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激動のロンダルシア大陸
47.ティルス防衛戦2
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「アユナちゃん、水の準備は終わった?」
『ウンディーネ頑張ったんだよ!大丈夫!』
「メルさん、兵の配置は完了しました?」
「東西の城壁に護衛兵各350、冒険者の攻撃部隊各60、傭兵と志願兵の殲滅部隊各385を配置完了です」
「レンさん、補給も大丈夫そうですか?」
「うん、丸1日なら継戦可能だよ!」
「リンネさん、スノーとスカイには作戦を伝えてありますね?」
「うん、理解していると思う」
「南側の丘への転移の準備も?」
「隈無く歩き回ったから丘なら全部平気!」
「わたしの方も仕込みは万全です。皆さん、他に何か気になることはありますか?」
『本当に魔族は3つに分けて攻めてくるの?』
「魔族の主力はナーガです。飛行系でない以上はティルスの東西にある門を攻めるでしょう。ザッハルトの得意戦術は単純な力押しです。東西に各800体で攻め込ませて、自らは見晴らしの良い南の丘陵に300体程で陣取ると思います。ただ、分遣隊をいくつか作っているので、50体規模の小隊が厄介かもしれません」
「敵はナーガだけなの?」
「恐らく東西両軍にはナーガを指揮する将軍クラスがいます。推定レベルは50だと思ってください。勿論、南の本陣にもザッハルト以外に2体ほどは同級がいるでしょう。他に、100体毎にべリアル級のレベル40前後の部隊長がいるかもしれません」
「夜中だけど視界は平気?あたしは夜目で見えるけど、兵士達は大丈夫?」
「すぐに明るくなりますよ。因みに蛇族は熱センサーで敵を認知するようですね」
「その蛇族には弱点あるの?」
「雷や火魔法が弱点です。逆に水や土には強い耐性があります。目の構造上、光魔法で視力を奪うのは難しそうです。風や氷はメルさんからの報告ではダメージを与えていたそうです」
「リンネさん、マジックポーションはあと3つでしたよね?どのくらい倒せそうですか?」
「全力魔法が撃てて4回……今考えてるのは、ザッハルトに2回、東西の将軍クラスに1回ずつ。弱点属性だからもしかしたら倒せるけど、問題は闇の衣とボクが呼んでる黒いバリアみたいなの。多分、あれは魔法ダメージを半減させてる感じ。アユナちゃんの光魔法と一緒に撃つのが効果的だと思う」
『ならわたしはリンネちゃんと一緒に戦う!』
「そうですね、ボスクラスはリンネさんじゃないと倒せる気がしません。アユナちゃんをあげますので、お願いします!」
『やったー!貰われます!』
「アユナちゃん、自分の役割を分かってます?」
『あれでしょ?大丈夫よっ!任せてっ!』
「風向きは大丈夫かな?」
「今のところ山風、つまり北から南への風を予想していますよ。天気も大丈夫そうです」
「ナーガは魔法を使ってくるの?」
「魔力量からすると使いそうですが、今朝メルさんが戦ったときには使わなかったとか。気を付けるのは、水や毒……場合によっては毒霧にも。接近戦の際は念頭においてください」
ボク達は各部隊長と共に作戦を詰めながら夕食中だ。徐々に緊張感が増していく。逃げられない戦い、多くの命を背負った戦いだということが、さらなる緊張感を高めている。
「リンネ隊の皆さん、集合してください!」
「アイちゃん、その……リンネ隊は恥ずかしいよ」
「分かりやすくて良いと思いますよ?」
『うん、うん、何だかやる気出るし!』
「考えるの面倒だからあたしもそれでいいよ?」
「はいはい、我慢しますよ……」
ちょっと場に笑いが流れた?少しでも緊張が解けて良かった。ボクが生け贄になったけどね。
「リンネ隊の皆さん、配置確認です。
東門にメルさんとティルスの方々5人、西門にレンさんとわたし、アイが行きます。リンネさんとアユナちゃんは臨機応変に動いて下さい!皆さん、頑張りましょう!!」
「「「はい!」」」
今回、作戦全体はアイちゃんが考えてくれた。作戦通りにいけば勝てるかもしれないけど、数千同士がぶつかる戦争なんて初めてだし、正直凄く怖い。
アユナちゃんとアイちゃんのレベルはそれぞれ17と9に上がってた。けど、正直まだまだ魔族と戦える実力はない。ボクの魔法が当たらなかったら、効かなかったら皆が死んじゃうんだと考えると、震えが止まらない。
誰かとんでもない魔法で全部やっつけてよ!ウィズでも王国軍でも神様でも何でも構わない、とにかく誰かに、何かにすがり付いて全部任せてしまいたい!!誰か助けて!!
(リンネさん、心の声がだだ漏れですよ!というより、実はリンネさんの思考はわたしの中に常に流れてくるんです……魂が従属しているような感覚でしょうか)
(えっ!?うそ!凄く恥ずかしいんだけど!!)
(多分、全部じゃないですよ?わたし達のことを考えてくださるときだけかもしれません)
(そっか。今回の戦い、ボクが失敗したら皆が死んじゃうんじゃないかって考えてた)
(はい、聴いていました。リンネさんは強いのにいつも弱気で慎重で……。けど、皆はリンネさんの強さしか見えないから頼ってしまう。いつの間にか甘えてしまう。だからわたしはアユナちゃんを連れて別行動したんですよ)
(そこまで……考えてくれてたんだね……)
(メルさんはリンネさんのことを理解して下さっています。リンネさんがメルさんを凄く頼りにしているのも知っています。レンさんはメルさんにライバル意識を持っていますね……見ていて面白いくらいに)
(あはは!レンちゃんはそうかもしれない。けど、皆、強くなろうって頑張ってる。魔族を倒そうっていうより、ボクのことを守ろうって感じ。変なの!けど、凄く嬉しい。でも、アユナちゃんが……あのときみたいにもう誰も失いたくない。辛いよ!皆、死なないでよ!逃げたい。逃げ出して皆で仲良く暮らしたい……)
(リンネさん、本心じゃないですよね、それ。わたしに嘘は通じませんよ。リンネさんは全員を助けたいって思ってる。わたし達だけじゃなく、ティルスの全員を。やりましょうよ!思いっきりやっちゃいましょうよ!!魔人なんて、魔族なんてけちょんけちょんに倒して、皆でまた嬉し泣きするんです!大丈夫!力を合わせればきっと叶うんだから!皆を信じて、リンネさんは魔法撃ち終わったら寝てて下さい!)
(アイちゃん……ありがとう。アイちゃんが居てくれて良かった。でも、本心は……伝わってると思うけど、勝手に召喚して、捲き込んでごめんね!!)
(ううん、わたしもですけど、皆はそんなこと全く思っていませんよ!ここだけの話ですからね?皆が思っているのは……リンネちゃんと出会えて良かった!!って気持ちです。リンネさんもそう思ってくれたら、わたし達は幸せ者です!!)
そう言って、アイちゃんはボクを優しく抱き締めてくれた。ボクが皆を励まさなきゃいけないのに、何だか逆に慰められちゃってて恥ずかしいね。ボクが頑張らないと!!
「アイちゃん、全兵士、市民に伝えたいことがあるの。風魔法で音を拡散出来る人をたくさん呼んでくれる?」
★☆★
とうとう日が沈む。
城門前の広場には、兵士や市民達、数万人が集まっている。
夕日を背景に、ボクは城壁の上に立っている。柄にも無く演説をするために。
でも、この戦いで死者を出さないためには大切なことがある。それは、生きようという強い意思だ。強い意思は、きっと不可能を可能にしてくれる最強の武器であり魔法だと思う。伝えるのは今しかない。とっても恥ずかしいけどね!
