嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
4 / 178
第1幕:前向き少女の行進曲(マーチ)

第1-4節:苦渋の選択

しおりを挟む
  
 確かに王都で悠々自適な生活を送っている貴族の娘なら、好き好んでそんな辺境へ行きたがるわけがない。娯楽も食べ物も乏しく、いざとなったら戦場になる。そんな場所へ嫁ごうものなら一生苦労するのは目に見えている。

 だからこそ王様にとって何の義理も面識もない、王族と血縁があるだけの『実質的には平民』である私が都合良いのだ。もちろん、これでは単なる政治の道具。人間として扱われていないに等しい。

 それを思うと、悔しさとともに怒りがこみ上げてくる。奥歯を噛み締め、拳を強く握り締める。唇がワナワナと震える。

 私は敵意を含んだ目でベインさんを睨み付ける。

「何もかも勝手に決められて貴族に嫁ぐなんて……。私の意思は完全に無視。このまま素直に受け入れられるわけありません!」

「もちろん、シャロン様には拒否権がございます。この話を破談にすることも可能です。ですがその場合、ツヴァイ殿――あなたの育てのお父上は、我らによって王都へ連行されて死罪となります」

「なっ!?」

 私の心臓は大きく脈動し、一瞬だけど止まりそうになった。全身から冷や汗が吹き出て、頭の中が真っ白になっていく。

 目を見開きながら呆然とベインさんに視線を向けると、彼はニタニタと怪しい笑みを浮かべている。まるで悪魔のような雰囲気――ううん、私にとってはまさに悪魔そのものだ。

「シャロン様を王様の意に反するような思想を持つ者に育てたのですから、ツヴァイ殿がその罪を負うのは当然でしょう。なお、抵抗する場合はどちらもその場で殺して構わないという命令も、王様から仰せつかっております」

「ひ、卑怯者っ! そんなのっ、拒否権がないのと同じじゃないですかっ!」

「いいえ、きちんと選択肢はシャロン様に示されております。王様の命令に従うか、それを拒否してツヴァイ殿が命をもって罪を償うか。決めるのはシャロン様自身です」

 怒りに満ちた私の抗議もどこ吹く風で、ベインさんは淡々と言い放つ。

 ここまで落ち着いているということは、もしかしたら私や父から何らかの反論をされることを最初から想定していたのかもしれない。受け答えがこんなにもすんなりと出来るという点からも、きっと色々と準備や対策をしてあるんだろう。

 ――何もかもこちら側が不利だ。まさに相手の手のひらで踊らされているような気分。思わず私は唇を噛む。

 そうか、王様にとっては私が『血縁だけの実質的な平民』というほかに、父を人質にしておけば私の裏切りや反抗の心配が少ないというメリットもあるのか……。

 もちろん、おそらく父と私が剣を手にして全力で戦えば、実力的にベインさんや外にいる兵士たちを一掃できると思う。どんな奥の手を隠しているか分からないから、確実じゃないけど。ただ、少なくともこの場から逃げ出すことは可能――。


 …………。


 ……いや、それは短絡的な行動だ。

 もしそんなことをすれば私たちは死ぬまで王国から追われる身となり、お尋ね者として賞金だってかけられるかもしれない。その末路は悲惨。精神を磨り減らしながらの毎日を過ごすことになって、安眠できる日は二度と来ない。

 となると、最も多くの人が平穏に済む選択はひとつ。悔しいけど、やはりそれを選ばざるを得ない。

 私は苦虫を噛みつぶすような想いを胸に秘めつつ、項垂うなだれながら声を漏らす。

「……分かりました。王様の命令に従います。私は辺境伯へんきょうはく家へ嫁入りします。だから父に危害を加えないでください。絶対に」

「承知しました。さすがシャロン様ですね。強い心と賢さを兼ね備えた女性に成長なさっておいでだ」

「くっ……」

「では、シャロン様。ツヴァイ殿との別れが済んだら馬車へおいでください。フィルザードへ向けて出発いたします。私は外でお待ちしています」

「えっ? そんなに急なことなんですかっ?」

「最低限の必要物資は我々の方で用意してあります。ただ、どうしても持っていきたいものがあれば、カバンひとつに収まる程度なら構いません。手短かにおまとめください」

 そう言い残すとベインさんは立ち上がり、家から出ていった。いくら無慈悲な彼でも、さすがに親子の最後の別れに水を差すようなことはしないらしい。


 …………。


 ……うん、最後の別れ。再会の時が来る可能性もゼロじゃないだろうけど、なんとなくこれっきりなってしまいそうな予感がする。

 私の勘は変なところで良く当たるから……。


 いつかは私も誰かのところへ嫁入りをするんだろうなとは思っていたけど、こんなに突然にその時がやってくるなんて想像もしなかった。だから心の準備なんか出来ているはずもないし、話しておきたいことだってたくさんある。

 でも私にはもう許されている時間がわずかしかない。だとすれば、感謝の気持ちを伝えることと別れの挨拶をすることだけはしておきたい。

 色々と意識したら、急に胸が締め付けられるような感じがしてくる。自然と涙があふれて、肩の震えが止まらない。最後は父に最高の笑顔を見せておきたいのに……。

 だから私は必死に笑みを作って言葉をひねり出す。

「さようなら、お父さん……。今まで本当に……ぐすっ……本当にありが……っ……とう……っ!」

「シャロンは私の自慢の娘だ。きっとうまくやっていける。そう信じている」

 父は私を優しく抱きしめてくれた。温かくて包み込むような強さがあって、でも幼い頃の記憶と比べるとちょっぴり小さくてはかなさもあるような――。

 この思い出を決して忘れないよう、私は強く脳内に刻み込んだ。


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界にお助けキャラとして転生したリリアン。 無事ヒロインを王太子とくっつけ、自身も幼馴染と結婚。子供や孫にも恵まれて幸せな生涯を閉じた……はずなのに。 目覚めると、何故か孫娘マリアンヌの中にいた。 マリアンヌは続編ゲームの悪役令嬢で第二王子の婚約者。 婚約者と仲の悪かったマリアンヌは、学園の階段から落ちたという。 その婚約者は中身がリリアンに変わった事に大喜びで……?!

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...