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第1航路:魔術整備師シルフィ
第1-3便:賑やかな左岸渡船場
しおりを挟む渡船場の旅客用待合室はドックの約3倍――馬車が5×10台くらい並べられる――の面積があって、その一角は喫茶コーナーになっている。2階と3階はソレイユ水運の本社オフィス。その建物がレイナ川の左岸にあるリバーポリス市の中心街にある。
ちなみに渡し船が結んでいる右岸の渡船場はこぢんまりとした小屋と桟橋があるだけ。ドックはもちろん、船を係留しておく施設など会社のほとんどの機能がこの左岸に集約して敷設されている。
右岸には小さな集落やワイン用ブドウの段々畑、ワインの醸造所、林業関係の施設などがあるだけで住民が少ないから、そういう扱いになっちゃうのは仕方のないことかもしれない。その地域を過ぎると国境まで山越えの街道が延々と続いているだけだし。
だから渡船の利用客は集落の住民よりも旅人や交易商人、ワインや林業に関する仕事で通勤している人の割合が高くなっている。
そもそも渓谷地帯にあるリバーポリス市は隣国『ファナイン帝国』からの防衛機能を備えた要衝として設立したのが始まりなので、王都イリシオンのある左岸側に町が発展するのは自然な流れだ。市役所だってかつての砦をそのまま転用したもので、戦時にはいつでも本来の用途として使えるようになっている。
そして川幅が広くて水深の深いレイナ川は天然の濠としての役割も持っているわけで、だからこそレイナ川への架橋が認められていない。この町から王都までは数百キロメートルくらい離れているけど、戦略上は距離よりも地続きかどうかが重要なんだそうだ。
また、それゆえにソレイユ水運ほか、この町で渡船業を運営する会社が成り立っている。
「ルティスさん、お疲れ様でーす。私、これから昼食の休憩に入りまーす」
私は喫茶コーナーの前を通る際、そこにいたルティスさんへ声をかけた。
彼女は乗船券の販売や各種案内、喫茶コーナーなどを担当している社員で年齢は二十五歳。
透き通るような白い肌、肩の少し下くらいまで伸ばしたストレートの銀髪をサイドテールにしていて、市内でも有名な美人さんだ。その可憐さは同性の私から見ても見とれてしまうほど。
それでいて落ち着きがあって清楚で優しくて、神様はどれだけルティスさんに贔屓してるのって問い詰めたくなる。ほんのちょっぴりでいいから、私にも美貌を分けてくれたらいいのに。
当然、ルティスさん目当てで喫茶コーナーだけを利用しに来るお客さんもたくさんいる。ついでに遊覧目的でいいから渡船にも乗ってくれたら嬉しいんだけどね。本来は渡船の待ち時間に利用してもらう目的で設置されたお店なんだし。
ちなみにソレイユ水運の渡し船はあらかじめ定められたダイヤに従って運航する方式で、朝夕は約15分間隔、日中は約30分から1時間間隔。悪天候や航行に支障のある川の状態の日以外は毎日運航となっている。
旅客用の小型船には座席が設置され、馬車や資材などを運ぶお客さんがいる場合は貨物専用の曳航船を連結する。そうやって多彩なニーズに応えられるようにしているわけだ。
その代わり、船のトン数(容積)や排水量(船の重さ)は大きめになってしまい、魔導エンジンは扱いが比較的難しくて出力の大きいものを装備しなければならない。だから船や操舵手の数はどうしても限られ、お客さんが来る度に随時運航する方式が取れないのがデメリットでもある。
それに対してライバル会社のルーン交通は旅客のみの輸送に特化していて、船は一度の運航でたくさんのお客さんを運べる立ち乗り方式を採用。つまり船のトン数や排水量がうちの会社の船より小さい割に定員を多く出来るので、運賃も安い。
また、所有している船や操舵手の数も多いので、随時運航する方式となっている。
ほかの大きな違いは渡船場の位置が異なるという点くらいだろうか。
リバーポリス市で渡船業を営む大手はこの2社。ニーズに幅広く応えるソレイユとフットワークの軽いルーンという感じで、うまく棲み分けが出来ている。
「あっ、シルフィ。ちょっと待って。昼食前で申し訳がないんだけど、急ぎでお願いしたいことがあって……」
私が喫茶コーナーを通り過ぎようかという時、ルティスさんが慌てて私を呼び止めた。手一杯で手助けでも必要なのだろうか?
(つづく……)
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