「皆さん!これから始まる戦い、
勝とうとは思わないで下さい!」
場が一瞬静まり返る。その後ざわめきに変わる。
「皆さんには家族が、友人がいるでしょう!
だから、こんなところで死んではダメなんです。
皆を守ろうという気持ちは尊いし、大切です。
でも!!
残される者達のことを“本気”で思うのなら、絶対に死んではいけません!!
敵がいかに強くても、
たとえどんな状況でも、
生きることを諦めないで下さい!
石にすがりついてでも、生きて下さい!!
勝とうという気持ちではなく、生き残るんだという強い意思を持って下さい!!!」
広場は静寂に包まれている。
ボクは、浮遊魔法を使って城壁を降りる。
凄く目立ってる。
パンチラだけは十分に気を付ける。
着地すると、兵士達の間を歩きながら話を続ける。
「皆で生き残って、
笑顔で幸せだと言い合えるような、
新しい世界を、
新しい時代を作りましょう!」
泣き出す人もいる。
頑張るぞ!と気合いを入れる兵士もいる。
ボクは、とびっきりの笑顔で続ける。
「新しい世界、新しい時代を作るためには、
皆さん全員の力が必要なんです!
皆さん全員が力を合わせて1つになることが、
必要なんです!!
明日から始まる新しい幸せのために、
この戦いを、絶対に生き抜いて下さい!!
その為にボク達はここにいます。
ボク達を信じて、
皆で生き残って、
皆で笑顔で泣きましょう!!」
ボクは仲間達、通称リンネ隊の所に到着した。
皆で笑顔で手を振り、お辞儀をした。
後半の行動に意味はない……気がする。
何だかアイドルのコンサートみたいな勢い……。
「勇者リンネから力を貰いました!
さぁ、皆さん!
戦いの準備をしましょう!!」
アイちゃんがコンサート化した流れをぶった切って助けてくれた。
よし、皆、解散だよ!
★☆★
夜10時過ぎ、偵察に出していたスカイが帰還した。興奮した様子ですがり付いてくる。とうとう来たか。
「魔族軍の侵攻を確認!さぁ、行くよ!」
「「『「はい!」』」」
[メルがパーティに加わった]
[レンがパーティに加わった]
[アユナがパーティに加わった]
[アイがパーティに加わった]
ボクは南側の城壁上から南の丘陵を眺める。
確かに禍々しい闇が蠢いているのが分かる。
距離は1kmくらいか。
やがて左右に別れて魔族の進軍が始まった。
メルちゃんが予想した通りの展開になった。
中央には南の丘陵に本陣が残り、左右からティルスの東西門へ攻めてくる……。さすが軍師様。
今だ!!
「アユナちゃん、行くよ!」
『はい!』
既に必要な魔力は練り上げている。魔力総量の9割を使い、何度も強敵を倒してきたサンダーバーストを全力で撃つ。
イメージも既に固めている。半径10mの巨大な雷撃。落雷と共に周囲を巻き込む爆発魔法。これで、ザッハルトと、その周辺にいるであろう強い側近を倒しきる!!
アユナちゃんも、セイントバーストなんてパクりな光魔法を撃つ予定だ。
「転移!」
ボクとアユナちゃんは南側の丘陵へ転移した。
素早く周辺を確認する。闇の中に体高5mにも達する巨大な蛇が映る。
ザッハルトだ!距離20m、いける!
アユナちゃんに目配せする!
息を合わせる!
『セイントバースト!!』
「サンダーバースト!!!」
『!!』
強烈な光!
闇を劈(つんざ)く巨大な光の柱!
爆風はボク達をも吹き飛ばす。
意識を保つ。
でも、倒せた気がしない。
マジックポーションをがぶ飲みする。
魔力を瞬時に練り上げていく。集中!
「アユナちゃん、もう1回!」
『そのつもり!』
『セイントバースト!!』
「サンダーバースト!!!」
再び落雷と爆音が鳴り響く!
