46 / 97
第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)
第4-2節:似た者同士
しおりを挟むその後、私はリカルド様を部屋に招き入れると隣り合わせで椅子に座って、視察で気が付いたことを打ち明けた。特にフィルザードの地下に豊富な水が存在するであろうということや、水路についてのことを中心に――。
そして彼は私の話を聞き終えると、腕組みをしながら低く唸る。
「なるほど、シャロンはフィルザードに水路を引こうと考えているわけか。難しいような気はするがな。フィルザード家の過去の当主がその事業に手を付けていないわけだからな。今まで誰も考えつかなかったとも思えんし」
「だからこそ、実現可能性を探るためにも地形をしっかり確認したいのです。地図を拝見することをお許しいただけませんか?」
「…………。……それはダメだ。ジョセフにまた叱られたいのか?」
「う……」
瞬時に私の頭の中にジョセフさんの激怒する顔が浮かんだ。
あの時の反応を思い返してみる限り、当面は彼の前で地図の話題を口にしない方がいいのは事実。一方、リカルド様にも私に地図を見せようとしてくれる気配はない。
ジョセフさんにあれだけ強く止められたわけだから、その反応も無理はないか……。
落胆して私が沈黙したまま俯いていると、リカルド様は涼しい顔をして立ち上がる。そして静かに私を見下ろしてくる。
「話はそれだけのようだな。では、今度は僕の用事に付き合ってもらおうか。シャロン、一緒に来てくれ」
「えっ? あ……はい……」
それは全く想定していなかったことだけど、相談を受けてもらったという恩義もあって、私はリカルド様の申し出に素直に従うことにした。当然、どこへ行こうとしているのかも、どういう意図があるのかも分からない。
こうして当惑しつつも私はリカルド様に手を引かれ、彼の持つランプの淡い灯りを頼りに暗い廊下を進んでいく。
響き渡る小さな足音と埃臭さが漂うひんやりとした空気。少し不気味な雰囲気があって、ゴーストでも出そうな感じがする。でもだからこそふたりだけで冒険でもしているような気がして、気分が少しだけ高揚する。
冒険……か……。
もし私たちが違う世界に生まれたとして、例えば勇者と姫として出会ったら、こんな感じでお城の中を探索するのかな? それはそれでちょっと素敵かも……。
そんなことを思いつつ歩き続け、私たちが最終的に辿り着いたのは執務室。彼はそのドアの前で立ち止まり、ポケットから銀色に輝く金属製のカギを取り出して施錠を解く。
「実は昼間、僕の机に忘れ物をしてしまってな。取りに来たのだ」
「ふふっ、もしかして夜にひとりでここへ来るのが怖かったのですか?」
「あははっ、そうかもな。僕は色々な意味で臆病者だからな。――でもキミと一緒だと全然怖くない」
「っ!? も、もうっ、リカルド様ったら!」
またしても冗談めいたことを言うリカルド様に、私は照れつつも頬を膨らませる。
でもそれに対して彼はさっきと違っていつになく真剣な表情になり、私を真っ直ぐ見つめる。月明かりに照らされて輝くその瞳には神秘的な美しさが漂っていて、私は思わずドキッとする。
「これは僕の本当の想いだ。キミと一緒にいると心が落ち着いて、どんな困難も打ち破れそうな勇気が湧いてくる。出会って間もないというのに、不思議なものだな」
「リカルド様……。はい、私も同じ気持ちです。実は先ほどあなたが私の部屋にいらっしゃってお顔を拝見した瞬間、すごく心が安らぎました。似た者同士ですね、私たち」
「似た者同士、か……。そうかもな、僕たちは似ているのかもしれない。それにそう言ってもらえると、なんだか嬉しい。ありがとう、シャロン」
その時に見せたリカルド様の笑顔は幼い少年のように屈託がなくて、実に印象的だった。
そして彼にはまだまだ私の知らない魅力があるのだとあらためて気付かされ、もっともっと知りたいと強く思うのだった。
(つづく……)
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる