アーマードヘクス

ハヤシカレー

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第4話 家族と記憶に擬態虫

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——ターン2階

「旺夜早く! 早く食べよ!」
「ぁぁぁ……先食べててくれ……」
「一緒に食べる!」

 朝9時、俺……兜輝 旺夜は生依に目覚め、朝食を摂る事を催促されていた。
 どうやら必殺撃を放っている状態で更に必殺撃を重複させると相当な体力を使う事となり、それが原因で今、俺は起きれないらしい。

『いやもう体力は回復してるからお前が起きようとしてるだけだぞ』

 馬鹿な事を言うな、ヒーローが朝寝坊な訳ないだろ。

『あまり自分をヒーローと言うな、そういうのは他人が言う事だ』

 ガイセクトのくせにヒーローを語るなよ。

『俺はただのガイセクトではないからな』

 そういえばそうだったな……はぁ……仕方ない。

「起きるっ……かぁ……!」

 全身に重しが付けられた様にベッドに引っ張られる身体を起こし、立ち上がる。

「よし早く! 早く朝ごはん食べよ!」
「分かったからあんまり大きな声を出さないでくれ……」

 朝から異様な程に活力溢れる生依に手を引かれ1階へと降りていく……というより降ろされる。

「今日はね今日はねぇ……なんだと思う!?」
「えー……まぁ朝だしサンドイッチとか?」
「正解はね……私も知らない!」
「おい」

 答えの出ない問題を出すな、そういうキックで解決出来ない様な問題はやめてくれ。

『なぁ旺夜、こいつゲロの時といい頭おかしいだろ』

 俺の可愛い娘になんて事を言うんだ、コンプラ的にも大分許されないぞ今の発言は。

『お前の娘じゃないだろ何歳で作ってんだ』

 単純計算で5歳になるな。

「おぉ、やっと起きた」
「おはよ……っと」

 ゆっくりと、重い身体を支える様に慎重に椅子に腰掛ける。

「旺夜も来たし朝飯にしようか、今日はハンバーガーだ」
「朝から……!?」

 とてもじゃないが日本人の胃では耐える事が出来ない。

「いつガイセクトが出るか分からないからな、朝から力を付けておかないて損は無い」
「しかもクソでかい……」

 握り拳くらいはあるパンズに、3枚の肉、4枚のトマト……そしてキャベツとレタス、その両方が使われていた。

「ほら旺夜! 早くいただきますしよ!」
「あぁ……悪い、デカすぎて圧倒されてた」

 まぁ、割とお腹は空いてるしいいか。

「それじゃあ……」

 生依が勢い良く手を合わせ、それに続き俺と大牙も手を合わせる

「「「いただきます」」」

 そう、新たな生活を始める様に言ったのだった。


——遊具の無い公園

「うおらぁぁっ……しまった!」
「おい何やってんだよー」
「はよ取り行け」

 ボール蹴りをしていた少年達の内の1人がミスをし、公園外にボールを出してしまった。

「あっ……すみません! 投げてくれませんか!?」

 公園横の路地、そこに立っていた男がボールをキャッチした。
 少年に言われた通り、投げようとした直後……

「ダルァァァァ!」

 ダンゴムシの害虫……ダンゴムシガイセクトとなり、投げられたボールは音速を超え少年の頭部を木っ端微塵に砕いた。

 死体が倒れた瞬間他の少年達は蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す。

「逃がさない……よ」

 ダンゴムシは跳び、身体を丸め漆黒の球体となり回転し駆け出す。

 逃げ惑う少年を1人1人背後から轢き、回転に巻き込んで押し潰し地面に擦り付ける。
 そして、公園から人は消え……地面には赤い汚れがこべりついていた。


——ターン1階

「はっ……むぅ!」

 生依は大きく口を開き、1口でハンバーガーを捕食した。

『おい旺夜こいつ人間じゃねぇ!』

 俺の可愛い娘になんて事を。

『だからお前の娘じゃねぇだろ!』

 そう、新しい日常を……久々の平和をハンバーガーと共に噛み締めていた時だった。

『千葉県 松戸市にガイセクトが出現、殲滅隊出動せよ、またガイセクトは擬態型という情報がある、民間人に紛れている可能性も考慮し捜査しろ』

 サイレンが鳴り響き、俺達3人は即座に動き出した。
 ハンバーガーを食べ切れていない、まだ平和を味わっていたい……だがガイセクトが現れたのなら話は別だ。
 平和を放棄してでも戦わなければならない。

『あぁそれと、大牙君は本部に来てくれ』
「っ……」

 何故大牙が呼ばれたのか、その理由は分かっていた。

 アーマードヘクス、つまり俺にマッハビートラーを使用させた事についてだろう。

「……分かった」

 大牙は武器をカウンターに置き、1人ターンから出発した。


——自然公園

「脚本家に言われたのここで合ってるよね?」
「合ってる……な、結構広いし手分けして探すぞ」
「一緒に探す!」

 いままでならここで了承して一緒に探していただろう、だが今は状況が違う。
 生依とは1度、別行動を取らなければならない。

『走って無理矢理別行動って事にするか?』

 いや普通に説得する。
 走ったところで生依から逃げる事は出来ないからな。

「この公園内でガイセクトを2人とも探すんだ、つまり別行動をしても一緒に探している事になる!」

 言っている自分からしてもめちゃくちゃな理論……というかもはや屁理屈だが行けるか……?

「……なんで騙そうとするの」
『逃げるぞ』

 ヘクスが本気で怯えた様な声を脳内に響かせる。

「なんで……ねぇなんっ」
「ダルァァァァ!」
「っ危ない!」

 危機出現

 生依がただならぬ雰囲気……声色で迫ってきていた時、突然背後から黒い球体の様な物が転がり迫っていた。
 反射的に生依の肩を掴んで横へ跳び、球体を回避する。

 この球体……黒い球となる虫と言えば……

「ダンゴムシか!」
「だるるあぁぅ!」

 球体は停止し跳躍し、そして人型に……ダンゴムシガイセクトとなった。

「っし、行くぞ生依……!」
「うん!」
「ダルァ!」

 俺と生依が戦闘態勢を構えようとするとダンゴムシは再び球体となり、公園を囲う策を破壊して道路を駆け出す。

「っ……俺が追跡するから生依は手榴弾をターンに取りに行ってくれ! 害虫が停止したら連絡する!」

 そう、別行動の理由付けをし走り出し、マッハビートラーを発進させた。

『逃げ出してくれて結果的には有難かったな!』
「あぁ……これで心置き無く戦える!」

 まだ朝早い為周囲に人も居らず、目撃される事は無い。

「変身!!」

 マッハビートラーに搭乗したまま、右腕をカブトムシの角の様に掲げ、そしてヒーローとして叫んだ。

「いっ……くぜぇ!」

 マッハビートラーは加速し、球体との距離をどんどんと縮めていく。

『旺夜! こんな団子野郎普通の蹴りで倒せんぞ!』
「了解!」

 シートの上に立ち、跳躍し右足を振り上げた。

「おらぁぁああぁっがぁぁあ!?」

 右足を振り下ろしたが球体の回転により火花を散らし、一瞬にして削り散らされた。

「いっ……てぇえ! おいヘクス! 何が普通の蹴りで倒せるだよ!」
『うるせぇ! さっさと再生させて追え!』

 ヘクスは自分の失敗をうやむやにする様に右足へ力を集中させる。

「帰ったら覚えておけよ……っし治……逃げられた……」

 右足を再生し立ち上がるがもう球体の……ダンゴムシガイセクトの姿は無かった。

「1度ターンに戻って戦い方を考えるか」


——高所、路地

「俺が……か……」

 二双 大牙は本部から自然公園へ行き、そして既にガイセクトが逃亡している事を知り近辺を捜索していた。
 その顔には、決断のつかない様な迷いが浮かんでいた。

「ん……」

 木々に囲まれた小さな神社、その前を通った時、視界に入り……気が付いた。

「おい君、大丈夫か……?」

 神社には賽銭箱に背をつけ、体育座りで俯く4歳程の少年の姿があった。

「……」

 少年は返事をしない、ただ俯き……そして身体を丸まる様に両膝を強く抱き締めるだけだった。

「親とはぐれでもしたか?」
「……ん」

 隣の地面に尻を付け、顔を見ずに問いかけると少年は小さく声を出し頷いた。

「迷子か……家までの道は分かるか?」
「分かんない……」

 まぁ、分かっていたら迷子にはなっていないよな。

「母親がどこにいるかとか……そうだ、親の仕事先って分かるか?」
「分かんないよそんなの……お母さんと公園で追いかけっこしてたら急にお母さん居なくなって……」

 公園……自然公園の事だろう、そこではぐれたとなると……いや、この事は考えない様にしておこう。
 まだ自然公園にダンゴムシによる殺害の痕跡は見つかっていない、単純にはぐれた可能性の方が高い……きっとそうだ。

