異世界八険伝

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明日への道

81.天界へ!

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(リンネさん、ウィズはどこに行きました?)

(あっ、どこに行ったんだろう?)

(……)

(レンさんが言うには、床に倒れたままどこかに転移したそうです)

(えっ!? そんなことが可能なの? って、実際にやってるわけだもんね……)

(かなりの重傷を与えていると思いますが、皆さんはなるべく早く魔界から出た方が良いですね)

(アイちゃん、決勝戦はどうしよう?)

(その点は心配無用です。リンネさん達はあくまで“代理”なので、優勝したときはリドを統一魔王とすることになっています。当然、優勝すると思っていましたので、申込時の契約に盛り込みました。魔王リドも知っているはずですよ)

(……)



 その夜、魔王食堂ではささやかな祝勝パーティが催された。

 参加したのは、ボク達のほか、新魔王リド、副王リズ、将軍ガラハドとその部下達、店員のフラムさん達、そして大会の司会を担当した、猫のミィ、兎のマロン、狐のフレイの3人だ。

 間近で見るアイドルにちょっと感動した!
 と言っても、魔人だけどね……。


 ウィズの動向を気にしつつも、ボク達は精一杯楽しむことが出来た。

『それにしても、メル殿は強かった! ぜひ妃に……』
「妃の方が強いと、尻に敷かれますよ?」
「でも、魔王メルちゃんというのも見てみたかったなぁ!」

 ボク達は、酒が入って暴走するリドを止める役回りを任されている。でも、ボクの余計な一言でメルちゃんのほっぺがぷっくりと膨らんでしまった……。レンちゃんとエクルちゃんが左右から突っついて遊んでいる。


『それで、明日のメルさんvsリンネさんの試合はなしで良いのですか?』

 明日の司会予定だった狐のフレイさんが、ボクの腕にくっつきながら訊いてきた。ボクはクルンちゃん命。他の狐に浮気しない……と心の中で誓ったけど、無理だった。モフラーの血が騒いでしまった。

「アイちゃん……えっと、ボク達の仲間の、すごく頭が良い子がね、ボク達が決勝戦を戦うより、司会の美少女3人がコンサートをした方が盛り上がるって言ってました」

『確かにその通りですねっ! お任せくださいっ!』
『しょうがないにょ、歌ってやってもいいにょ』
『マロンもミィも、失礼ですよ! 私達の仕事を忘れてはいけませんからね?』
『大丈夫にょ。この人間達はイイヒトにょ!』
『ミィっ!』

 ん?
 もしかして、ボク達のことを探りに来た?

 その時、フレイさんと目が合った。
 すると、諦めたように語り始めた。

『私達は……東の大神林から来ました』

「大神林って、魔神の森!? 」

『はい……魔神様は去られる前、魔界を救う者が現れたと喜んでおりました。私達は魔神様に与えられた使命を守らなければなりません。その為、あなた方のことを知りたくて、この仕事を……』
『魔界が侵略されるかもって思ったんですっ!』
『でも、違ったにょ。リンネ、メル、レンの3人は強くて優しかったにょ! あれ? もう1人忘れてるにょ?』

 あぁ……エクルちゃんが泣いた。

「ボク達は、魔族と人間が仲良く過ごせる世界を作りたい。リド達と一緒にね!」

『魔界は統一された! 今こそ作ろう、人間と魔族とが共存できる世界を! きっと出来るはずだ』

 いつの間にか、ボクの横に立っていたリドが、力強く宣言した。その瞳はとても優しく、威厳に満ちていた。



 ★☆★



「それで、どうしてこの狐が居るの?」

 ボクの腕にしがみつくフレイ……メルちゃん達が必死に引き剥がそうとしているけど、意外と力が強いようだ……タコのようにくっ付いて離れない。


 祝勝パーティはボク達の送別会も兼ねていた。

 たっぷり楽しみ、明日への希望を語り合い、別れを惜しまれつつグレートデスモス地境まで転移したボク達……なぜかそこに、フレイも一緒に付いてきていた。本人曰く、魔神に会いに行きたいらしいんだけど、なぜかボクにベッタリだ。

