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第2航路:公用船契約に潜む影
第2-6便:抜き打ちテストの実施!?
しおりを挟むその後、私たちは『グランドリバー号』へ移動。その際に私は隣を歩いている社長とルティスさんに声をかけ、ミーリアさんについて訊いてみることにする。
「あの、ミーリアさんなんですけど、冷たくて素っ気ない雰囲気でしたよね。先日お会いした時はもっと温かい感じだった気がするんですけど、実際にはどうなんでしょうか?」
「ミーリアはオンとオフがハッキリしているからね。公私混同はあまりしないタイプなんだよ。仕事には真面目で中立で、自分にも周りにも厳しい。だからさっきの場面だけ見たら、淡々としている印象になるかもね」
社長は優しい瞳で私を見ていた。しかもいつも以上に柔らかで温かな表情。もちろん、普段から穏やかな雰囲気ではあるんだけど、今はいつになく上機嫌なような感じがする。
それってミーリアさんと会ってからの変化だと思うから、久しぶりに顔を見られて嬉しいのかも。
「じゃ、やっぱり温かな感じの方がミーリアさんの素なんですね」
「そうだね。仕事上でも厳しさはあっても情がないわけじゃないし」
「私の気のせいかもしれないんですけど、社長の返事を聞いた瞬間にミーリアさんの表情がわずかに緩んだような感じがしました。社長はそれに気付きました?」
「僕は分からなかったけど、真実はどうなんだろうね。僕たちが会ったのも言葉を交わしたのも、数年振りだったのは確かだけど」
「だったらきっとミーリアさん、嬉しかったんですよ。公私混同をしないタイプって聞いて、私はそう確信しました。自分を律していたけど、思わず本音が表に出ちゃったみたいな」
「かもしれない。人間である以上、感情の影響を完全に排除することは出来ないだろうから」
「……フフフ。誰かさんと同じね」
その時、ルティスさんがお腹を抱えて笑った。そして彼女が言った『誰かさん』というのは社長のことだと私は即座に察する。
彼がいつもより機嫌良さそうなことに私が気付くくらいだから、付き合いの長いルティスさんなら言わずもがななのも頷ける。
それに対して社長は少しつむじ曲げながら深い溜息をつく。
「ルティス、その意味深な笑みはなんだい? まったく……」
「それにしてもフォレスって本当に面白い後輩がたくさんいるわよね。ミーリアにしてもセレーナにしても」
「面白い……か……。おかげで退屈はしないけどね」
「あの、セレーナさんって誰です?」
あまりプライベートなことを訊くのは悪いかなぁとも思ったけど、ふたりの表情を見る限り問題なさそうだったので私は社長に問いかけてみた。
すると彼はクスッと笑ってから軽い感じで答えてくれる。
「王立施療院で魔法医師を目指して勉強している子だよ。最近、商店街に出来たサンドイッチ屋も彼女が経営していてね。王立学校時代はミーリアの同級生でもあったんだよ」
「もしかしてその縁で軽食コーナーに例のサンドイッチを置くようになったんですか?」
「そうだね。彼女が置かせてくれないかって売り込みに来てね。もちろん、ビジネスとして」
「へぇ、いつか会ってみたいなぁ」
社長の話を聞いて、私はますますセレーナさんに興味が沸いた。だって私とそんなに年齢が変わらないのに、大繁盛のお店を経営しているなんてすごいと思ったから。
しかも学業と平行してやっているなんて、その努力も才能も見習うべきところがある。
きっと素敵な女性なんだろうなぁ……。
私たちは同じ町に住んでいるみたいだし、社長やルティスさんという接点もあるからいずれ会う機会もあると思う。その日が来るのを楽しみに待ちたい。
「さて、それじゃ今回はせっかくだから、シルフィの操船とルティスの接客の抜き打ちテストでもしておこうかな。明日に備えるという意味合いも含めてね」
不意に社長がとんでもないことを言い出し、私は驚いて心臓が止まりそうになった。
テストだなんて完全に想定外の事態だ。今日はいくらか落ち着いて操船できると思っていたのに、そんな気持ちは瞬時に吹き飛んで頭の中が混乱してくる。
当然、私は狼狽えながらも社長に抗議する。
「テ、テストなんて聞いてないですよっ!」
「そりゃそうだよ。今、思いついたんだもん。それに抜き打ちテストだから意味があるんだし」
「そんなぁ……」
ガックリと肩を落とし、項垂れる私。するとルティスさんが私の背後に立ち、両肩に優しく手を載せてくる。
「シミュレーションだと思えば、明日の不安も少しは解消できるんじゃない? だからシルフィ、お互いに頑張りましょう」
「は、はぁい……」
私は力なく返事をした。どれだけ抵抗したとしても事態が覆るわけじゃないし、先輩であるルティスさんが抜き打ちテストを受け入れてしまっているなら、私としては同意せざるを得ない。
うぅ……もう覚悟を決めるしかないか……。
(つづく……)
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