夏場にトレンチコートを着て深夜の公園をウロウロしていたら、職務質問をされて警察官十人以上に囲まれた件

みすたぁ・ゆー

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事件の結末やいかに!?

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 そんな感じで俺が困惑していると、業を煮やしたように古賀さんが目の前に小袋を突き出して言い放つ。

「これっ、何っ?」

「えーと、その、名前を忘れちゃいました。なんだったっけな……」

「覚醒剤? 合成麻薬? コカイン?」

「だから薬物なんかじゃないって言ってるじゃないですか! えーと、あ、そうだっ! 経口補水液だ。経口補水液パウダー。汗をかいたあとに水分補給をする時、自動販売機で冷たい水を買ってそこに入れて飲むんです」

 それを聞き、古賀さんは白い目で俺を見ながら『ふーん』という相槌を打つ。その雰囲気では俺の言葉を全く信じていない感じだ。

 周りの警察官たちも同様。それどころか警察官同士でヒソヒソと何かを話したり無線でどこかへ連絡しようとしたりしている。

「じゃ、確認のために試薬で調べさせてもらってもいいよね?」

「もちろんです。気の済むまで調べてください」

「そうさせてもらうよ。今から担当の警察官を呼ぶから」

 その後、俺の周りにはさらに警察官が呼び集められ、すっかり周りを囲まれてしまった。

 その包囲網はどうあっても逃げ出せないほどで、もし強引に突破しようものなら体が当たって公務執行妨害罪の現行犯で逮捕。問答無用で警察署へ連行され、少なくとも今夜はそちらで外泊ということになってしまう。だからこの場はおとなしくしていることにする。

 やがて麻薬捜査担当と思われる数人の警察官が何かの道具を持って到着し、俺の持っていた白い粉を調べ始めた。そして結果はすぐに出る。


 ――当然、麻薬の反応はなし。


 そりゃそうだ、正真正銘の経口補水液パウダーなんだから。でも何人かの警察官たちは顔を見合わせ、どことなくガッカリしているような複雑な表情を浮かべている。

 いやいや、俺を犯罪者にしたかったのかよ? そこは反応が出なくてホッとするところだろ! 俺なんか大丈夫だと分かっていながらも『もし反応が出ちゃったらどうしよう?』ってビクビクして、それこそおしっこが漏れそうになっちゃってたんだぞ!

 ……あ、おしっこといえばそれも採取され、薬物反応は陰性という検査結果が出ている。



 こうしてようやく俺に対する疑いは全て晴れ、集まっていた警察官たちはパラパラと解散していったのだった。

 最後に古賀さんと高浦さんがその場に残り、申し訳なさそうな顔をしながら俺に向かってペコペコと頭を下げてくる。すっかり平身低頭の姿勢だ。

「いやぁ、ご協力ありがとうございました。ただ、もう夜遅いからそろそろ家に帰るようにね。交通事故に気を付けてね」

 ふたりは停めていた自転車にまたがると、逃げるようにどこかへ去っていってしまった。その後ろ姿を俺は見えなくなるまで見送り、それでようやくその場に平和と沈黙が戻る。

 ただ、もはやジョギングをする時間はない。それどころか早く家に帰らないと朝に起きられなかったり、疲労が残ったりする可能性がある。急いで帰らねば……。

 なんだか今夜は大して走っていないのにすごく疲れを感じて、それがドッと押し寄せてきたような気がする。ゆえに俺はやれやれと肩を落とし、つま先を自宅の方角へ向けようとする。

 ――でもその時、ふと背後に人の気配を感じた俺は何気なく振り返ってみる。





「……え?」

 そこには俺が手に持っているのと同じようなトレンチコートを着た、30代くらいの男が立っていた。

 痩せ形で唇が太くて、脂っこい感じの髪の毛は無造作に肩まで伸びていてあまり清潔感は感じられない。無精ひげも生え放題だ。

 その男はニタリと気色の悪い笑みを浮かべつつ、コートの前側の部分を両手で握ってように押さえている。つまりボタンは留められていないということだろう。

 そしてさらに視線を落としていくと、トレンチコートの下の部分から生足が伸びている。

 状況が全く理解できない俺はポカンとしてその場に立ちつくし、視線は男に釘付けになったまま。


 次の瞬間、目の前で起きた出来事は――。


(おしまいっ!)
 
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