4 / 5
ツライけど、彼女とは会えない……
しおりを挟む翌日から俺は毎日のように狩刈ジムへ通うようになった。中には雨の日もあったけど、その時は何時間かに1本しかない路線バスに乗って移動。また、帰りは狩刈さんや常連の皆様の誰かが軽トラで送ってくれたことが何度もある。
結果、春休みが終わる頃には狩刈さんや常連の皆様とすっかり仲良くなり、福夜さんとは心の距離が大きく縮まったのだった。
特に福夜さんは自分の作ったケーキやお菓子を俺が美味しそうに食べるのを見るのが好きなようで、いつも嬉しそうにしながら見つめていてくれる。時には狩刈さんに内緒でお菓子を持ってきてくれることもあって、俺としても幸せすぎて夢見心地だ。
ちなみに偶然にも福夜さんは俺と同い年で、しかも今月から通い始める高校まで同じだということが判明し、なんというか運命的なものを感じてしまった。俺の自惚れかな……?
一方、俺としてはちょっと心に引っかかっていることがあるというか、このままじゃいけないと思っていることもある。
それはここ最近、筋肉を鍛えられていないということ。それどころか狩刈ジムでは常連の皆様と遊んだり、福夜さんのお菓子を食べたりしてばかりで、むしろ春休み前よりも太ってしまった。
短期間でこの増え方はさすがにヤバイ。せっかく華麗な高校デビューを計画していたのに、それが台無しになってしまいかねない。もちろん、夏服の季節になるまでは肥えたボディでも目立たないから、今からがんばればまだ間に合う。
だから今後は福夜さんの作ってくれたお菓子を控えなければならない。そのことを伝えなければならないのは気が退けるし、つらいけど……。
そして明日は高校の入学式。遅刻しないように、今日はいつもより少し早めに狩刈ジムを出て帰宅しようとする。
「向井くん、帰るの? 近くまで付き合うよ」
「うん、ありがと」
俺は福夜さんと一緒に狩刈ジムを出た。そして俺は自転車を手で押しながら、福夜さんと並んで国道を歩いていく。
夕陽は遠くの山に半分くらい沈んでいて、辺りの田んぼも車が行き交う車道も何もかもが茜色に染まっている。もちろん、隣を歩く福夜さんの綺麗な横顔も。
こんなに可愛くて性格も良い子が俺の隣を歩いているなんて、今でも信じられない。夢じゃないかと思う。本当に縁って不思議だ。
そんなことを思いながらじっと見つめていると不意に彼女がこちらを向き、俺は慌てて視線を逸らす。すると福夜さんはクスッと頬を緩めながら『どうしたの?』と声をかけてくる。
それに対して俺は必死に平静を装って前を向いたまま『別に……』と答え、それっきり黙って歩いていく。
それからしばらくして、ポツリと福夜さんが話し始める。
「向井くんが来るようになって、常連客のみんなが今まで以上に元気になったよ」
「まぁ、みんな良くしてくれるし、御礼を言いたいのは俺の方だけどね」
「じゃ、WIN-WINでいいんじゃない?」
「そうだね。福夜さんの作ったケーキやお菓子も美味しいし」
「あはは、そう言ってもらえると嬉しいな。じゃ、私も含めるとWIN-WIN-WINだ」
本当に福夜さんは楽しげだ。だからこそ、例の話を切り出すのが余計に苦しい。でもこのまま有耶無耶にし続けることは出来ない。
俺は足を止め、意を決して口を開く。
「俺、しばらく狩刈ジムへ行くのをやめようと思うんだ」
「……えっ? な、なんでっ?」
途端に福夜さんの顔が曇り、今にも泣き出しそうな瞳になる。
(つづく……)
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。


極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?


白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。


好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる