月影の盗賊と陽光の商人

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
上 下
23 / 23
第五幕:未来への旅路

第一節(完結編):新たなる船出

しおりを挟む
 この状況でそんな言動をされたら、友達だって認めざるを得ないじゃねぇか。根負けだ。

 俺が旗を巻いて大きく息をつくと、それを見ていたルナがクスッと吹き出す。

「――ビッテル、今回のことは借りだ。何かあったら遠慮なく言ってくれ」

「そうなんですか? 別に貸し借りとかって意識なんて全くないんですけど……。ま、せっかくですからそのご厚意を受け取っておきましょう。では、早速ですがお願いごとをしてもいいですか?」

「あぁ、聞いてやる」

「僕と一緒に旅をしてくれませんか? 夢を叶える手伝いをしてほしいんです」

「っ!? お前の夢って、世界一の商人になりたいってヤツかっ?」

 想定外の申し出に、俺は当惑して思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 だってお願いごとって、せいぜいボディーガードをしろとか荷物の積み卸しを手伝えとか、そういうことだと思っていたから。

 一方、ビッテルは平然としたままゆっくりと首を縦に振る。

「はい。僕は世界一の商人になって、貧しい人たちや悪政に苦しむ人たちを助けたい。おそらくそれには数多の困難が待ち受けているでしょう。でもバラッタとなら越えていけそうな気がするんです。それにバラッタなら、僕のお目付役としても最適そうですし」

「お目付役?」

「もし僕が今の心を忘れ、私利私欲に走った時には遠慮なくこの命を奪ってください。僕も人間ですから、迷ったり道を踏み外したすることがないとも言えませんので」

「お前……」

「僕にはあなたの力が必要です!」

 そう言い切ったビッテルの瞳には、嘘偽りがないように感じた。そして強い決意と覚悟がひしひしと伝わってくる。


 ここまでの男気を見せられたら、以前の俺なら一も二もなく頷いていただろう。だが、今はどうしても躊躇してしまう。なぜなら、今回の一件を通じて自分の未熟さを痛感したから。期待に応えられる自信がない……。

 俺は胸が塞がる想いを抱えつつ、ビッテルに向かって正直に今の気持ちを伝える。

「誘ってくれたのは嬉しい。だが、俺みたいな未熟者が一緒にいても足手まといになるだけなんじゃないのか?」

「未熟でいいんですよ。そして自分の未熟さを自覚したバラッタは、またひとつ成長しました。人は未熟だからこそ、そうやって少しずつ成長していくんです。むしろ世の中に完璧な人なんていませんよ」

 爽やかに微笑みながら、俺を見つめてくるビッテル。マジにコイツは打てば響く野郎だ。小気味いい。一緒にいてこんなに晴れ晴れとした気分になれるヤツは、ルナに続いてふたり目だ。

 俺はなんだか嬉しい気分になってくる。思わず頬も緩んでしまう。

「……そこまで言われちゃ、断れねぇな。だが、この町を離れて一緒に旅をするには、お頭に許可をもらう必要がある。説得するのは一筋縄じゃいかねぇぞ?」

「あ、その心配はありません。だって――」

 そこまで言ったところでビッテルは不意に小さく息を呑み、わざとらしい咳払いをした。そして目を丸くしながら少し狼狽える。

「あっ! えっと、その、僕にはギルドマスターを説得してみせる自信があります! そ、そんなことよりもルナさん! あなたも僕たちと一緒に旅をしませんか?」

「あたしもっ!? ……うーん、そうだなぁ。バラッタが行くのなら、あたしも行きたいかも。もちろん、お頭の許可が下りればの話だけど」

「では、決まりですねっ!」

 やけに明るく振る舞うビッテル。なんか話が勝手にトントン拍子に進んでしまった。ま、俺としてはこの三人で旅をするのは面白そうだから良しとするか。


 ――こうして運命を共にすると誓い合った俺たちは今、遙かなる未来へと船出する!


(了)  
 
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

tanakan
2024.04.27 tanakan

緊迫感のあるシーンからついに物語が動き始めて、期待が止まりません!続きがたのしみです!

2024.04.27 みすたぁ・ゆー

 コメントありがとうございますっ!!

 お楽しみいただけて嬉しいです! 完結まで毎日更新予定(私が更新を忘れなければ……)ですので、またお時間のある時にでもぜひぜひご覧くださいっ!

解除

あなたにおすすめの小説

わたしの船 ~魔術整備師シルフィの往く航路(みち)~

みすたぁ・ゆー
ファンタジー
【メカ好きボーイッシュ少女の渡し船。あなたの心へ向けて出航します!】  17歳の少女・シルフィは魔術整備師および操舵手として、渡し船を運航するソレイユ水運に勤務している。  船の動力は魔鉱石から抽出した魔法力をエネルギー源とする魔導エンジン。その力でスクリューを動かし、推進力へと変換しているのだ。  だが、それは魔法力がない者でも容易に扱える反面、『とある欠点』も抱えている。魔術整備師は整備魔法を使用した『魔術整備』を駆使し、そうした機械を整備する役割を担っている。  ただし、シルフィに関しては魔術整備だけに留まらない。物理的にパーツを分解して整備する前時代的な『工学整備』の重要性も認識しており、それゆえに個人の趣味として機械と戯れる日々を送っている。  なお、彼女が暮らしているのはレイナ川の中流域にあるリバーポリス市。隣国との国境が近い防衛の要衝であり、それゆえに川への架橋は認められていない。右岸と左岸を結ぶのは渡し船だけとなっている。  ある日、その町に貴族の血筋だという12歳の少年・ディックが引っ越してくる。シルフィはソレイユ水運のイケメン若社長・フォレスとともに彼の昼食に同席することになり、それをきっかけに交流が始まる。  そして彼女は満月の夜、大きな事件の渦中に巻き込まれていくこととなる――     ※タイトルの『わたしの船』は『渡しの船』と『私の船』のダブル・ミーニングです。 【第1航路(全19話)/完結】 【第2航路(全39話)/完結】  第3航路以降は未制作のため、一旦はここで『完結』の扱いとさせていただきます。投稿再開の際に執筆状態を『連載中』へ戻しますので、ご承知おきください。  ――なお、皆様からの応援や反応が多ければ投稿時期が早まるかも!?  

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~

青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。 ※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。