夏場にトレンチコートを着て深夜の公園をウロウロしていたら、職務質問をされて警察官十人以上に囲まれた件

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
上 下
3 / 4

ポケットから出てきた『白い粉』

しおりを挟む
 
 もちろん、さっさと話して持ち物検査も受け入れればすんなり終わるのは分かってる。

 でも古賀さんの態度を見ていると俺に対するリスペクトが感じられなくて、素直に聞きたくなかったんだ。

 事実、古賀さんはやれやれと深い溜息をつき、本性とおぼしき腐った魚のような目を俺に向けてくる。

「実は最近、この近所で夜に下半身を露出するヤツが出没するらしくてさ。それでお兄さんの格好を見た近所の人から通報があってパトロールに来たってワケ」

「やっぱり俺のこと、疑ってるんですね」

「何もないならさ、名前を教えてよ。持ち物検査もさせてよ。協力して、ねっ?」

 俺たちの話はいつまで経っても平行線のままで、埒が明かなそうだ。

 一方、このタイミングでパトカーが新たに2台到着して、中から応援の警察官がふたりずつ、計4人が降りてこちらにやってくる。

 暗闇の中で周囲を照らす複数の回転赤色灯。なんだか大ごとになってきた。近所の住民は窓から顔を出したり外へ出てきたり、さらに通行人がこちらを訝しげに見ている。
 
 このままだとさらに目立ってしまう。それは俺としても困るので、今回は仕方なく古賀さんの要求を受け入れることにする。

「……分かりました。名前は片平薬王。16歳。通っている学校は市立谷場井やばい高校。これでいいでしょ。身分証明書は持ってませんけど、調べて照会すれば嘘じゃないって分かるはずです」

「ありがとう、片平くんね。じゃ、まずはトレンチコートを脱いでもらえる? そのあと服を手で触って持ち物を調べさせてもらうから」

「仕方ないですね。でも股間とかお尻は優しく触ってくださいよ。感じちゃったら困るので」

「ははは……」

 古賀さんは当惑したような表情で微苦笑を浮かべていた。

 せっかく少しでも空気を和らげようと思って俺は冗談を言ったのに、なんとも薄い反応だ。大笑いするとかツッコミを入れるとか、もう少し明確に反応してほしいものだ。

 その後、俺はトレンチコートを脱ぎ、それを隣にいた高浦さんに手渡した。彼がトレンチコートを調べる担当らしい。

 そしてスポーツウェア姿をふたりに見せつけ、口を尖らせながら愚痴る。

「ほら、トレンチコートの下にはちゃんとスポーツウェアを着てるでしょ? 継ぎ接ぎだらけで恥ずかしいから脱ぎたくなかったんですよ」

「そういうことだったのかぁ。でも暗いからみんなそのことに気付かないだろうし、そんなにジロジロ見ないんじゃない」

「……あっ! そ、そっスね」

 高浦さんに言われて初めて気付いた。

 確かにその通りかもしれない。自宅で着替える時は部屋が明るいから継ぎ接ぎが目立っていたけど、こうしてここで見てみるとそんなことはほとんど分からない。それこそ距離が何メートルか離れたら判別はほぼ不可能だ。俺はあらためて納得して大きく頷く。

 一方、その間に古賀さんは俺の体を両手でポンポンと軽く叩きながら持ち物検査をしていく。

 すると程なくポケットの辺りを叩いたところで彼の動きが止まり、わずかに首を傾げる。

「あれ? ポケットに何か入ってるね? 取り出してもいい?」

「どうぞ、ご自由に」

 それを聞くや否や古賀さんはポケットに手を突っ込んだ。俺としてはその行為がちょっとくすぐったい。

 そして彼は中から何かを取り出してそれに視線を向けると、大きく息を飲む。途端に表情が強張り、俺をタカのような鋭い目つきで睨み付けてくる。

「この透明な小袋パケ、中に入ってる白い粉は何?」

「もしかして麻薬とでも思ってるんですか? 違いますよ」

「じゃ、これは何? 自分の口で言って」

 古賀さんはすっかり責めるような強い口調に変わっている。高浦さんや周りにいたほかの警察官たちも一様に俺を冷たい視線で睨んでいて、みんな雰囲気が怖い。空気はピリピリとしていて居心地もすこぶる悪い。

 さらに警察官のひとりがパトカーの方に走っていって、どこかに何かの連絡をしようとしている。まさかまだほかにも警察関係者を呼び寄せようとしているのだろうか?


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

フリー声劇台本〜モーリスハウスシリーズ〜

摩訶子
キャラ文芸
声劇アプリ「ボイコネ」で公開していた台本の中から、寄宿学校のとある学生寮『モーリスハウス』を舞台にした作品群をこちらにまとめます。 どなたでも自由にご使用OKですが、初めに「シナリオのご使用について」を必ずお読みくださいm(*_ _)m

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり
ミステリー
 刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。  それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。  ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。  警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。  事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。

処理中です...