※イラストはAIアートイラストを使用
道端に落ちてた竜を拾ったら、ウチの家政夫になりました!
椿蛍
ファンタジー
森で染物の仕事をしているアリーチェ十六歳。
なぜか誤解されて魔女呼ばわり。
家はメモリアルの宝庫、思い出を捨てられない私。
(つまり、家は荒れ放題)
そんな私が拾ったのは竜!?
拾った竜は伝説の竜人族で、彼の名前はラウリ。
蟻の卵ほどの謙虚さしかないラウリは私の城(森の家)をゴミ小屋扱い。
せめてゴミ屋敷って言ってくれたらいいのに。
ラウリは私に借金を作り(作らせた)、家政夫となったけど――彼には秘密があった。
※まったり系
※コメディファンタジー
※3日目から1日1回更新12時
※他サイトでも連載してます。
祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。
rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる