異世界八険伝

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新たなる仲間たち

21.青の召喚

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 ミルフェちゃんが部屋を出た後、ボクはまた布団に包まれて一頻り泣いた。

 そしてそのまま、深く深く寝入った。

 今度は、怖い夢を見ることはなかった――。



 ★☆★



 ボクは、窓から射し込む陽光で目が覚めた。

 ベッドの中から窓を見る。
 黄金色の朝日が部屋の中を照らし出している。既に朝になっていた。もう朝8時くらいだろうか?

 結局、昨日は1日中部屋に居た。急がなきゃいけない旅なのに。

 でも、焦ってはいけない。

 『勇者の敵は魔物にあらず――』か。ボクも、ミルフェちゃんと同じように、ボクができることをしよう。自分をしっかりコントロールしなきゃね!

 そう考えた時、お腹がグーッと鳴った。

 そう言えば、昨日は丸1日何も食べていなかったよ。確か、宿屋は朝夕2食付きで明日の分まで支払い済みのはず。この宿屋の食事もまだ1度も食べてないし、まずは朝ご飯を食べてからにしよう。



 階段を下りると、アイリスさんのびっくりした顔に出くわした。涙で腫れ上がった目を見られたくなくて、下を向いたまま話し掛ける。震える手でチャイルドドラゴンの肉を取り出しながら――。

「おはようございます。朝食いただけませんか? あと、もし可能でしたら、これでハンバーグを作ってほしいのですが――」

「おはようございます! 元気になられたようで安心しました! うはっ! このお肉は!? 分かりました、保存できるように調理させていただきますね! 1階の食堂で少々お待ちください。ハンバーグは後ほどお部屋にお持ちしますね! 」

 思い切ってお願いして良かった!
 大きなハンバーグが20個くらいになりそうだって。大好きな物を食べたいときに食べられるって、凄く嬉しいね、元気が出てきたよ!


 10分も待たずに、アイリスさんが朝ご飯を持ってきてくれた。

 柔らかいパンと色とりどりの野菜料理――本格的な初の異世界料理。ゆっくり噛んで、味わいました。温かくて、柔らかくて、とってもお腹に優しい。と言っても、トイレ不要だけどね!

 食堂には他にもいろいろな人がいた。
 見た目で判断すると、冒険者、旅人、商人かな。凄く視線を感じる。もう部屋に戻ろう――。



 ★☆★



 さて、まずは、やるべきことを整理しようか。
 1.魔法の習得(できれば練習も)
 2.召喚(本人への事情説明も)
 3.買い物(装備や旅に必要なもの)
 4.チロルについての情報収集
 5.エリクサー作成(お金が足りれば)

 ざっと思いつく限り、こんな感じかな?

 できれば今日中に全てをクリアして、明日の朝にはフィーネを出れるようにしよう。今、この瞬間をボクの出発点と考えて、1歩1歩前進していこう。



 目の前に置かれた2冊の魔法書。
 A4サイズで、100ページもある雑誌と同じくらい分厚い。茶色く硬い皮の装丁で、表紙には雷のデザインが描かれている。一応、取り扱い説明書みたいのもあった。確認してみると、やり方は意外と簡単だ。

 魔法書の1ページ目を開くと、見開き一杯に光る塗料で魔法陣が描かれている。

 その上に、魔法を使用したい側の手を乗せて魔力を流すらしい。ただ、魔法契約に必要な量の魔力を流さないといけないとのこと。

 魔法を使用したい側の手? こういう“設定”は初めて見るね。右手か左手か――どうしようか?

 ボクは右利きだから普段は右手に棒を持つ。魔法を使う場合は杖になるかな。スタッフやワンド、ロッドなどの杖は、魔法発動体の役割を果たす訳だから、杖を持つ側の手を乗せるのが良いよね。じゃあ、先々を考えて、右手で攻撃魔法を、左手で回復魔法を使えるようにしてみようかな! 両手で同時に魔法とか、凄く賢者っぽい! よし、決めた!

 ボクは、雷魔法/初級の魔法書の魔法陣に右手を乗せて、ゆっくりと魔力を流し込む。

 棒2号で何度も練習したので、魔力の流し方の要領は掴めている。風刃を放つときは、武器の効果に頼りきって雑に行っていたけど、今度は意識を集中して行う。

 まずは、身体中を流れている魔力を感じとる。それをお腹の中に集める。この、もぞもぞっとしたやつをじっくり回転させて練り上げていく。熱い力が生まれる。それを今度はゆっくり右手に移動させていく。そして、手のひらから放出するイメージ!

 魔法陣が輝きを増す!

 ボクの右手の甲に雷の紋様が刻まれる!

 成功だ!!

 魔力は10を超えているから大丈夫だとは思っていたけど、一安心。初級の雷魔法を練習してみたい気持ちはぐっと抑えようね、この町で問題を起こしたくないし――。


 続けて中級も習得してしまおう。

 ボクは、さっきよりも集中して一連の契約の流れを行った――。

 魔法陣が力強く光り輝きを放ち、手の甲にある雷の紋様が変化した。簡単に言えば、かっこよくなった! よし、雷魔法中級もゲット!!




 次は、召喚石だね。

 凄く緊張する。召喚石の封印解放、要するに異世界召喚だ。やり方は誰からも習っていないし、勿論取扱説明書なんて無い。それどころか、召喚の実態を知っている人も居ないと思われる。だって――銀の召喚石を持つ勇者って、1000年振りらしいから。

 つまり、召喚石を使う召喚自体も1000年振りってこと。西の王国で行われた大規模儀式召喚やエリ村で行われる運試し召喚、いわゆる不完全な召喚とは異なる、完全な召喚という訳だ。牛や鯉が出てくる訳はない。

 そうは言っても、やはり不安は尽きない。

 もし仲間になってくれなかったらどうしよう、怖い人だったらどうしよう、ボクみたいな甲斐性なしを相手にしてくれる人なんているのだろうか――でも、やるっきゃない! 前に進むって決めたんだもん!


 召喚したい人物のイメージを強く持ちながら、召喚石に魔力を強く注ぎ込む。ただそれだけ。やり方?何となく分かる。なぜか知らないけど、魂に刻まれているような感じがするんだ。

 まずはイメージだ。

 青……水……氷……冷たい……冷酷……薄情……ん!?

 まて!
 まてまて! やり直し!!
 これ、アブナイ人が召喚される流れだよ、早く気付けて良かった!

 ふぅ。

 まずはイメージ。青のイメージ……青い髪……澄んだ心……いいね! 例えば、あのロボットを操縦して使徒と戦う子――ダメだ、ロボットが無い。ロボット無しだと普通の女の子だ。じゃあ、あのいつも布団の中に引きこもってる自称宇宙人の子――彼女もダメだ、戦力外だ! 布団アーマーとか危険すぎる。じゃあ、あの最強魔法ギルドに所属する水の魔法使いは――やはりダメだ、露出男子が好きとか、破廉恥過ぎる! そもそも、いきなり召喚されて魔法が使えるの? ボクみたいに魔法が使えない魔法使いとかで棒を振り回すの? 2度とそんな悲劇は避けたい、避けるべきだ――。

 必要なのは前衛ができる人。じゃあ、例の魔法少女にいた青い髪の女の子は? 確か、武器はサーベルだったはず――いや、まて! 人魚になって死んでいく、悲劇のヒロイン代表じゃないか。ごめん、ダメだ、悲し過ぎる! じゃあ、例のちょっと胸の大きい角の生えたメイドさんは? 腕力あるし、魔力もあるからボクの棒2号の正統継承者として相応しいね! しかも料理も上手! とにかく、強いし可愛いし性格も良いときた! 今1番輝いてる青髪っ娘だし、非の打ち所がない! なんですぐに閃かなかったんだろう――。

 よし、決めた!

 失敗は許されない。

 イメージ……青い髪……イメージ……メイド……イメージ……角……イメージ……乳……ぶほっ!?


 召喚石が青い光を、力強く放つ!!

 部屋の中が眩しい光で満たされる!!

 うぉ、宿屋の人に叱られちゃうよ!?


 しばらくすると、溢れ出していた光が召喚石に収束していく――。


 そして――召喚石を手に持った1人の少女が現れた。

 召喚石はその後も優しく点滅を繰り返している――。

 よし、成功だ!!



「こんにちは」

 なるべく笑顔で優しく声を掛けてみた。

 エリ婆さんみたいにいきなり睨むのはNGだ。


 メイド服を着た少女は、現状が飲み込めないのか、可愛い顔をキョトンとしつつも、頭を働かせている様子だ。なにこの子、めちゃめちゃ可愛いよ!!


「私は、魔法で召喚されたのですね? 」

 さすがに賢い! もう落ち着いて状況判断ができている様子だ。どこかの勇者見習いとは大違いだよ。

「そうです、ボクはリンネと言います。ボクが貴女を、その召喚石で異世界召喚しました――」



 その後、約3時間掛けて事情を説明した。この世界のこと、自分のこと、今置かれている状況、今後のこと――どうしても3時間は掛かるね。

 案の定、彼女は自分の名前や過去の記憶を失っていた。名前を付けてほしいと頼まれたボクは、メルという名前を付けてあげた。年齢は14歳とのこと。じっくり観察してみたけど、角は生えていないようだ。イメージ中、変な妄想が入ってしまったから?
 ちなみに、キャラクターメイキング的な作業はなかったようだ。既にこの世界に適応可能ということなのかもしれないね。


「宜しくお願いします、リンネ様」

「メルちゃん、仲間なんだから敬語はやめようよ。ボクの方が2歳も下だし、敬語を使うならボクの方でしょ」

「でも――よく分からないのですが、私たちは召喚者に従うよう魂に刻まれている気がします」

「そうなの!? それでも、普通に話してね? 」

 ボクの場合、いざとなったらエリ婆さんにパンチする気満々だったのに――。

「分かった、リンネちゃん。これで良いでしょうか? 」

「うん! 宜しくね! メルちゃん! 」


 良かったぁー!

 いきなり襲われることは無さそうだ!

 ボクたちは宿屋で作って貰ったハンバーグを一緒に食べながら、今日これからの予定を話し合って決めた。と言っても、大半は冒険者ギルドで済ますことができる。正直、あまり町中を歩き回りたくないので、これからすぐに冒険者ギルドにすぐに向かうことにした。



 ★☆★



 まず、メルちゃんの冒険者登録をした。

 ボクの冒険者ランクは、いきなりCに上がっていた。ギルドマスターの計らいらしい。

 あと、メルちゃんのステータスとスキルを確認してもらった。トイレ不要スキルがお揃い!? 何かの、誰かの意図を感じる――。


 ◆名前:メル
 年齢:14歳 性別:女性 レベル:1 職業:メイド
 ◆ステータス
 攻撃:8.40(+4.50)
 魔力:9.20
 体力:6.55
 防御:5.25
 敏捷:7.70
 器用:6.85
 才能:2.00
 ◆先天スキル:気配察知、食物超吸収、鬼化
 ◆後天スキル:
 ◆称号:青の召喚者


[気配察知:自分の周囲にいる敵対者の気配を感じとることが可能。効果範囲はレベル×半径10m]

[鬼化:魔力を全て消費することで秘められた金色の角の力を解放し、一定時間だけ全ステータスを2倍にする。効果時間は消費される魔力量に依存する]

[青の召喚者:青の召喚石により召喚された者]


 なにこれ、とんでもなく強い!
 レベル1なのにボクより強いとか、どういうこと!? 怒らせないようにしないと――。



 その後、ボクたちは武器や魔法専門店、道具屋、情報屋等を順次見て回った。所持金は3600リル(360万円)しかない。その上で、メルちゃんのアドバイスを聴いて、いろいろと買い揃えていく――。

 最優先はチロル行きの運賃だ。馬車で片道5日間。本来なら1人500リルのところ、明朝出発の旅商人の護衛に加えてもらい、無料になった。

 一昨日の件があって心配したけど、Cランク冒険者ということで、意外とすんなり決まった。北部も治安が悪いそうで、背に腹は代えられないということなのだろう。


 次に、いざという時のためにエリクサーを加工しておくことにした。1枚の“7色の花”から、3本のエリクサーが出来た。加工には1000リルも掛かったけど、お金に困ったら売ることもできるし、将来への投資としては必要経費だよね。念のために訊いてみたところ、1本10000リルで売れるらしい。1000万円也。高い!! 訊いて損したかも――勿体なくて使えなくなっちゃったよ!

[エリクサー:伝説の回復薬。全ての状態異常、身体の欠片を完治できる]

 アレだ。不治の病で寝たきりの人や失明している人が治ったり、戦争で片足を失った人とかでも、足がニョキニョキ生えてくるヤツだ。需要は滅茶苦茶あるだろうね、大切に使おう。


 旅道具や食料をアイテムボックスに入るだけ買い、残り所持金は1200リル(120万円)になった。

 残りのお金でメルちゃんの防具を買おうと提案したところ、今のところ必要ないと断られた。


 今はお金を貯めておくことにして、ボクたちは宿屋に戻った。

 食事を済ませた頃には、既に夜7時を回っていた。明日は朝6時集合らしいので、今日は早めに寝よう。ちなみに、お風呂には一緒に入りました。女の子同士だから問題ないよね。うん、問題ない。
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