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第2航路:公用船契約に潜む影
第6-3便:打ち解けるふたり
しおりを挟むやがて『キャピタル号』は無事にブライトポートへ到着。今回はソレイユ水運と共同運航しているステラ運輸の発着場と桟橋を利用させてもらう。この航路を運航する時は、基本的にはそれが通常の運用なんだけどね。
ただし、宿泊場所はステラ運輸の社宅ではなく、ミーリアさんのご厚意により実務審査の時にも利用した宿を用意してもらっている。ほかのみんなも同じ宿だ。
「お疲れさま、シルフィさん」
桟橋で船の係留作業を終えた時、ミーリアさんが声をかけてきた。すでに宿へ向かったのかと思っていたから、彼女がまだこの場に留まっていたことに私はちょっとだけ驚いた。
それにわざわざ私を気遣ってくれたのが嬉しい。そういうちょっとした配慮も、役所でたくさんの部下を抱えて仕事をする中で培われてきたものなのかもしれない。
「あ、ミーリアさん! ミーリアさんこそ長時間の乗船で疲れませんでしたか?」
「シルフィさんの操船が上手だったからなのか、疲れはほとんどありません。実に快適でした。――あ、私のことは『ミーリア』でいいですよ。だって私たち、もう友達じゃないですか」
「だったら私のことも『シルフィ』って呼んでください。それと社長に対してのように、もっと気楽な話し方で構いません」
「ん、分かった。じゃ、シルフィももっと砕けた話し方でいいからね? 私の方が年上だけど、年齢差なんて気にしなくて良いから」
「うんっ! ありがとっ、ミーリア!」
私たちは顔を見合わせ、楽しげに笑った。呼び方や話し方によそよそしさがなくなったからか、私に対するミーリアの表情は今まで以上に柔らかくなった気がする。
もっともっと仲良くなりたいな。ミーリアも同じ気持ちでいてくれたら嬉しい。
「じゃ、宿に荷物を置いたらみんなと一緒に食事をしに行こっ。実はオススメのレストランを予約してあるんだ。ブライトポート市のことなら私に任せてよっ♪」
「さすがミーリア。根回しがいいね」
「根回し、か……。まぁね……フフッ……」
「ど、どうしたの? 含みを持たせる言い方だけど……」
「なんでもない。気にしないで。さぁっ、早く宿へ向かいましょう」
そう言うとミーリアはすかさず後ろに回りこみ、私の両肩に手を置きながら前へと押し出した。なんかうまくはぐらかされてしまったような気もする。
それに今の彼女って、あのたまに見せる悪戯っぽさを感じたんだけど……。
なお、その後はみんなもお誘いして、ミーリアが予約したというレストランで全員が揃って食事をした。そのお店は海鮮料理がメインだったから、特にクロードは大喜び。最終的には満腹で動けなくなるくらいお魚を食べていた。
私たちもカルパッチョやパエリア、魚介スープ、お魚とキノコの蒸し焼きなど、仕事を忘れて美味しい料理を堪能してしまった。
成人済みのミーリアとアルトさんはワインで乾杯してご機嫌だったし、ディックくんとライルくんも楽しそうに会話をしながら食事をしていたし、最高の時間を過ごすことが出来たなぁ。
また機会を作ってこのメンバーで食事をしたいと思う。
◆
翌朝、私たちが揃って桟橋へ行くと、そこでは数人のお役人さんたちが待ち受けていた。一様に兜や鎧を身に付け、手には槍を持っている。その格好から察するに警備官や市の衛兵などじゃないかと思う。
でもなぜ『キャピタル号』の前に立っているのだろう? まさか私たちの誰かが知らず知らずのうちに何かの犯罪行為をしていて、捕まえに来たとか!?
――ううん、ここにそんな悪人はいない。もし捕まえに来たのだとしても、それは冤罪か彼らの勘違いに違いない。
とはいえ、事情が分からないからどうしても不安になる。だから内心ビクビクしつつ歩み寄っていくと、私たちの姿に気付いた彼らは途端に表情と姿勢を正して敬礼をしてくる。傍目にも緊張しているのが伝わってくる。
えっ、これってどういうことなの? ますますワケが分からない。
「ミーリア様、お疲れさまです」
彼らのリーダーと思われる中年男性がミーリアに声をかけた。
すると彼女は『公モード』を発動して、凛とした顔と雰囲気で会釈を返す。どうやらこの事態を理解している感じだ。
つまり彼らが待ち受けていた相手はミーリアで、何か用事があるのだろう。
「お疲れさま、皆さん。結果はどうでしたか?」
「本日未明、船に侵入して何らかの工作を行っていた被疑者3名の身柄を確保しました。現在、市の警備事務所で取調中です。ただ、いずれも黙秘したままで、動機も背景も何もかもが分かりません」
「そうですか……。ま、どうせ末端の捨て駒か、金銭で雇われた盗賊崩れといったところでしょう」
「任務に失敗すれば、自分たちがトカゲの尻尾切りになるということも承知の上で依頼を受けたんでしょうな」
「ですが実行犯の身柄を確保したことで、黒幕への牽制にはなりました。あとのことはお任せします。警備隊長によろしくお伝えください」
ミーリアが感謝の言葉を伝え、深々と頭を下げた。それに対して彼らはあらためて敬礼をして、この場から去っていく。
その一連の流れを、私を含めた彼女以外の全員がポカンとしながら見守ったのだった。
(つづく……)
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