夏場にトレンチコートを着て深夜の公園をウロウロしていたら、職務質問をされて警察官十人以上に囲まれた件

みすたぁ・ゆー

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ポケットから出てきた『白い粉』

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 もちろん、さっさと話して持ち物検査も受け入れればすんなり終わるのは分かってる。

 でも古賀さんの態度を見ていると俺に対するリスペクトが感じられなくて、素直に聞きたくなかったんだ。

 事実、古賀さんはやれやれと深い溜息をつき、本性とおぼしき腐った魚のような目を俺に向けてくる。

「実は最近、この近所で夜に下半身を露出するヤツが出没するらしくてさ。それでお兄さんの格好を見た近所の人から通報があってパトロールに来たってワケ」

「やっぱり俺のこと、疑ってるんですね」

「何もないならさ、名前を教えてよ。持ち物検査もさせてよ。協力して、ねっ?」

 俺たちの話はいつまで経っても平行線のままで、埒が明かなそうだ。

 一方、このタイミングでパトカーが新たに2台到着して、中から応援の警察官がふたりずつ、計4人が降りてこちらにやってくる。

 暗闇の中で周囲を照らす複数の回転赤色灯。なんだか大ごとになってきた。近所の住民は窓から顔を出したり外へ出てきたり、さらに通行人がこちらを訝しげに見ている。
 
 このままだとさらに目立ってしまう。それは俺としても困るので、今回は仕方なく古賀さんの要求を受け入れることにする。

「……分かりました。名前は片平薬王。16歳。通っている学校は市立谷場井やばい高校。これでいいでしょ。身分証明書は持ってませんけど、調べて照会すれば嘘じゃないって分かるはずです」

「ありがとう、片平くんね。じゃ、まずはトレンチコートを脱いでもらえる? そのあと服を手で触って持ち物を調べさせてもらうから」

「仕方ないですね。でも股間とかお尻は優しく触ってくださいよ。感じちゃったら困るので」

「ははは……」

 古賀さんは当惑したような表情で微苦笑を浮かべていた。

 せっかく少しでも空気を和らげようと思って俺は冗談を言ったのに、なんとも薄い反応だ。大笑いするとかツッコミを入れるとか、もう少し明確に反応してほしいものだ。

 その後、俺はトレンチコートを脱ぎ、それを隣にいた高浦さんに手渡した。彼がトレンチコートを調べる担当らしい。

 そしてスポーツウェア姿をふたりに見せつけ、口を尖らせながら愚痴る。

「ほら、トレンチコートの下にはちゃんとスポーツウェアを着てるでしょ? 継ぎ接ぎだらけで恥ずかしいから脱ぎたくなかったんですよ」

「そういうことだったのかぁ。でも暗いからみんなそのことに気付かないだろうし、そんなにジロジロ見ないんじゃない」

「……あっ! そ、そっスね」

 高浦さんに言われて初めて気付いた。

 確かにその通りかもしれない。自宅で着替える時は部屋が明るいから継ぎ接ぎが目立っていたけど、こうしてここで見てみるとそんなことはほとんど分からない。それこそ距離が何メートルか離れたら判別はほぼ不可能だ。俺はあらためて納得して大きく頷く。

 一方、その間に古賀さんは俺の体を両手でポンポンと軽く叩きながら持ち物検査をしていく。

 すると程なくポケットの辺りを叩いたところで彼の動きが止まり、わずかに首を傾げる。

「あれ? ポケットに何か入ってるね? 取り出してもいい?」

「どうぞ、ご自由に」

 それを聞くや否や古賀さんはポケットに手を突っ込んだ。俺としてはその行為がちょっとくすぐったい。

 そして彼は中から何かを取り出してそれに視線を向けると、大きく息を飲む。途端に表情が強張り、俺をタカのような鋭い目つきで睨み付けてくる。

「この透明な小袋パケ、中に入ってる白い粉は何?」

「もしかして麻薬とでも思ってるんですか? 違いますよ」

「じゃ、これは何? 自分の口で言って」

 古賀さんはすっかり責めるような強い口調に変わっている。高浦さんや周りにいたほかの警察官たちも一様に俺を冷たい視線で睨んでいて、みんな雰囲気が怖い。空気はピリピリとしていて居心地もすこぶる悪い。

 さらに警察官のひとりがパトカーの方に走っていって、どこかに何かの連絡をしようとしている。まさかまだほかにも警察関係者を呼び寄せようとしているのだろうか?


(つづく……)
 
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