マジックポーションをがぶ飲みする。残り1本。
結果は確認しない。
倒したことを信じる。
ダメなら仲間が倒してくれる。
「スカイ!西門へお願い!」
『シュルル!!』
ボクはスカイドラゴンを召喚、アユナちゃんと背中に騎乗した。本来は1人しか乗れないが、ボク達ちびっこ特権でくっつけば2人大丈夫みたい!
「アユナちゃん、しっかり掴まって!」
『分かった!』
ボク達は西に迫る魔族軍を空から強襲した。
デカいのがいる!
[鑑定眼!]
種族:メデューサ(上級魔族)
レベル:48
攻撃:28.30
魔力:39.65
体力:25.50
防御:21.40
敏捷:19.10
器用:18.75
才能:1.95
「メデューサ、レベル48だ!」
魔力を練り上げる。1発で仕留めたい、仕留めなきゃダメだ。ドラゴンだって倒したんだ、やれる!!
半径5mに絞る、濃密な熱と光をかき集めた雷撃!魔力は……残り9割、全部使う!!
「吹き飛べ!サンダーバースト!!!!」
意識が瞬時に飛ぶ。
アユナちゃんが支えてくれる。
マジックポーションを飲ませてくれる。
何とか……ふぅ、スカイも消えていない……。
『倒した!!』
「よし!作戦通りに!!」
ボク達はアイテムボックスから油を入れた壺を大量に投下した。
アイテムボックスには300個の壺が入っている。東西の魔族軍にそれぞれ150個ずつを投下する予定だ。
ボク達は、地上をいくナーガの群れに向かってがむしゃらに投下し続けた。やることはやった!後は仲間に任せる!!
「スカイ!東門へ!!」
『シュルル!』
東門では門前で激しい戦いが始まっていた。
スノーが防御魔法を張り、護衛兵が盾で門からの侵入を防いでいた。メルちゃんも最前線でデカいのと戦っている!
[鑑定眼!]
種族:ゴルゴン(上級魔族)
レベル:51
攻撃:38.20
魔力:39.30
体力:28.55
防御:24.85
敏捷:22.10
器用:20.30
才能:1.95
「ゴルゴン、レベル51!」
先に、油の壺を全て投下していく。
アユナちゃんが居てくれて良かった。1人じゃこの作業は無理だ……3分掛けてやっと終わった。
「メルちゃん、お待たせ!下がって!!」
1発で沈める!!
全ての魔力を、魔力総量の10割を込める!
もうマジックポーションはない、気絶覚悟だ。
「全力全開!サンダーバースト!!!!」
全魔力で魔法を撃ったのは初めてだった。
この雷撃、遠くフィーネからも見えたという。
雷光が、雷鳴が、爆音が、大地を震わす!!
その光景を眺めながら、
ボクは完全に意識を手放した。
★☆★
明るい光で目覚めた。
ここは……ギルドの中かな。
『リンネちゃん!!』
「おはよう!」
「リンネさん!!」
「やっと起きた!おはよ!」
「おはよう……みんな!!どうなった!?」
アイちゃんが説明してくれた。
ボクは気を失ってスカイも消え、落下した。
メルちゃんが何とか受け止めてくれた。
あの後、皆はボク達が投下した油に火矢を飛ばしてナーガ部隊を容赦なく火攻めにした。
混乱に陥ったナーガ部隊を攻撃部隊が強襲、さらに殲滅部隊が生き残りを始末していった。
西門も同様にして全滅させることに成功した。
城門には火が燃え移った。しかし、事前に準備した大量の水を市民がバケツリレーで運び、延焼を防いでくれた。全てが作戦通りだった。
メルちゃん、レンちゃん、アイちゃんが、南側の丘陵に残存するナーガ約100体を倒してくれた。
ザッハルトは結局、ボクの魔法2連発で消滅したらしい。良かった!
被害は……負傷者が多数でたが、死者はいなかった!完勝だ!みんな生きてる!奇跡だ!
