ジムに通ったら筋肉じゃなくて脂肪が付いて、なぜか可愛い彼女が出来ました

みすたぁ・ゆー

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大丈夫なのかな……この店……

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 ちくしょ、俺の勘違いだったのか。こんなド田舎にジムが出来たなんておかしいと思ったんだ。冷静に考えれば、経営が成り立つほど会員が集まるわけないし。

 あるいは工務店のおじさんが勘違いしていたのか、はたまた嘘をつかれたのか。



 ――いや、他人ひとを疑うのは良くない。事実がどうであれ、俺が勘違いしたということにしておこう。

 いずれにしてもこのままだと狩刈さんは駐在さんに電話してしまう可能性があるので、気まずいながらも事情を説明しておくことにする。

「実は俺、体を鍛えるジムだと思ってここに来ちゃいました……」

「っ!? おぉっ、なんだそういうことだったか! どうりで話が噛み合わないわけだ! はっはっは! でも安心せい。あっちに鉄アレイがあるから自由に使っていいぞ。使用料だって取らんし」

 狩刈さんは入れ歯が飛び出してしまうのではないかというくらいに大笑いしながら、俺の肩をバンバンと叩いた。入れ歯かどうかは知らないので、あくまでも比喩表現だけど。

 でも誤解が解けた一方で、今度は疑問が浮かび上がってくる。

「……な、なんで事務機の販売店に鉄アレイがあるんですか?」

「この店は地域の憩いの場としての役割も担っていてな。あっちのテーブルでは将棋や囲碁、雀卓では麻雀が無料で楽しめるんだよ。もちろん、カネを賭けるのは御法度だけどな――表向きは」

「へっ? 表向き?」

「あっ!? い、いやいやなんでもないッ! 遊ぶだけ、遊ぶだけっ!」

 狩刈さんは焦りながら手と首を激しく横に振っている。まさか違法なことを実際にしているのだろうか。



 …………。

 ……反応を見る限り、賭博行為をしてそうだけどね。まぁ、趣味でやっている範囲なんだろうし、俺は警察官じゃないから告発するなんて野暮なことはしないけどさ。

 俺は心の中で深いため息をつき、眉を曇らせる。

「深く追求はしませんけど、もし賭け事をしている時に駐在さんが見回りに来たらどうするんです? 大変なことになりますよ?」

「ま、あいつもたまに参加し――おっと」

 狩刈さんは慌てて手で口を塞いだ。あまりにもベタな行動で、もしかしてわざとやっているんじゃないかという気さえする。


 だ、大丈夫なのかな……この店……。


 それに駐在さんまでグルってことは、この地域の治安も心配になってくる。やれやれ……。

「あとは地域の子どもたちが災害や犯罪などに巻き込まれそうになった時、ここは避難場所としても指定されているんだよ。そういうわけで色々なものが揃えてあるというわけさ。腹が減ったらパンや菓子を買うことが出来るし、軽食も安価で提供してる」

「そ、そうなんですか……」

「兄ちゃん、せっかく来たんだから鉄アレイで鍛えていきなよ。もうすぐ近所の年寄り連中も集まってくる時間だしさ、兄ちゃんのような若者がいると話のタネになるしみんな喜ぶよ」

「で、では、せっかくなので使わせていただきます」

「長居していって良いからな。喉が渇いたら茶や水ならタダだから、セルフサービスで自由に飲んでいいぞ。ジュース類は店の外に自販機があるから、そこで買ってくれ。夏でもおしるこやコーンスープ、甘酒なんかを用意してある」

「わ、分かりました……」

 こうして俺は鉄アレイを使わせてもらい、フロアの隅で黙々と筋肉を鍛えていた。



 そしてそれから20分くらいして地域のお爺さんやお婆さんたちがゾロゾロと集まってきて、井戸端会議や囲碁、将棋、麻雀、食事、居眠りなど思い思いに過ごし始める。地域の憩いの場というのはまんざらでもなさそうだ。

 ……なんというか、こういう場所で地域の情報が交換・拡散されていくんだろうな。お互い様の精神で助かることも多いけど、プライベートなんてあったもんじゃない。


(つづく……)
 
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