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第1章 大陸南東編
18.知己の償い
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「エトワール!!……と、エトワールのご主人様?わざわざ遠くからありがとうございます……」
名馬エトワールの隣に佇む少女は、口に手を当ててドギマギしながら僕たちを眺めている。
『えっ……あ……気にしなくていいわよ……』
鮮やかな薄紫色の髪先を弄りながら少女が呟く。恥じらいの中に隠された眩いばかりの笑顔を見て、僕は思わずドキッとしてしまった。
あれ……聞き覚えのある声?まさか牢獄の人?いや……エトワールのご主人様は死んでないはずだから、人違いだよね……胸を触らないと分からないや。
「あれ?あなたは……」
ルーミィが邪魔に入る。お決まりのパターンだね……懐かしい。生き返った実感が湧くよ。
『あっ……ちょっと、こっちにいらして!』
ルーミィが紫の少女に連れていかれた。これは……ハーレムの相談か?ハッハッハ!僕のモテ期は継続中だ!
変な妄想を膨らませながら、僕はひたすら名馬エトワールを擦る。背中にもこもこした膨らみがあるなぁ……筋肉かな?さすがは名馬だね??。
「ねぇ、ロトくん!もう1度キスしていいかなー?クーね、癖になっちゃったみたい」
『ワタシも……もう1回しておく』
「って、ミールはまずは服を着て!クーちゃんは顔が近いって!恥ずかしくて死にそう!」
僕はアイテムボックスからシャツを取り出してミールに着させる。シャツ1枚って……裸よりヤバいかも!?とりあえず逃げる一手。
それにしても……たくさん人がいる。アーシアさんと追いかけっこしてるアネットさんはいいとして、ラールさんと話してる赤い服の子は誰だろう?あっ、目が合った!こっち来た!
『魔力は少ないが、確かにリンネ様の魂を受け継いでいるのぅ……』
いきなり心臓の辺りを揉まれた……なにこのセクハラ!許せない!!
「ロト君、こちらは精霊王の不死鳥フェニックス様。勇者リンネ様の……下僕らしいです」
「貴女が、あの伝承のフェニックス様!?」
『ほほぅ!妾は伝承になるほど有名なのか!!引き篭りをやめて良かったぞ』
「はい!霊峰ヴァルムホルンの頂と一緒にリンネ様に吹き飛ばされて下僕にされた大精霊!」
『そっちか!魔王相手に奮闘したでもなく、秩序神に認められて直々に精霊王に任ぜられたでもなく、そっちが有名なのか!!』
全身真っ赤な少女は、昔を懐かしむように、自分とリンネ様の偉業を語り始めた。だいたい知っている話だったけど、何回聞いても興奮するね!
『……でな、妾はお主と契約しに来たわけだ』
突然、目を瞑り、つま先立ちになる少女。
なぜか、タコみたいに唇を突き出している。
『はよせぬか!恥ずかしい』
なにこれ?
ラールさんとクーデリアさんが口を押さえて凝視してる……これ、契約だよね?よし!
『んんっ!う??ん、青春の味わいよのぅ!
さぁ、これから契約の儀式を始めるぞ』
えっ!?……どゆことですか……。
フェニックスは、素早く手を動かして僕たちの周囲に魔法陣を描く。煌めく赤い光と共に、僕の右手の甲には炎の紋章が刻まれる。
フェニックス少女は、笑顔で手を振りながら紋章にスパイラルして消えていった……。
これが精霊契約……しかも、精霊王!うわぁ??、すごいことになっちゃったよ!
呆然と立ち尽くす僕の所に、ルーミィが戻って来た。随分と長話をしていたようだけど、表情は嬉々として明るい。
「ロト、王都に行くわよ!!」
★☆★
僕たちはギルドのティルス支部に帰還した。
僕の捜索と救出が、最重要クエストになっていたなんて……迷子みたいで恥ずかしい……。
参加した冒険者たちは、破格の報酬にホクホク顔だ。僕に感謝して帰って行ったけど、感謝すべきはこっちですから!みなさん、ミイラ取りがミイラになりかけたんですからね……本当にありがとうございました!僕は彼らの後ろ姿に長々とお辞儀をした。
そう言えば、依頼書がアイテムボックスの中に……どうしよう、だいぶ日にちが過ぎてる。まだお昼前だ。間に合うなら1件でも多く蘇生しよう。
【蘇生依頼書】
蘇生対象:アシュリー
蘇生理由:大切な後継ぎだから
種族:人間
性別:男
年齢:15
死因:事故死(崖から転落)
時期:今朝
職業:薬師見習い
業績:調合技術が優秀
報酬:○お金、○物品、その他
メモ:
依頼者の関係:祖父
【蘇生依頼書】
蘇生対象:ブライアン
蘇生理由:魔法科学の発展のため
種族:人間
性別:男
年齢:48
死因:爆死(実験中の事故)
時期:8年前
職業:魔法科学者
業績:薬学、結界学に寄与、受賞多数
報酬:○お金、○物品、その他
メモ:
依頼者の関係:魔法科学の塔一同
【蘇生依頼書】
蘇生対象:ポーラ
蘇生理由:希少種の保護
種族:エルフ
性別:女性
年齢:10
死因:非公開(自殺)
時期:2日前
職業:奴隷
業績:なし
報酬:お金、物品、○その他
メモ:
依頼者の関係:エルフを守る会
「受付のサラさんから聞いたんだけど、1件目の薬師の人は既に火葬済だって……」
「そうか……申し訳なかったね……」
「今日と明朝で残り2件の依頼をこなして、明日の午前中には王都に出発するわよ!」
「了解!まずは話を聞きに行こう!」
★☆★
町の南側、文教地区に建つ魔法科学の塔なる場所を訪れた僕たち。メンバーは3人だ。僕とルーミィとラールさん。ミールは妖精会議、クーデリアさんはコンサートの準備、アネットさんはアーシアさんと一緒にもう1件の方へ行っている。
『やぁやぁ、こんにちは、未来ある若人たちよ!連絡がないから諦めてたよ。さぁ、こちらへ!』
玄関で髭のおじさんに待ち伏せされていた。白髪細身に白衣……思っていたよりも明るい。科学者ってのは、湿った地下室で狂気じみた笑みを浮かべながら丸底フラスコを振っているイメージがあった。
僕たちは彼に連れられて会議室に入る。
座席が既に5人分埋まっている。みなさん、同年代の方々だ。やはり明るく迎えられた。
「エンジェルウイングのルーミィです。こちらは蘇生魔法使いのロト、助手のラールです。ブライアンさんのこと、聞かせてください」
明るい雰囲気に後押しされて、秘書が笑顔で切り出す。
しかし……“ブライアン”さんの名前を出した途端、一気に陰鬱な空気に変わる。蒼ざめ、下を向く彼らは互いに肘でつつきあう。やがて、意を決した髭がぼそっと呟いた。
『……俺たちがブライを殺した……』
歯を食い縛る科学者たち。唖然とする僕たち。ルーミィは髭の顔をじっと見つめ、続きを促す。
『画期的な発見だった。内容は明かせないが、世界の常識が変わるほどのな!俺らは実用化に向けて日々努力した。理論を何度も組み立て、実験を続けた。中には危険な実験もあった……しかし、誰かがやるしかなかったんだ!
くそッ!思い出すだけで胸が苦しい……』
『あの実験は不可欠だった……』
『そうだ、ブライがいたから今があるんだ』
『彼を称えよう……』
『あぁ、そうだな……実験役にはブライ自らが名乗り出た。爆発の可能性は知っていた……だが、あそこまでとは……。俺らは、彼が功績を独り占めしたいがために手をあげたと思っていたんだ。だから、敢えて実験を止めなかった……』
『止めるべきだった!』
『誰も止めなかったじゃないか!』
『俺らはみな共犯だ……罪は必ず償おう。
ブライは、死に際にこう言っていた……“世界のために、必ず実用化してくれ”と。今でも忘れない。その言葉が、耳に、頭に、心に染み込んでいるんだ!!』
『我々は彼の最期の言葉を聞いて、三日三晩笑い転げたよ……己の醜さにな』
『泣き続けていた奴がよく云うわ!ブライアンは自分の功績なんて、これっぽっちも考えていなかったな。世界のために役に立ちたいと願っていただけだった……』
『俺らは、8年間休むことなく、死に物狂いで研究に没頭した。ブライがいれば5年……いや、3年で成功したかもしれないがな』
『ブライアンは優秀だったからな……』
『自分のことしか頭になかったのは、むしろ我々の方だったということだ』
『その通りだ!8年もかかって実用化に成功した俺らは、だが……この画期的な発明を世に送り出すことができなかった……』
「どうしてですか!?だって、ブライアンさんはそれが望みだったのでしょう?」
ラールさんが珍しくケンカ腰に問い質す。
『ラールさんでしたか……俺らの立場ならきっと貴女でも同じ判断を下すでしょう。実験は成功した。製品は完成した。しかし、発表したら日の目を見るのは俺たちだ。そこにはブライはいないんだ!ブライなくして実用化はなし得なかった!なのに、ブライを世界は見てくれない!彼に称賛を与えない!尊敬の眼差しを向けることはないんだ!分かるかい?この気持ちが……』
「……」
『そんな時に、君たちの噂を聞いた。耳を疑ったよ……蘇生魔法……不老不死と並ぶ世界の奇跡……まさか、実在するなんて!』
『運命だと信じた!』
『ブライアンに償う機会が与えられようとは!我々の人生は、なんと幸せか!!』
『俺らは誰からともなく依頼をした。ブライと一緒に研究の発表をしたいからな!8年か……随分と待たせてしまったな。怒られるかもしれない、呆れられるかもしれない。だが、彼と共に喜びを分かち合いたいんだ。頼む!お願いします……ブライを、ブライアンを生き返してください……』
僕はルーミィやラールさんを見る。
彼女たちはいつも僕と同じ判断をしてくれる。研究者の方々も、僕たちと同じように信頼し合っているんだろう。
「分かりました。お任せください!」
★☆★
「ロト、アネットの方は明日でも大丈夫だって。今日はブライアンさんをお願いね!」
「分かった……」
また骨か……ある意味、骨の方が気楽だと切り替えるかな。でも、おじさんか……よし、今回はクールにいこう!
「すみません、先に報酬の件を……」
ルーミィ様、すごくがめつい!でも、ありがとうございます!結局、10万リル(1000万円)と新製品をいただく話になったらしい。
『ロトさん、こちらです』
僕たちは客室へと案内された。
レンガを組み合わせたような質素な部屋。隅には木製のベッドが置かれていて、その上には白い棒……いや、骨が見える。ブライアンさんのため、というよりも僕のために……すぐに着られる服も準備されている。
骨……骨……骨……。
3本あるけど、3人も出てきたら問題だ。1本にしよう。僕は最も大きい骨を左手に握りしめ、他の2本は髭に手渡す。
目を瞑り、ブライアンさんを想う。
世界に貢献するため、自ら危険な実験に向かう姿がリンネ様に重なる。ルーミィも骨を相手にソウルジャッジはできないらしいけど、きっと清い心の持ち主なんだろう。蘇生してあげたいと、強く願う!
僕の中にあるリンネ様の魂を感じとる……その温かい力を強く練り上げていく……全身に力が満ちる。そして、左手から、身体全体から銀色に輝く光が溢れ出る!光は部屋を一色に染め上げ、神々しいまでに煌めく!
やがて、光は僕の左手を中心に繭状に収束していく。僕は骨をゆっくりとベッドに置き、両手を合わせて祈りを込める。
光は人の形状に変わっていく……そして、数分後には裸の男性の姿が現れた。
「ブライアンさんですよね?僕はロトと申します。魔法科学の塔の方々から依頼されて蘇生魔法を使いました。貴方は8年の時を経て生き返りました」
現状を把握できず虚空を見つめる男性に、僕は服を手渡しながら説明する。
『研究、実験……爆発…………蘇生魔法……なるほど、蘇生魔法ですか……私は、生きることを許されるのでしょうか』
『勿論です!仲間たちが待っていますよ!』
僕は笑顔で振り返る。そこには号泣して抱き合うおじさん集団があった……。
3時間が経った……。
完全に忘れられたかと思った。
肩を組みながら6人のおじさんたちが現れた時、待った甲斐があったと感じた。仲間か……僕たちとは少し違うけど、仲間って良いよね!!
僕たちは感謝の言葉と報酬を貰い、クラン本部へと戻る途中、クーデリアさんと合流した。
「ロトくん、その世界を変える新しい薬って何だったの?」
「……」
「どうしたの?」
「男性用の精力増強剤だって!」
ルーミィさん……言わなくていいよ……。
その後、研究発表と製品は世界を動かした。確かに幸せを感じる人も、人口も増えそうだ。でも、なんだか大袈裟じゃない!?
名馬エトワールの隣に佇む少女は、口に手を当ててドギマギしながら僕たちを眺めている。
『えっ……あ……気にしなくていいわよ……』
鮮やかな薄紫色の髪先を弄りながら少女が呟く。恥じらいの中に隠された眩いばかりの笑顔を見て、僕は思わずドキッとしてしまった。
あれ……聞き覚えのある声?まさか牢獄の人?いや……エトワールのご主人様は死んでないはずだから、人違いだよね……胸を触らないと分からないや。
「あれ?あなたは……」
ルーミィが邪魔に入る。お決まりのパターンだね……懐かしい。生き返った実感が湧くよ。
『あっ……ちょっと、こっちにいらして!』
ルーミィが紫の少女に連れていかれた。これは……ハーレムの相談か?ハッハッハ!僕のモテ期は継続中だ!
変な妄想を膨らませながら、僕はひたすら名馬エトワールを擦る。背中にもこもこした膨らみがあるなぁ……筋肉かな?さすがは名馬だね??。
「ねぇ、ロトくん!もう1度キスしていいかなー?クーね、癖になっちゃったみたい」
『ワタシも……もう1回しておく』
「って、ミールはまずは服を着て!クーちゃんは顔が近いって!恥ずかしくて死にそう!」
僕はアイテムボックスからシャツを取り出してミールに着させる。シャツ1枚って……裸よりヤバいかも!?とりあえず逃げる一手。
それにしても……たくさん人がいる。アーシアさんと追いかけっこしてるアネットさんはいいとして、ラールさんと話してる赤い服の子は誰だろう?あっ、目が合った!こっち来た!
『魔力は少ないが、確かにリンネ様の魂を受け継いでいるのぅ……』
いきなり心臓の辺りを揉まれた……なにこのセクハラ!許せない!!
「ロト君、こちらは精霊王の不死鳥フェニックス様。勇者リンネ様の……下僕らしいです」
「貴女が、あの伝承のフェニックス様!?」
『ほほぅ!妾は伝承になるほど有名なのか!!引き篭りをやめて良かったぞ』
「はい!霊峰ヴァルムホルンの頂と一緒にリンネ様に吹き飛ばされて下僕にされた大精霊!」
『そっちか!魔王相手に奮闘したでもなく、秩序神に認められて直々に精霊王に任ぜられたでもなく、そっちが有名なのか!!』
全身真っ赤な少女は、昔を懐かしむように、自分とリンネ様の偉業を語り始めた。だいたい知っている話だったけど、何回聞いても興奮するね!
『……でな、妾はお主と契約しに来たわけだ』
突然、目を瞑り、つま先立ちになる少女。
なぜか、タコみたいに唇を突き出している。
『はよせぬか!恥ずかしい』
なにこれ?
ラールさんとクーデリアさんが口を押さえて凝視してる……これ、契約だよね?よし!
『んんっ!う??ん、青春の味わいよのぅ!
さぁ、これから契約の儀式を始めるぞ』
えっ!?……どゆことですか……。
フェニックスは、素早く手を動かして僕たちの周囲に魔法陣を描く。煌めく赤い光と共に、僕の右手の甲には炎の紋章が刻まれる。
フェニックス少女は、笑顔で手を振りながら紋章にスパイラルして消えていった……。
これが精霊契約……しかも、精霊王!うわぁ??、すごいことになっちゃったよ!
呆然と立ち尽くす僕の所に、ルーミィが戻って来た。随分と長話をしていたようだけど、表情は嬉々として明るい。
「ロト、王都に行くわよ!!」
★☆★
僕たちはギルドのティルス支部に帰還した。
僕の捜索と救出が、最重要クエストになっていたなんて……迷子みたいで恥ずかしい……。
参加した冒険者たちは、破格の報酬にホクホク顔だ。僕に感謝して帰って行ったけど、感謝すべきはこっちですから!みなさん、ミイラ取りがミイラになりかけたんですからね……本当にありがとうございました!僕は彼らの後ろ姿に長々とお辞儀をした。
そう言えば、依頼書がアイテムボックスの中に……どうしよう、だいぶ日にちが過ぎてる。まだお昼前だ。間に合うなら1件でも多く蘇生しよう。
【蘇生依頼書】
蘇生対象:アシュリー
蘇生理由:大切な後継ぎだから
種族:人間
性別:男
年齢:15
死因:事故死(崖から転落)
時期:今朝
職業:薬師見習い
業績:調合技術が優秀
報酬:○お金、○物品、その他
メモ:
依頼者の関係:祖父
【蘇生依頼書】
蘇生対象:ブライアン
蘇生理由:魔法科学の発展のため
種族:人間
性別:男
年齢:48
死因:爆死(実験中の事故)
時期:8年前
職業:魔法科学者
業績:薬学、結界学に寄与、受賞多数
報酬:○お金、○物品、その他
メモ:
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死因:非公開(自殺)
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職業:奴隷
業績:なし
報酬:お金、物品、○その他
メモ:
依頼者の関係:エルフを守る会
「受付のサラさんから聞いたんだけど、1件目の薬師の人は既に火葬済だって……」
「そうか……申し訳なかったね……」
「今日と明朝で残り2件の依頼をこなして、明日の午前中には王都に出発するわよ!」
「了解!まずは話を聞きに行こう!」
★☆★
町の南側、文教地区に建つ魔法科学の塔なる場所を訪れた僕たち。メンバーは3人だ。僕とルーミィとラールさん。ミールは妖精会議、クーデリアさんはコンサートの準備、アネットさんはアーシアさんと一緒にもう1件の方へ行っている。
『やぁやぁ、こんにちは、未来ある若人たちよ!連絡がないから諦めてたよ。さぁ、こちらへ!』
玄関で髭のおじさんに待ち伏せされていた。白髪細身に白衣……思っていたよりも明るい。科学者ってのは、湿った地下室で狂気じみた笑みを浮かべながら丸底フラスコを振っているイメージがあった。
僕たちは彼に連れられて会議室に入る。
座席が既に5人分埋まっている。みなさん、同年代の方々だ。やはり明るく迎えられた。
「エンジェルウイングのルーミィです。こちらは蘇生魔法使いのロト、助手のラールです。ブライアンさんのこと、聞かせてください」
明るい雰囲気に後押しされて、秘書が笑顔で切り出す。
しかし……“ブライアン”さんの名前を出した途端、一気に陰鬱な空気に変わる。蒼ざめ、下を向く彼らは互いに肘でつつきあう。やがて、意を決した髭がぼそっと呟いた。
『……俺たちがブライを殺した……』
歯を食い縛る科学者たち。唖然とする僕たち。ルーミィは髭の顔をじっと見つめ、続きを促す。
『画期的な発見だった。内容は明かせないが、世界の常識が変わるほどのな!俺らは実用化に向けて日々努力した。理論を何度も組み立て、実験を続けた。中には危険な実験もあった……しかし、誰かがやるしかなかったんだ!
くそッ!思い出すだけで胸が苦しい……』
『あの実験は不可欠だった……』
『そうだ、ブライがいたから今があるんだ』
『彼を称えよう……』
『あぁ、そうだな……実験役にはブライ自らが名乗り出た。爆発の可能性は知っていた……だが、あそこまでとは……。俺らは、彼が功績を独り占めしたいがために手をあげたと思っていたんだ。だから、敢えて実験を止めなかった……』
『止めるべきだった!』
『誰も止めなかったじゃないか!』
『俺らはみな共犯だ……罪は必ず償おう。
ブライは、死に際にこう言っていた……“世界のために、必ず実用化してくれ”と。今でも忘れない。その言葉が、耳に、頭に、心に染み込んでいるんだ!!』
『我々は彼の最期の言葉を聞いて、三日三晩笑い転げたよ……己の醜さにな』
『泣き続けていた奴がよく云うわ!ブライアンは自分の功績なんて、これっぽっちも考えていなかったな。世界のために役に立ちたいと願っていただけだった……』
『俺らは、8年間休むことなく、死に物狂いで研究に没頭した。ブライがいれば5年……いや、3年で成功したかもしれないがな』
『ブライアンは優秀だったからな……』
『自分のことしか頭になかったのは、むしろ我々の方だったということだ』
『その通りだ!8年もかかって実用化に成功した俺らは、だが……この画期的な発明を世に送り出すことができなかった……』
「どうしてですか!?だって、ブライアンさんはそれが望みだったのでしょう?」
ラールさんが珍しくケンカ腰に問い質す。
『ラールさんでしたか……俺らの立場ならきっと貴女でも同じ判断を下すでしょう。実験は成功した。製品は完成した。しかし、発表したら日の目を見るのは俺たちだ。そこにはブライはいないんだ!ブライなくして実用化はなし得なかった!なのに、ブライを世界は見てくれない!彼に称賛を与えない!尊敬の眼差しを向けることはないんだ!分かるかい?この気持ちが……』
「……」
『そんな時に、君たちの噂を聞いた。耳を疑ったよ……蘇生魔法……不老不死と並ぶ世界の奇跡……まさか、実在するなんて!』
『運命だと信じた!』
『ブライアンに償う機会が与えられようとは!我々の人生は、なんと幸せか!!』
『俺らは誰からともなく依頼をした。ブライと一緒に研究の発表をしたいからな!8年か……随分と待たせてしまったな。怒られるかもしれない、呆れられるかもしれない。だが、彼と共に喜びを分かち合いたいんだ。頼む!お願いします……ブライを、ブライアンを生き返してください……』
僕はルーミィやラールさんを見る。
彼女たちはいつも僕と同じ判断をしてくれる。研究者の方々も、僕たちと同じように信頼し合っているんだろう。
「分かりました。お任せください!」
★☆★
「ロト、アネットの方は明日でも大丈夫だって。今日はブライアンさんをお願いね!」
「分かった……」
また骨か……ある意味、骨の方が気楽だと切り替えるかな。でも、おじさんか……よし、今回はクールにいこう!
「すみません、先に報酬の件を……」
ルーミィ様、すごくがめつい!でも、ありがとうございます!結局、10万リル(1000万円)と新製品をいただく話になったらしい。
『ロトさん、こちらです』
僕たちは客室へと案内された。
レンガを組み合わせたような質素な部屋。隅には木製のベッドが置かれていて、その上には白い棒……いや、骨が見える。ブライアンさんのため、というよりも僕のために……すぐに着られる服も準備されている。
骨……骨……骨……。
3本あるけど、3人も出てきたら問題だ。1本にしよう。僕は最も大きい骨を左手に握りしめ、他の2本は髭に手渡す。
目を瞑り、ブライアンさんを想う。
世界に貢献するため、自ら危険な実験に向かう姿がリンネ様に重なる。ルーミィも骨を相手にソウルジャッジはできないらしいけど、きっと清い心の持ち主なんだろう。蘇生してあげたいと、強く願う!
僕の中にあるリンネ様の魂を感じとる……その温かい力を強く練り上げていく……全身に力が満ちる。そして、左手から、身体全体から銀色に輝く光が溢れ出る!光は部屋を一色に染め上げ、神々しいまでに煌めく!
やがて、光は僕の左手を中心に繭状に収束していく。僕は骨をゆっくりとベッドに置き、両手を合わせて祈りを込める。
光は人の形状に変わっていく……そして、数分後には裸の男性の姿が現れた。
「ブライアンさんですよね?僕はロトと申します。魔法科学の塔の方々から依頼されて蘇生魔法を使いました。貴方は8年の時を経て生き返りました」
現状を把握できず虚空を見つめる男性に、僕は服を手渡しながら説明する。
『研究、実験……爆発…………蘇生魔法……なるほど、蘇生魔法ですか……私は、生きることを許されるのでしょうか』
『勿論です!仲間たちが待っていますよ!』
僕は笑顔で振り返る。そこには号泣して抱き合うおじさん集団があった……。
3時間が経った……。
完全に忘れられたかと思った。
肩を組みながら6人のおじさんたちが現れた時、待った甲斐があったと感じた。仲間か……僕たちとは少し違うけど、仲間って良いよね!!
僕たちは感謝の言葉と報酬を貰い、クラン本部へと戻る途中、クーデリアさんと合流した。
「ロトくん、その世界を変える新しい薬って何だったの?」
「……」
「どうしたの?」
「男性用の精力増強剤だって!」
ルーミィさん……言わなくていいよ……。
その後、研究発表と製品は世界を動かした。確かに幸せを感じる人も、人口も増えそうだ。でも、なんだか大袈裟じゃない!?
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彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
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