ボク達は、皆で抱き合って泣いた。
昼までずっとずっと泣き続けていた。
『ウンディーネ頑張ったんだよ!大丈夫!』
「メルさん、兵の配置は完了しました?」
「東西の城壁に護衛兵各350、冒険者の攻撃部隊各60、傭兵と志願兵の殲滅部隊各385を配置完了です」
「レンさん、補給も大丈夫そうですか?」
「うん、丸1日なら継戦可能だよ!」
「リンネさん、スノーとスカイには作戦を伝えてありますね?」
「うん、理解していると思う」
「南側の丘への転移の準備も?」
「隈無く歩き回ったから丘なら全部平気!」
「わたしの方も仕込みは万全です。皆さん、他に何か気になることはありますか?」
『本当に魔族は3つに分けて攻めてくるの?』
「魔族の主力はナーガです。飛行系でない以上はティルスの東西にある門を攻めるでしょう。ザッハルトの得意戦術は単純な力押しです。東西に各800体で攻め込ませて、自らは見晴らしの良い南の丘陵に300体程で陣取ると思います。ただ、分遣隊をいくつか作っているので、50体規模の小隊が厄介かもしれません」
「敵はナーガだけなの?」
「恐らく東西両軍にはナーガを指揮する将軍クラスがいます。推定レベルは50だと思ってください。勿論、南の本陣にもザッハルト以外に2体ほどは同級がいるでしょう。他に、100体毎にべリアル級のレベル40前後の部隊長がいるかもしれません」
「夜中だけど視界は平気?あたしは夜目で見えるけど、兵士達は大丈夫?」
「すぐに明るくなりますよ。因みに蛇族は熱センサーで敵を認知するようですね」
「その蛇族には弱点あるの?」
「雷や火魔法が弱点です。逆に水や土には強い耐性があります。目の構造上、光魔法で視力を奪うのは難しそうです。風や氷はメルさんからの報告ではダメージを与えていたそうです」
「リンネさん、マジックポーションはあと3つでしたよね?どのくらい倒せそうですか?」
「全力魔法が撃てて4回……今考えてるのは、ザッハルトに2回、東西の将軍クラスに1回ずつ。弱点属性だからもしかしたら倒せるけど、問題は闇の衣とボクが呼んでる黒いバリアみたいなの。多分、あれは魔法ダメージを半減させてる感じ。アユナちゃんの光魔法と一緒に撃つのが効果的だと思う」
『ならわたしはリンネちゃんと一緒に戦う!』
「そうですね、ボスクラスはリンネさんじゃないと倒せる気がしません。アユナちゃんをあげますので、お願いします!」
『やったー!貰われます!』
「アユナちゃん、自分の役割を分かってます?」
『あれでしょ?大丈夫よっ!任せてっ!』
「風向きは大丈夫かな?」
「今のところ山風、つまり北から南への風を予想していますよ。天気も大丈夫そうです」
「ナーガは魔法を使ってくるの?」
「魔力量からすると使いそうですが、今朝メルさんが戦ったときには使わなかったとか。気を付けるのは、水や毒……場合によっては毒霧にも。接近戦の際は念頭においてください」
ボク達は各部隊長と共に作戦を詰めながら夕食中だ。徐々に緊張感が増していく。逃げられない戦い、多くの命を背負った戦いだということが、さらなる緊張感を高めている。
「リンネ隊の皆さん、集合してください!」
「アイちゃん、その……リンネ隊は恥ずかしいよ」
「分かりやすくて良いと思いますよ?」
『うん、うん、何だかやる気出るし!』
「考えるの面倒だからあたしもそれでいいよ?」
「はいはい、我慢しますよ……」
ちょっと場に笑いが流れた?少しでも緊張が解けて良かった。ボクが生け贄になったけどね。
「リンネ隊の皆さん、配置確認です。
東門にメルさんとティルスの方々5人、西門にレンさんとわたし、アイが行きます。リンネさんとアユナちゃんは臨機応変に動いて下さい!皆さん、頑張りましょう!!」
「「「はい!」」」
今回、作戦全体はアイちゃんが考えてくれた。作戦通りにいけば勝てるかもしれないけど、数千同士がぶつかる戦争なんて初めてだし、正直凄く怖い。
アユナちゃんとアイちゃんのレベルはそれぞれ17と9に上がってた。けど、正直まだまだ魔族と戦える実力はない。ボクの魔法が当たらなかったら、効かなかったら皆が死んじゃうんだと考えると、震えが止まらない。
誰かとんでもない魔法で全部やっつけてよ!ウィズでも王国軍でも神様でも何でも構わない、とにかく誰かに、何かにすがり付いて全部任せてしまいたい!!誰か助けて!!
(リンネさん、心の声がだだ漏れですよ!というより、実はリンネさんの思考はわたしの中に常に流れてくるんです……魂が従属しているような感覚でしょうか)
(えっ!?うそ!凄く恥ずかしいんだけど!!)
(多分、全部じゃないですよ?わたし達のことを考えてくださるときだけかもしれません)
(そっか。今回の戦い、ボクが失敗したら皆が死んじゃうんじゃないかって考えてた)
(はい、聴いていました。リンネさんは強いのにいつも弱気で慎重で……。けど、皆はリンネさんの強さしか見えないから頼ってしまう。いつの間にか甘えてしまう。だからわたしはアユナちゃんを連れて別行動したんですよ)
(そこまで……考えてくれてたんだね……)
(メルさんはリンネさんのことを理解して下さっています。リンネさんがメルさんを凄く頼りにしているのも知っています。レンさんはメルさんにライバル意識を持っていますね……見ていて面白いくらいに)
(あはは!レンちゃんはそうかもしれない。けど、皆、強くなろうって頑張ってる。魔族を倒そうっていうより、ボクのことを守ろうって感じ。変なの!けど、凄く嬉しい。でも、アユナちゃんが……あのときみたいにもう誰も失いたくない。辛いよ!皆、死なないでよ!逃げたい。逃げ出して皆で仲良く暮らしたい……)
(リンネさん、本心じゃないですよね、それ。わたしに嘘は通じませんよ。リンネさんは全員を助けたいって思ってる。わたし達だけじゃなく、ティルスの全員を。やりましょうよ!思いっきりやっちゃいましょうよ!!魔人なんて、魔族なんてけちょんけちょんに倒して、皆でまた嬉し泣きするんです!大丈夫!力を合わせればきっと叶うんだから!皆を信じて、リンネさんは魔法撃ち終わったら寝てて下さい!)
(アイちゃん……ありがとう。アイちゃんが居てくれて良かった。でも、本心は……伝わってると思うけど、勝手に召喚して、捲き込んでごめんね!!)
(ううん、わたしもですけど、皆はそんなこと全く思っていませんよ!ここだけの話ですからね?皆が思っているのは……リンネちゃんと出会えて良かった!!って気持ちです。リンネさんもそう思ってくれたら、わたし達は幸せ者です!!)
そう言って、アイちゃんはボクを優しく抱き締めてくれた。ボクが皆を励まさなきゃいけないのに、何だか逆に慰められちゃってて恥ずかしいね。ボクが頑張らないと!!
「アイちゃん、全兵士、市民に伝えたいことがあるの。風魔法で音を拡散出来る人をたくさん呼んでくれる?」
★☆★
とうとう日が沈む。
城門前の広場には、兵士や市民達、数万人が集まっている。
夕日を背景に、ボクは城壁の上に立っている。柄にも無く演説をするために。
でも、この戦いで死者を出さないためには大切なことがある。それは、生きようという強い意思だ。強い意思は、きっと不可能を可能にしてくれる最強の武器であり魔法だと思う。伝えるのは今しかない。とっても恥ずかしいけどね!
「皆さん!これから始まる戦い、
勝とうとは思わないで下さい!」
場が一瞬静まり返る。その後ざわめきに変わる。
「皆さんには家族が、友人がいるでしょう!
だから、こんなところで死んではダメなんです。
皆を守ろうという気持ちは尊いし、大切です。
でも!!
残される者達のことを“本気”で思うのなら、絶対に死んではいけません!!
敵がいかに強くても、
たとえどんな状況でも、
生きることを諦めないで下さい!
石にすがりついてでも、生きて下さい!!
勝とうという気持ちではなく、生き残るんだという強い意思を持って下さい!!!」
広場は静寂に包まれている。
ボクは、浮遊魔法を使って城壁を降りる。
凄く目立ってる。
パンチラだけは十分に気を付ける。
着地すると、兵士達の間を歩きながら話を続ける。
「皆で生き残って、
笑顔で幸せだと言い合えるような、
新しい世界を、
新しい時代を作りましょう!」
泣き出す人もいる。
頑張るぞ!と気合いを入れる兵士もいる。
ボクは、とびっきりの笑顔で続ける。
「新しい世界、新しい時代を作るためには、
皆さん全員の力が必要なんです!
皆さん全員が力を合わせて1つになることが、
必要なんです!!
明日から始まる新しい幸せのために、
この戦いを、絶対に生き抜いて下さい!!
その為にボク達はここにいます。
ボク達を信じて、
皆で生き残って、
皆で笑顔で泣きましょう!!」
ボクは仲間達、通称リンネ隊の所に到着した。
皆で笑顔で手を振り、お辞儀をした。
後半の行動に意味はない……気がする。
何だかアイドルのコンサートみたいな勢い……。
「勇者リンネから力を貰いました!
さぁ、皆さん!
戦いの準備をしましょう!!」
アイちゃんがコンサート化した流れをぶった切って助けてくれた。
よし、皆、解散だよ!
★☆★
夜10時過ぎ、偵察に出していたスカイが帰還した。興奮した様子ですがり付いてくる。とうとう来たか。
「魔族軍の侵攻を確認!さぁ、行くよ!」
「「『「はい!」』」」
[メルがパーティに加わった]
[レンがパーティに加わった]
[アユナがパーティに加わった]
[アイがパーティに加わった]
ボクは南側の城壁上から南の丘陵を眺める。
確かに禍々しい闇が蠢いているのが分かる。
距離は1kmくらいか。
やがて左右に別れて魔族の進軍が始まった。
メルちゃんが予想した通りの展開になった。
中央には南の丘陵に本陣が残り、左右からティルスの東西門へ攻めてくる……。さすが軍師様。
今だ!!
「アユナちゃん、行くよ!」
『はい!』
既に必要な魔力は練り上げている。魔力総量の9割を使い、何度も強敵を倒してきたサンダーバーストを全力で撃つ。
イメージも既に固めている。半径10mの巨大な雷撃。落雷と共に周囲を巻き込む爆発魔法。これで、ザッハルトと、その周辺にいるであろう強い側近を倒しきる!!
アユナちゃんも、セイントバーストなんてパクりな光魔法を撃つ予定だ。
「転移!」
ボクとアユナちゃんは南側の丘陵へ転移した。
素早く周辺を確認する。闇の中に体高5mにも達する巨大な蛇が映る。
ザッハルトだ!距離20m、いける!
アユナちゃんに目配せする!
息を合わせる!
『セイントバースト!!』
「サンダーバースト!!!」
『!!』
強烈な光!
闇を劈(つんざ)く巨大な光の柱!
爆風はボク達をも吹き飛ばす。
意識を保つ。
でも、倒せた気がしない。
マジックポーションをがぶ飲みする。
魔力を瞬時に練り上げていく。集中!
「アユナちゃん、もう1回!」
『そのつもり!』
『セイントバースト!!』
「サンダーバースト!!!」
再び落雷と爆音が鳴り響く!
マジックポーションをがぶ飲みする。残り1本。
結果は確認しない。
倒したことを信じる。
ダメなら仲間が倒してくれる。
「スカイ!西門へお願い!」
『シュルル!!』
ボクはスカイドラゴンを召喚、アユナちゃんと背中に騎乗した。本来は1人しか乗れないが、ボク達ちびっこ特権でくっつけば2人大丈夫みたい!
「アユナちゃん、しっかり掴まって!」
『分かった!』
ボク達は西に迫る魔族軍を空から強襲した。
デカいのがいる!
[鑑定眼!]
種族:メデューサ(上級魔族)
レベル:48
攻撃:28.30
魔力:39.65
体力:25.50
防御:21.40
敏捷:19.10
器用:18.75
才能:1.95
「メデューサ、レベル48だ!」
魔力を練り上げる。1発で仕留めたい、仕留めなきゃダメだ。ドラゴンだって倒したんだ、やれる!!
半径5mに絞る、濃密な熱と光をかき集めた雷撃!魔力は……残り9割、全部使う!!
「吹き飛べ!サンダーバースト!!!!」
意識が瞬時に飛ぶ。
アユナちゃんが支えてくれる。
マジックポーションを飲ませてくれる。
何とか……ふぅ、スカイも消えていない……。
『倒した!!』
「よし!作戦通りに!!」
ボク達はアイテムボックスから油を入れた壺を大量に投下した。
アイテムボックスには300個の壺が入っている。東西の魔族軍にそれぞれ150個ずつを投下する予定だ。
ボク達は、地上をいくナーガの群れに向かってがむしゃらに投下し続けた。やることはやった!後は仲間に任せる!!
「スカイ!東門へ!!」
『シュルル!』
東門では門前で激しい戦いが始まっていた。
スノーが防御魔法を張り、護衛兵が盾で門からの侵入を防いでいた。メルちゃんも最前線でデカいのと戦っている!
[鑑定眼!]
種族:ゴルゴン(上級魔族)
レベル:51
攻撃:38.20
魔力:39.30
体力:28.55
防御:24.85
敏捷:22.10
器用:20.30
才能:1.95
「ゴルゴン、レベル51!」
先に、油の壺を全て投下していく。
アユナちゃんが居てくれて良かった。1人じゃこの作業は無理だ……3分掛けてやっと終わった。
「メルちゃん、お待たせ!下がって!!」
1発で沈める!!
全ての魔力を、魔力総量の10割を込める!
もうマジックポーションはない、気絶覚悟だ。
「全力全開!サンダーバースト!!!!」
全魔力で魔法を撃ったのは初めてだった。
この雷撃、遠くフィーネからも見えたという。
雷光が、雷鳴が、爆音が、大地を震わす!!
その光景を眺めながら、
ボクは完全に意識を手放した。
★☆★
明るい光で目覚めた。
ここは……ギルドの中かな。
『リンネちゃん!!』
「おはよう!」
「リンネさん!!」
「やっと起きた!おはよ!」
「おはよう……みんな!!どうなった!?」
アイちゃんが説明してくれた。
ボクは気を失ってスカイも消え、落下した。
メルちゃんが何とか受け止めてくれた。
あの後、皆はボク達が投下した油に火矢を飛ばしてナーガ部隊を容赦なく火攻めにした。
混乱に陥ったナーガ部隊を攻撃部隊が強襲、さらに殲滅部隊が生き残りを始末していった。
西門も同様にして全滅させることに成功した。
城門には火が燃え移った。しかし、事前に準備した大量の水を市民がバケツリレーで運び、延焼を防いでくれた。全てが作戦通りだった。
メルちゃん、レンちゃん、アイちゃんが、南側の丘陵に残存するナーガ約100体を倒してくれた。
ザッハルトは結局、ボクの魔法2連発で消滅したらしい。良かった!
被害は……負傷者が多数でたが、死者はいなかった!完勝だ!みんな生きてる!奇跡だ!
ボク達は、皆で抱き合って泣いた。
昼までずっとずっと泣き続けていた。
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