異世界八険伝

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召喚と旅立ち

4.いよいよ旅立つ時がきた

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 いきなり女の子になっちゃったから服がダボダボ大事件勃発!

 声もソプラノになっちゃったことだし、1人称も僕じゃなくて私に変えた方が良いのかな?

 私という1人称には別に違和感はないけど、一応男心は捨てずにいきたい。と言うことは、ボクっ娘でいくか! よし、そうしよう。時代はボクっ娘とワシっ娘なんだよ!! このファンタジー世界で時代の最先端を逝ってやる!

 独り妄想を続けていた僕は、エリ婆さんに連れられて金属製の大きな扉から部屋を出る。

 そう言えば、地下室に居た黒いローブの人々の姿は、いつの間にか見えなくなっていた。エリ婆さんとの長話に集中していたからか、退室したことにすら気付かなかったらしい。

 もちろん、お茶をぶっかけてきたエルフのリザさんも既に居なかった。もう1度会いたいなぁ。


 緩やかに続く土造りの階段を上っていくにつれ、ようやく気付いたことがある。さっきまで居た部屋がどうやらかなり深い所に造られた地下室だということ。核戦争でも起きたらシェルター代わりに使えそうだ。

 ひんやりと冷たい土壁に触れながら30段ほど上ると、次第に明るさが増していった。

 そして、カタツムリ並に遅いペースで歩くエリ婆さんがようやく階段の最上段に辿り着く。

 その後、狭いながらも迷路のような廊下が続く。

 何重にも貼られた怪しい札の柱、いかがわしい呪術か実験が絶賛進行中っぽい匂い漂う部屋をいくつか通り過ぎ、エリ婆さんと僕はゆっくりと木製の扉を開け、ある部屋に吸い込まれていく。

 天窓から入る光量からして、まだ日は高いようだ。

 逆算すると、早朝に召喚されたということか――牛や鯉なら良いだろうが、現代日本人は朝が1番忙しいんだよ、異世界人はあまり空気が読めてないね。

 あまり広くもないその部屋の中には、婆さんと僕しかいない。武器や道具、衣類などがぽつりぽつりと置かれた部屋――物が少ないけど、どうやら倉庫のように見える。

「勇者リンネ、まずはこの服に着替えてくだされ」

 渡されたのは女の子用の地味な服一式。下着から何から全部あるらしい量だった。

 うぅ、人前で着替えるのは恥ずかしいな。しかも女の子用の服だし――。

「エリザベートさん、すみません。着替えたいので少し1人にしてもらって良いですか? 」

「なんじゃ? こんな婆の目なんぞ気にする必要ないわ。まぁ、良い。異世界人ならではの羞恥心なんじゃろうて。儂は後ろを向いとるから、さっさと着替えてくだされ」

 僕は目を瞑って一気に脱ぐ。

 そして、着る。

 うわぁ、身体が柔らかいや。
 それに、手足が白くて細い!

 まぁ、あれだ……これは慣れが必要だ。

 と言うか、中古の下着とか抵抗あるんだけど!

 脱いだ服は、丸めてアイテムボックスに押し込む。アイテムボックスって、念じるだけで使えてすごく便利!



 ★☆★



「着替え終わりました! 」

「お主、脱いだ服はどうした? 」

「スキルで[アイテムボックス]を覚えたので、そこに収納しました」

「なに!? 随分とレアなスキルを覚えたのじゃな――アイテムボックスは使用者にしか見えない。それ故、アイテムが盗まれる危険性が一切ないという便利なスキルなんじゃ」

 この世界では意外とレアらしい。いわゆる剣と魔法のファンタジー世界ではデフォルト装備なんだけどなぁ。まぁ、戦闘スキルを思いっきり削っちゃってるし、この先苦労はするだろうけど、これって本当に便利スキルだよね。お金に困ったら運送業で旗揚げするのもありかな?


「お主、魔法職を目指すと言っておったかな? ならば、こんな装備はどうじゃ? 」

 エリ婆さんが、がさごそとその辺を物色して、ローブと棒切れを持ってきた。

「魔物の皮を鞣(なめ)して作った皮のローブじゃ。服の上から着ると良い。フードもあるし、女の子には安心じゃろ」

 濃いグレーのローブを受け取る。ざらざらした肌触りで冬物の厚手のコートくらいの大きさだ。前はボタンで留められるようになっている。

「ありがとうございます! わ、意外と重いんですね――」

「まぁ、体力が付いてきたら気にならんじゃろ。こっちのスタッフはどうじゃ? 」

 木製の長さ1m程の棒を受け取る。

 金属バットよりは軽いかな。でも、スタッフって魔法の杖だよね? 魔法が使えないのに意味あるのかな?

