2 / 178
第1幕:前向き少女の行進曲(マーチ)
第1-2節:不穏な空気と明かされた秘密
しおりを挟む「ふぅっ……」
静けさが戻った部屋の中、私は椅子を窓際に移動させ、そこに座って外の景色を眺めながら風に当たった。柔らかで優しい感触が肌を撫で、ひとつ結びにした焦げ茶色の髪を揺らしていく。
こんな平和で穏やかな時間がずっと続いたらいいな……。
でもそんなことを思っていた直後のことだった。私の家へと続く道の奥に不穏な影が現れ、こちらへ近付いてくる。
剣や金属鎧を身につけた十数人の兵士。中には馬に乗っている者もいる。さらにその隊列の中央には馬車もあるようだ。その物々しい雰囲気から察するに、貴族とかどこかの組織の偉い人でも乗っているのかもしれない。
確かなのは、そのいずれも見慣れない人たちだということ――。
私の住んでいる村や近隣の町では見ない格好の兵士だし、この土地のご領主様は滅多に遠出をしないことで有名でもある。しかも領地の端にある、こんな閑散とした村を訪れるとは考えにくい。
そもそも彼らは何の目的があってここへやってきたのだろう? 用事があるとしたら、私の家としか考えられないんだけど。だってこの道はここで行き止まりだから。背後にある森や山に入るという感じでもないし。
でももし連行されるにしても、私には何も心当たりがない。同居している年老いた父だって誠実で優しい性格で、村のみんなにも慕われている。トラブルとは無縁の存在だ。
何もかも分からないまま、当惑する私。妙な胸騒ぎだけが私の心を支配していく。
やがて彼らは私の家の前で立ち止まり、先頭の馬に乗っていたリーダーらしき兵士がドアへ近付いた。そしてノック音が響いたあと、父が彼を室内へ迎え入れる。なお、ほかの兵士たちはその場で待機したままでいる。
その後は特に目立った動きがなく、1階から大きな物音がするということもなかった。つまり穏便に事が運んでいるというか、冷静に会話をしている感じなのだろう。ただ、聞き耳を立ててみても、ふたりとも声が小さすぎて何も判別できない。
だからこそ、私はどうすればいいのか分からないし、気持ちの整理も付かないままとなる。ヤキモキしながら部屋の中を彷徨くだけ――。
「シャロン。話があるから降りてきなさい」
そんな中、しばらくして下から私を呼ぶ父の声が聞こえてきた。ようやく何か分かると思い、私は即座に部屋を飛び出して階段を下りていく。
すると1階のリビングではテーブルを挟んで父と兵士が椅子に座っていて、私が姿を現すなり、どちらも神妙な面持ちでこちらへ視線を向けた。そして私は父の隣に座るよう促され、その通りにする。
…………。
その場にはなんとも張り詰めた空気が漂っていて居心地が悪い。
私は俯いたまま強く口を閉ざし、テーブルの下で両手を握り締めて必死に心を落ち着かせる。直後、この沈黙を破って父が私を真っ直ぐに見つめながら話を始める。
「シャロン――いや、シャロン様に真実をお伝えする時が参りました」
「……っ……!? ど、どうしたの、お父さん。その堅苦しい口調は何かの冗談?」
「これは決して戯れではありません。どうかしっかりとお聞きください」
いつもと雰囲気が違う父。その目は強く鋭く見開かれ、兵士や役人のような威圧感がある。まるで別人が乗り移っているかのようで、普段の温かくて優しい父の姿が完全に消え失せてしまっている。
その言葉と空気に私はショックを受け、愕然としてしまった。心臓の鼓動は瞬時に早くなり、呼吸も苦しくなってくる。
そもそもシャロン“様”って何? 自分の娘に対して敬称を付けるなんてあり得ないし、少なくとも父が今までにそんなことをした覚えはない。何もかも嫌な予感しかしない。
「お、お父さん……。そんな他人行儀みたいな呼び方や喋り方はやめてよ。いつものようにしてよ」
私は真っ青になって震えながら父をすがるように見る。もしかしたら自覚していないだけで瞳には涙が浮かんでいたかもしれない。
すると不意に父は表情を崩して苦笑いを浮かべ、頭を指で掻く。
「ははは、そうさせてもらおう。いくらシャロンが王族の血筋といっても、10年以上もこの手で育ててきたのだからな。もはや実の親子のようなもの。さすがに違和感があるし、その程度の無礼なら誰も私を咎めはせんだろう」
「っ!? 私が王族の血筋っ?」
「シャロン、お前の本当の父親はこのイリシオン王国の先代の王であらせられるシュティール様なのだ。その10人の王子や王女のうち、シャロンは末子に当たる。つまり現・国王陛下のギル様は腹違いではあるが、血縁上では長兄ということになるな」
「う、嘘でしょ……」
突拍子もないことを伝えられ、私は思わず言葉を失う。何の感情も浮かばない。
普通なら自分が王族だったということに歓喜したり驚愕したりするのかもしれないけど、そういうのが全くない。まさに他人事のような印象さえ受ける。
「ただし、庶出ゆえに王位継承権はないがな。シャロンの母親はご正室であるベルカ様の侍女だった。ゆえにベルカ様はお前たち母娘を快く思っておらなくてな。本来であればふたりとも処刑されるところ、城を出てひっそり暮らすことを条件に死罪を免れたのだ」
「じゃ、私のお母さんは今もどこかで生きて――」
「産後の肥立ちが悪く、シャロンを生んで間もなく亡くなった」
重苦しい言葉が父の口から突いて出た。母は私の幼い頃に亡くなったと聞かされて育ってきたけど、それだけは事実だったということか。
(つづく……)
12
あなたにおすすめの小説
異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。
和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……?
しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし!
危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。
彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。
頼む騎士様、どうか私を保護してください!
あれ、でもこの人なんか怖くない?
心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……?
どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ!
人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける!
……うん、詰んだ。
★「小説家になろう」先行投稿中です★
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?
冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界にお助けキャラとして転生したリリアン。
無事ヒロインを王太子とくっつけ、自身も幼馴染と結婚。子供や孫にも恵まれて幸せな生涯を閉じた……はずなのに。
目覚めると、何故か孫娘マリアンヌの中にいた。
マリアンヌは続編ゲームの悪役令嬢で第二王子の婚約者。
婚約者と仲の悪かったマリアンヌは、学園の階段から落ちたという。
その婚約者は中身がリリアンに変わった事に大喜びで……?!
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる