わたしの船 ~魔術整備師シルフィの往く航路(みち)~

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
上 下
47 / 58
第2航路:公用船契約に潜む影

第5-2便:ライルの気付き

しおりを挟む
 
 まるでパズルのピースが正しい位置にバシバシとはまっていく感じ。考えても考えても分からなかった謎が解けた時の爽快感は、どうしてこれ程までに心地良いのだろう。

 その場にいた私たち3人は思わず興奮して、跳び上がって喜び合う。

「ようやく不具合を起こした原因が見えたな。誰かが質の悪い魔鉱石を一定量、燃料タンク内に仕込んだに違いない。そのあと、上から正常な魔鉱石を詰めて、傍目はためには細工したことがバレないようにした」

「なるほど! その質の悪い魔鉱石が詰められているゾーンに達するまでは正常な魔鉱石を消費していくから、不具合が起きるまでにタイムラグがあったんだ。それで質の悪い魔鉱石を消費しきったあとは、また正常な魔鉱石が消費されるようになるから出力が元に戻ったんだんだね」

「あぁ。固体燃料だからこそのトリックだな。タンクの容量と不具合が起きた地点までの航行距離を考えると、おそらくブライトポートに停泊していた夜にやられたな」

「今後は燃料タンク内の魔鉱石も整備のチェック項目に追加しないとね」

「そうだな。失敗から学ばなければ進歩はない。整備の抜けを洗い出してくれたという点だけは、犯人に感謝しないとな」

 私とライルくんは頷き合う。

 転んでもただでは起きない。二度と同じことを繰り返さないためにも、私たちは学び続けなければならないから。魔術整備師は船の安全を担い、たくさんの命や大切な物を預かっているのだから。

「だが、質の悪い魔鉱石なんて手に入るものなのか? 商品として成り立たないものが流通するとは思えん。ま、鉱山や燃料業者にツテがあれば、絶対に入手不可能ということでもないだろうがな」

「あ……そうだよね……。ディックくんの言う通りかも……」

 確かに燃料業者から仕入れる時にそういう粗悪品は弾かれるはずだ。たまにごく少量が正常なものに混じってしまっていることはあるけど、その程度なら動作に問題は起きない。

 販売されている魔鉱石は一定の品質をクリアしているというのが常識だからこそ、この仮説になかなか辿り着かなかったわけで……。

 魔鉱石への着眼点といい、ディックくんの洞察力や考察力には目を見張るものがある。私より年下なのに、なんだかすごく格好良くて頼りがいがあるように感じる。

 彼が王立施療院に入院していた時もその精神的な成長スピードに驚かされたけど、ますますその勢いが増している気がしてならない。

 もちろん、まだまだ年相応の面は残っているけど、そのギャップがまた愛おしい。これからどんな成長を見せてくれるのだろう。なんかドキドキして来ちゃった……。

「――っ!? 分かったぞッ、そういうことかっ! くそっ!」

 急にライルくんは怒気混じりの声を上げた。奥歯を噛み締め、表情に悔しさを滲ませる。

 その反応から察するに、きっと思い当たる何かがあったのだろう。ただ、今の彼はいつも以上に冷静さを欠いているというか、ここまで怒りを露わにしているのを私は見たことがない。

 さすがにディックくんも戸惑っているみたいで、思わず一歩後ずさりをしている。

「ど、どうした、ライル?」

「俺の推測が正しいと証明するためにも、点検魔法チェックでススの成分を調べてみよう。シルフィ、不具合を起こした魔導エンジンだが、工学整備で交換した燃料系パーツがあるだろう? それを用意してくれないか?」

「あ、うんっ! あるよ、まだ処分せずに残ってるものがある!」

「あとは実験に使っても問題がない魔導エンジンを準備して、動かせるようにしておいてくれ。俺は劣化した魔鉱石を持ってくる」

 そう言い残すと、ライルくんはドックから風のように飛び出していった。詳細な状況説明を求めるいとますらない。そもそも止められる雰囲気でもなかったけど……。

 とりあえず、私は彼に言われた通りの準備をしておくことにした。

 ディックくんとアルトさんに手伝ってもらい、まずはドック内のスペースに予備の魔導エンジンを設置。また、不具合を起こした魔導エンジンでお役ご免となった燃料系パーツを廃棄物置き場から回収してくる。



 その後、十数分ほどしてからディックくんがドックへ戻ってくる。その手には木箱があって、中にはたくさんの魔鉱石が入っている。

 ただし、それはよく見る正常なものと比べると明らかに異質なもの。どれも色は黒ずみ、小さな塊同士がところどころくっついていびつな形をしている。

 もちろん、私も何度か劣化した魔鉱石を見たことがあるけど、そのいずれとも状態が違う。もしかしたら産地や劣化具合によって個性が出るのかもしれない。

 ライルくんはその魔鉱石を魔導エンジンの燃料タンクに充填し、起動実験をおこなった。するとなんとその魔導エンジンは、実務試験の時に不具合を起こした魔導エンジンとよく似た挙動を示したのだった。

 ――そうか、劣化した魔鉱石から抽出される魔法力は安定しないから、魔導エンジンの出力もそれに合わせて上下に振れていたんだ。理由が分かれば納得の現象だ。


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

処理中です...