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第2航路:公用船契約に潜む影
第5-2便:ライルの気付き
しおりを挟むまるでパズルのピースが正しい位置にバシバシとはまっていく感じ。考えても考えても分からなかった謎が解けた時の爽快感は、どうしてこれ程までに心地良いのだろう。
その場にいた私たち3人は思わず興奮して、跳び上がって喜び合う。
「ようやく不具合を起こした原因が見えたな。誰かが質の悪い魔鉱石を一定量、燃料タンク内に仕込んだに違いない。そのあと、上から正常な魔鉱石を詰めて、傍目には細工したことがバレないようにした」
「なるほど! その質の悪い魔鉱石が詰められているゾーンに達するまでは正常な魔鉱石を消費していくから、不具合が起きるまでにタイムラグがあったんだ。それで質の悪い魔鉱石を消費しきったあとは、また正常な魔鉱石が消費されるようになるから出力が元に戻ったんだんだね」
「あぁ。固体燃料だからこそのトリックだな。タンクの容量と不具合が起きた地点までの航行距離を考えると、おそらくブライトポートに停泊していた夜にやられたな」
「今後は燃料タンク内の魔鉱石も整備のチェック項目に追加しないとね」
「そうだな。失敗から学ばなければ進歩はない。整備の抜けを洗い出してくれたという点だけは、犯人に感謝しないとな」
私とライルくんは頷き合う。
転んでもただでは起きない。二度と同じことを繰り返さないためにも、私たちは学び続けなければならないから。魔術整備師は船の安全を担い、たくさんの命や大切な物を預かっているのだから。
「だが、質の悪い魔鉱石なんて手に入るものなのか? 商品として成り立たないものが流通するとは思えん。ま、鉱山や燃料業者にツテがあれば、絶対に入手不可能ということでもないだろうがな」
「あ……そうだよね……。ディックくんの言う通りかも……」
確かに燃料業者から仕入れる時にそういう粗悪品は弾かれるはずだ。たまにごく少量が正常なものに混じってしまっていることはあるけど、その程度なら動作に問題は起きない。
販売されている魔鉱石は一定の品質をクリアしているというのが常識だからこそ、この仮説になかなか辿り着かなかったわけで……。
魔鉱石への着眼点といい、ディックくんの洞察力や考察力には目を見張るものがある。私より年下なのに、なんだかすごく格好良くて頼りがいがあるように感じる。
彼が王立施療院に入院していた時もその精神的な成長スピードに驚かされたけど、ますますその勢いが増している気がしてならない。
もちろん、まだまだ年相応の面は残っているけど、そのギャップがまた愛おしい。これからどんな成長を見せてくれるのだろう。なんかドキドキして来ちゃった……。
「――っ!? 分かったぞッ、そういうことかっ! くそっ!」
急にライルくんは怒気混じりの声を上げた。奥歯を噛み締め、表情に悔しさを滲ませる。
その反応から察するに、きっと思い当たる何かがあったのだろう。ただ、今の彼はいつも以上に冷静さを欠いているというか、ここまで怒りを露わにしているのを私は見たことがない。
さすがにディックくんも戸惑っているみたいで、思わず一歩後ずさりをしている。
「ど、どうした、ライル?」
「俺の推測が正しいと証明するためにも、点検魔法でススの成分を調べてみよう。シルフィ、不具合を起こした魔導エンジンだが、工学整備で交換した燃料系パーツがあるだろう? それを用意してくれないか?」
「あ、うんっ! あるよ、まだ処分せずに残ってるものがある!」
「あとは実験に使っても問題がない魔導エンジンを準備して、動かせるようにしておいてくれ。俺は劣化した魔鉱石を持ってくる」
そう言い残すと、ライルくんはドックから風のように飛び出していった。詳細な状況説明を求める暇すらない。そもそも止められる雰囲気でもなかったけど……。
とりあえず、私は彼に言われた通りの準備をしておくことにした。
ディックくんとアルトさんに手伝ってもらい、まずはドック内のスペースに予備の魔導エンジンを設置。また、不具合を起こした魔導エンジンでお役ご免となった燃料系パーツを廃棄物置き場から回収してくる。
その後、十数分ほどしてからディックくんがドックへ戻ってくる。その手には木箱があって、中にはたくさんの魔鉱石が入っている。
ただし、それはよく見る正常なものと比べると明らかに異質なもの。どれも色は黒ずみ、小さな塊同士がところどころくっついて歪な形をしている。
もちろん、私も何度か劣化した魔鉱石を見たことがあるけど、そのいずれとも状態が違う。もしかしたら産地や劣化具合によって個性が出るのかもしれない。
ライルくんはその魔鉱石を魔導エンジンの燃料タンクに充填し、起動実験を行った。するとなんとその魔導エンジンは、実務試験の時に不具合を起こした魔導エンジンとよく似た挙動を示したのだった。
――そうか、劣化した魔鉱石から抽出される魔法力は安定しないから、魔導エンジンの出力もそれに合わせて上下に振れていたんだ。理由が分かれば納得の現象だ。
(つづく……)
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