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起死回生のグッドアイデア!!

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 すかさず俺は涙を拭き、スマホを手にとって通話に出る。幸いなことに、直前に大泣きしたおかげで精神は少しだけ落ち着きを取り戻せている。

「……九郎か、どうした?」

『おぉ、奔太《ほんた》。実はオレ、先週からバイトを始めたんだ。土曜と日曜だけだけどな。まだそれを伝えてなかったなぁって思い出してさ』

「そうなんだ。じゃ、冷やかしに行ってやるからバイト先を教えろよ」

『駅前にネットカフェやゲームセンターが入ってる雑居ビルがあるだろ? そこの地下1階の本屋だよ』

「あぁ、あそこか……」

 場所を聞いて俺はその景色がすぐに目に浮かんだ。

 駅の西口から徒歩1分、ウナギの寝床みたいに間口が狭くて奥行きが広いビルだ。築年数は少なくとも20年くらいありそうで、当然ながら外観には経年による汚れがこびりついている。内部もあちこちに傷みがあって、少しホコリ臭い。

 そして地上5階+地下1階のそれぞれに異なったテナントが入居している。

 そのうち、地下1階には主にマンガやラノベ、同人誌、キャラクターグッズなどを扱っている本屋が入っていて、市内の中高生や大きなお友だちはもちろん、周辺地域からも客が集まってきている。

 なんというか、この地域におけるマニアの拠点みたいな役割を持つ場所だった。



 …………。

 ……って、ちょっと待てよ? 確かあの店って……。

 俺は重大な事実を思い出し、興奮と驚きを理性でなんとか押さえ込みながら問いかける。

「おい、九郎! その本屋ってネット予約した同人誌の店舗受け取りサービスをやってたよなっ?」

『あぁ、やってるよ。それがどうした?』

「ふ……ふふふ……ふははははははっ! やはりそうか! 神は俺を見捨てなかった!」

『……お、おい、奔太。急に大笑いするなんて、変な電波でも受信したか?』

「九郎に頼みがある。実は――」

 俺はどうしても欲しい同人誌があることやそれをネット予約して店舗受け取りをしたいということなど、経緯を九郎に説明した。

 そして受け取りの際には九郎に対応してほしいということを伝える。

 店員が九郎なら俺もそんなに抵抗なく受け取りが出来る。それどころかやはり九郎とは趣味が合うのか、彼自身も俺が見つけた同人誌を欲しがり、すぐに予約を入れるという。

 こうして話は急転直下に解決の方向へと動いたのだった。

『奔太、その本が入荷したら連絡してやるよ。オレがシフトに入っている時間も一緒にな。ただ、土日は客が多いぞ。絶対に俺以外の誰かにも同人誌を手に取っている姿を見られてしまうはずだ。お前の性格だと店舗受け取りはハードルが高いんじゃないのか?』

「う……く……。そ、そこは勇気を絞り出してなんとかするさ……」

『おぉっ! 奔太も成長したな! よしっ、オレはお前が受け取りに来るのを楽しみに待ってるぞ!』

 その後、俺は目当ての同人誌を予約し、店舗受け取りの扱いで手続きを済ませたのだった。


(つづく……)
 
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