「まぁ、可愛いからいいかな……」
「「良くない!」」

『私は人間と魔族との架け橋になりたいのです。もしかして、リンネさんの仲間なのに、リンネさんの邪魔をするというのですか?』

「「……」」

 こういうことは、アイちゃんに任せよう。



 ★☆★



 グレートデスモス地境の最奥、空間の狭間から出たボク達は、リーンの笑顔で迎えられた。

『お母さん! 魔界での活躍、聞きましたよ!』

「え、あ……うん。活躍というか、1回戦と2回戦しか戦っていない気がするけどね」

 振り返ると、ボクって何も活躍してないような?
 メルちゃんとレンちゃんは魔王を倒したからね。

 あ、仲間がいた!
 エクルちゃんはボク以上に何もしてない!

『お母さん……聞こえてますよ』

 そっか、心が読めるんだった……。


『それで、その子が魔人フレイ?』

『あなたが秩序神リーン・ルナマリア様……。私、フレイは魔神様に生み出された最後の魔人……盟約に従い、リンネ様にお仕えいたします』

「えっ、ヴェローナ達の姉妹なの!? って、ボクに仕えるの!? 」

『はい! ミィは大神林の、マロンは魔王の……そして私はリンネ様の守護が使命です。魔人ウィズレイは未だに脅威! 私は、常にリンネ様をお守り申し上げます!』

「ありがと……」

 メルちゃんの目が怖い……。


『ところでお母さん。天界に行った黒と連絡が取れないのですが……』

「えっ!? 」

 確か5日前……A班のボク達が魔界、B班のアユナちゃんとサクラちゃんが天界、C班のアイちゃんとクルンちゃんがニューアルンで留守番、という班決めをしたはず。
 アユナちゃんがいくらドジな暴走天使でも、サクラちゃんが一緒なら大丈夫だと思っていたけど……。


(アイちゃん! アユナちゃん達って、まだ天界に居るの? 連絡は取れる?)

(リンネさん……実はずっと音信不通なのです……お疲れのところすみませんが、すぐに天界に向かってもらっていいですか?)

(うん、分かった!! )

「天界に行くことになった」

「『えっ!? 』」



 ニューアルンに転移したボク達は、アイちゃん達と再会した。

 時間はとっくに深夜に突入していたけど、全員が起きて待っていてくれた。

 意外というか、当然というか、必然というか、クルンちゃんはミルフェちゃんのおもちゃにされていた……。

「もう行っちゃうです? クルンを助けてくれないです? クルン、占ったですよ? リンネ様がいない間、何か嫌なことが起こりそうです……」

 つぶらな瞳で訴えかけてくるクルンちゃん。
 決して浮気をしていた訳じゃないんだ……もふもふ+ぷよぷよの魅力に負けただけなんだ!
 それにボクは行かないとだめだ……可愛い天使達が待っているから!
 本当にゴメン!!

「リンネさん、心の声が漏れてますよ……」

 あっ!
 今のは忘れて!

「クルンちゃんが占いで言っている“何か嫌なこと”ですが、心当たりがあります。わたしに任せてください」

「うん、分かった! アイちゃん、天界に行くメンバーはどうする?」

「リンネさんとミルフェ様が良いかと」

『私もお供します!』
「私も行きます」

 即答でフレイが名乗り出た……メルちゃんがスピードで負けた!

「フレイさん、でしたか? 天界は獣人族が立ち入れない聖域です。魔を包含する者もまた、入れません。入れるとしたら神のみ……。それと、メルちゃんは無理をしすぎです」

『「……」』

「大丈夫、すぐ帰ってくるから!」

 出来るだけ明るく言ってはみたけど、納得させられないか。何か決め手があれば……。

「2人とも、ちょっと耳を貸してください」

 アイちゃんが、メルちゃんとフレイを連れて部屋の片隅でナイショ話をしている。怪しい……。


「そういうことであれば我慢します」
『そうですね、私も今回だけは……』

 アイちゃん、何を言ったんだろう?


「おっ!? 」

 寝惚けたミルフェちゃんが抱き付いてきた。

「ミルフェちゃんとの旅はフィーネ迷宮以来だね、よろしくね!」

「リンネちゃん!! うん、一緒に天界を攻略しよう!」

 いや、迷宮とは違うと思うけど。
 それに、ミルフェちゃんは国王なのに……連れ出しちゃって良いのだろうか?

(リンネさん、クルンちゃんのもう1つの占いについては聞いていませんか? 桃色の髪の少女が天界を救うらしいんです。てっきりサクラちゃんのことかと思っていましたが……もしかしたら、ミルフェ様だったのかもしれません)

(聞いてない……天界って、魔界みたいに危険なの!? )

(わたしにも分かりません。ただ、“救う”ということは、何かと戦う可能性はありますね。リンネさんはとても強いですが、油断だけはしないように!)

(魔界ではちょっと消化不良気味だったし……って、戦わない方が嬉しいんだけど! でも、ありがと。必ず皆を連れて帰ってくるから!)

(はい! 約束ですからね!! )

 アイちゃんがボクに抱き付いてきた。珍しい。

 でも、よく考えたらまだ11歳なんだよね……。
 無理をさせすぎてる気がする。ボク達は頼りすぎてる気がする。
 早く帰ってきて、子どもらしく、皆でわいわい遊びたいね!

 ボクを抱きしめるアイちゃんの力が強くなった。
 鼻をすする音がした……。

「行ってくるよ! それで……天界ってどうやって行くの!? 」



 ★☆★



 結局、リーンの所に戻り、白の仮面さんを一時的に借りることになった。

 白の仮面さんは終始無言だ。
 音も立てずにすたすた歩いていく。

 ボクはミルフェちゃんと手を繋ぎ、白の仮面さんに導かれるまま、グレートデスモス地境の闇夜をひたすらついていく……。


 1時間ほど歩くと、地上へ出た。

 月明かりが照らし出す幻想的な風景。
 岩石砂漠に乱立する巨石群……イギリスのストーンヘンジ、いや、トルコのカッパドキアの方が近いかもしれない。


 地上を歩くこと約30分。

 足元に生い茂る丈の短い草の下、おぼろげな光を放つ巨大魔法陣があった。


 白い仮面がその中央で立ち止まる。

 ボクとミルフェちゃんは、恐る恐る魔法陣の中に歩み寄る。


 白い仮面が両手を真上に掲げると、足元の魔法陣が徐々にその輝きを増していく……。


 一瞬、まさに一瞬だった!

 地面が消失したような感覚。

 その後の浮遊感。
 お腹の中がスースーする変な感覚。

 例えるならば、高層タワーのエレベーターだ。
 それも、速いやつだ。

 ミルフェちゃんがボクのローブをぎゅっと掴む。


 もう白い仮面さんは居なかった……。
 ボクはミルフェちゃんの肩を叩く。

「大丈夫。見てごらん」

 恐怖で閉ざされていたミルフェちゃんの目が、ゆっくりと開いていく……。
 そして、強張っていた表情に、笑顔が一気に弾ける。

「うわぁ!! きれい!! 」


 そこに見えたのは、自然が織り成す最高傑作、神秘的な光景だった!


 天空に煌く星々の光が、眼下の水面に反射している。

 遠くに見える大草原では、風が吹き抜けるたびに光の波が踊るように舞っている。

 そして大気中では、雲を形成する細かい粒子が、ダイヤモンドダストのようにきらきらと輝いていた。



 神秘的な光景に見惚れていたボクの視界は、突然失われた。

 漆黒の闇、これは……空間の歪みか。


 そして数秒後、再び戻った視界で見たものは……。


「リンネちゃん……」

「うん……」
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