「ボク、魔法がまだ使えないので、暫くは剣とかの方が良いかと思うんですが――」

「確かにな。ただ、このスタッフも打撃武器にはなるぞい? 普通の棒と違って魔法強化されているからのぅ。ただし、鉄ほどの強度はないから、あまりバコバコ叩くとさすがに折れるがな」

 そう言いながらエリ婆さんは杖を振りまくっている。腰には気を付けて下さいよ。

「なるほど――では、このローブと棒で頑張ってみます。ありがとうございます! 」

「因みに、武器系の戦闘スキルはあるかい? 剣術とか槍術とか弓術とか――」

「残念ながら、全くありません」

「そうか――折れてしまうと大変じゃから、一応こっちの鉄製の棒も持っていくと良い。剣や槍、斧といった刃物武器は素人には危険じゃろ? 転んだ拍子にグサリ、という可能性もあるしのぅ」

 婆さんがさり気なく怖いこと言ってるよ。でも、実際そうかも。

 長さ50cmくらいの鉄製の棒も受け取った。簡単に言うと、空洞になってない鉄パイプだね。昭和のヤンキー御用達な感じ。

 両手でブンブン振り回してみる。

 手首に負荷は掛かるけど、扱えないほどじゃない。金属バットより少し重いくらいだから、ステータス次第では何とかなるでしょ。当たればだけど、かなり殺傷力は高そうだ。

「大丈夫そうです、ありがとうございます! 」

「世界を救ってくれとは言ったがの、小さなおなごに魔物と戦ってもらうのは本当に忍びない。あまり期待はしていないので、無理せず、できる範囲で魔物を退治しておくれ。あと、少ないがお金とアイテムも渡そう。ちょっと待っててくれんか、取りに行ってくる」

 常識的に児童が魔物狩りとか、有り得ないよね!

 というか、僕が勝手に小学生の女の子になっちゃったのが悪いんだけど!

 でもね、いくら援助してもらっても弱いもんは弱い。僕はただの捨て駒なのか、それとも本当は期待されているのか――。


 そう言えば、鑑定眼のスキルがあったな。

 鑑定してみよう。念じれば良いのかな?


[鑑定眼!]

[グリズリー皮のローブ:防御:1.50]

[エルダートレントのスタッフ:攻撃:1.50 魔力:3.00]

[鉄製の頑強な棒:攻撃:2.00]


 あれ?
 これって意外と良い物を貰った?

 普通のRPGだと、初期装備はその辺の最安値品で、恥ずかしいくらいの低レベル装備だって相場が決まっているんだけど――。

 念のため、服や靴やパンツなども鑑定してみたけど、品名表示だけでステータス変化はないらしい。靴なんかは装備品とかもありそうだけどね。

 一応、ローブと鉄の棒を装備して、杖(スタッフ)はアイテムボックスに。やばっ! 斜めに入れないときついわ。

 確か、底面積がレベル依存だったっけ。なら、こんな感じかな?

 レベル1で1㎡:縦横が1mの正方形
 レベル2で2㎡:一夜一夜に……だから縦横1.4m
 レベル3で3㎡:人並みに……縦横1.7mくらいか
 レベル4で4㎡:縦横が2mの正方形だね
 レベル5で5㎡:富士山麓……縦横が約2.2mか

 早くレベル上げなきゃ!!

 あと、ローブの上からお腹をパコパコ叩いてみて分かった。
 どうやら、装備品の性能は、基本的な身体能力(ステータス)に加算されるみたいだ。



 ★☆★



 ラーメンを啜るような足音が聞こえてきた。

 エリ婆さんが戻ってきたみたい。歩くの遅っ! さすが敏捷0.15だね。

「待たせてすまんのぅ」

「いえいえ、ご迷惑お掛けします」

 あら?
 可愛いエルフのリザさんも一緒に居るよ!

「初めまして、私はリザと申します。精霊魔法使いです」

「初めまして? あ、ボクはリンネです。宜しくお願いします! 」

「リンネ様は、さっき私がお茶を掛けちゃった男性の勇者様のお知り合いさんですか? 」

 あ、そうか。

 身体中をめっちゃ拭かれたから、いろんな意味で男だと思われてるのか。同一人物だと気付いてない感じだよね?

 やばい、どうしよう――とりあえず、別人ということにしておこう。いきなり変態認定されたくないし。

「えっと……男性、ですか? よく分かりませんが、消えてしまったようですね」

「そうですか――私が粗相したから、お怒りになられて帰ってしまわれたのかしら」

「さぁ、忙しかっただけじゃないですかね」

「確かにキョロキョロしていて忙しそうでした。では、エリザベート様の再召喚でいらっしゃったのが勇者リンネ様なんですね! どうか、この世界を宜しくお願いします! 」

 まぁ、変な流れだけど……いいや。
 婆さんのジト目はスルーだ。

「いやいや……ボクは勇者様なんかじゃないと思いますよ? いきなり召喚されただけの小市民ですから、あまり期待しないで下さいね! 」

 リザさんはボクの話を聴いてないのか、終始ニコニコだ。正直、僕は勇者の器の訳がない。そもそもこの世界、勇者の定義ってどうなっているんだ?

「召喚された者が全員勇者なら、過去のお百姓さんはまだしも、牛や鯉も勇者になっちゃいますよ? ボクは鯉以上百姓未満を目指すので、あまり期待しないでくださいね? 」

「お百姓の助平様、牛のモウモウ様や、鯉の赤ヘル様は、立派に勇者の役割を担ってくださったとの伝承が残っています。ですので、リンネ様も頑張ってください! 」

 何のために召喚してんだよ、この人たち。農業や畜産業、漁業協同組合かい! てか、名前を付けてるのはエリ婆さんじゃないのか? しかも――牛や鯉は最後には食べられてるんじゃ?

 渦巻く不信感と疑惑の中、ボクは思う。
 
 じゃぁ、ボクは何を期待されてるんだろう。何をすれば立派に勇者の役割を果たせるの!?

 でも、これくらいは言わせてもらう!

「牛や鯉に負けないよう頑張ります! 」


「まぁ、それはそれ、これはこれじゃ。気にせんで良い。リザよ、それを勇者リンネに――」

 婆さん、真顔のボディランゲージで誤魔化そうとしている。気にせんで良いと言われても、前例が前例なので気にするでしょうが。

「はい、司祭様。リンネ様、こちらをお受け取りください! 」

「あ、どうもです」

 リザさんから大きな布製の巾着袋を受け取る。両手で抱くように持っても、腰に響くほどずしりと重い――。

 今回、ぶっかけがなくて良かった。

 いきなり頭に槍が刺さるとかは、さすがに謝られてもタダでは許してあげないんだから! フフフ……。

 それにしても、美人エルフの精霊魔法使いかぁ。パーティ組んでくれないかなー。

「ポーション、毒消し、麻痺消し、聖水がそれぞれ5つずつ。あとは、携帯食料が3日分、生活に使う道具類と、お金が銀貨5枚と銅貨20枚、つまり520リルじゃ」

「何から何までありがとうございます! 」

 アイテムボックスに漏れなく収める。

 えっと――お金は520リル、つまり52万円? 小学生へのお小遣いなら破格だよね!? でも、魔法書の代金の1/10ぽっちだよ? 文句は言わない、勇者なら寛容な心を持つべし。実は“職業なし”だから、勇者じゃないんだけどね。

「感謝ついでに、リザさんも一緒に――」

「ご冗談を! 私なんて勇者様のお役になんて立てませんわ! 頑張って修業しますので、また誘って下さい! 」

 案の定、速攻で断られた!

 勇者とメインヒロインの楽しい異世界二人旅って流れもボク的にはありなんだけど、終末感溢れるこの世界じゃ、そんなイージーモードは無理か――。

 だって、婆さんもリザさんも鑑定眼でステータス見れないんだもん。きっと、かな~り魔力高いですよね? いきなり仲間が強すぎると勇者いらないじゃんってことになるだろうし――。

 と言うか、もしかして、鑑定眼って対人的には役に立たない死にスキルだったりして?


 流れ的に、建物――教会みたいな、公民館みたいな?……の玄関先で皆さんに見送られつつ、追い出されるように僕の旅が始まった。

 あ、少し村を探検してからにしよっと。


 ◆名前:リンネ
 年齢:12歳 性別:女性 レベル:1 職業:無職
 ◆ステータス
 攻撃:0.25(+2.00)
 魔力:0.80
 体力:0.50
 防御:0.25(+1.50)
 敏捷:0.75
 器用:0.80
 才能:3.00
 ◆先天スキル:取得経験値2倍、鑑定眼、食物超吸収、アイテムボックス
 ◆後天スキル:
 ◆称号:
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