「母親と追いかけっこ、か……やっぱり親子ってそういうものなのか……」
「お兄さんはしなかったの……?」
「俺は……覚えないんだ、家族の事……家族が生きていたはずの時の事を……」

 俺は……二双 大牙は10年前のあの日、家族だけでなく自分自身も失っている。

 つまり、そう……一言で表すのなら……



 記憶喪失


——10年前

 なんだここ、なんなんだここは……表すとしたら、そう……地獄というやつなのだろうか。
 目覚めた時、周囲の建造物は全て破壊され、全てが緑の炎に包まれていた。
 一体……一体どうして俺はここにいるのだろう。
 俺は眠る前に一体何を……

「何をしていたんだ……?」

 分からない、思い出せない、まるでこれまでの記憶そのものが消えている様な……元から無かった様に感じる。

「俺は、俺は誰だ……」

 名前も家族も何も思い出せない……俺は一体……俺はなんなんだ……
 この地獄の中、何も知らず俺は何をすればいいんだ……?

「俺、は……っ!」

 危機出現

 その時、緑の中思考を巡らせていた時の事だった。
 現れた、それが……害虫が……ムカデが……

「しぃぬぇ……」

 ムカデの体色は赤かった、だがその赤の上に黒ずんだ赤色……そう、返り血が染み付いていた。
 それはつまり……こいつは既に無数の人間を殺している、そして……俺もこれからその内の1人に……こいつの体色の1部となる。

「ハァアアアッ!」
「ぴせをあ!?」
「っ!?」

 ムカデの拳が俺の頭を衝突する寸前、どこからか現れた男の飛び蹴りによってムカデは吹き飛ばされた。

「大丈夫か大牙!」
「お前俺を知っているのか!?」

 こいつが俺に対し言った言葉、”大牙”、それが名前……俺の名前だとすれば……

 この男は俺を知っている、この男が俺を教えてくれるはずだ。

「教えてくれ……俺は……俺はなんなんだ!?」
「……お前は、お前の名は二双 大牙……今はそれだけ分かっていればいい!」

 それだけ言い、男はムカデを追い、立ち去って行く。
 その背はまるで運命に強いられている様に、何かを成す為に走り出した様に見えた。


——小神社

「じゃあその人がお兄さんの家族なんじゃ……」
「かもな、かもしれないが……あれ以来会えていないし顔も思い出せない……それにもう……」

 死んでいる。

 あの日、あの街で生き残ったのは5人だけだったのだから……

「っと、こんな昔話はどうでもいいな、それより君の母親を探さないと」
「ありがと……ございます……」
「しっかり礼が言えて偉いな」

 礼が言えて偉い……本当に偉いのだろうか。
 幼かった頃の俺は、この少年の様に人に対してお礼を言えていたのだろうか……

「とにかく行こう、母親も君を探しているはずだ」

 そのはずだ、母親は子供を探している、俺の母親も……幼い頃の俺が迷子になったのなら……きっと……


——自然公園付近

「旺夜どこ……一緒、一緒じゃないと……」

 生依は1人、自然公園の近辺で兜輝 旺夜を探し、求め歩き回っていた。

「旺夜」

 そして、生依の求める旺夜は……


——ターン2階

「だから! あの回転を止めなきゃ必殺撃をしても意味が無いって言ってるだろ!?」
『いいや行ける! 俺のヘクスターミネートに倒せない物なんて存在しない!』
「この馬鹿が! お前は自分の馬鹿力を馬鹿みたいに過信し過ぎなんだよ馬鹿がよ!」

 旺夜は……ヘクスと低レベルな喧嘩を繰り広げていた。


——自然公園

「どの辺ではぐれたんだ?」
「えっとね……あっちの方の奥の草むらの辺り!」

 少年の誘導に従い、市の育てる畑に挟まれた道を進むとその奥には一面緑の草原が広がっていた。

「随分と広いな……」

 本当に広い……確かに、こんな所で追いかけっこをし、無我夢中になり走っていたとしたらはぐれてしまうのも納得出来る。
 目を瞑り時間を数えている間に、もしくは少しでも目を離した隙に、はぐれしまったのだろう。

「なんだこの汚れ……っボール?」

 草原をしばらく歩いていると白い、ボーリング玉程度の大きさボールが落ちていたのを発見する。
 ビニールで出来ている為重さ自体は皆無である。

「このボール、君のか?」
「えっ……」

 俺の言葉に少年は一瞬、予想外の事に動揺した様な顔を見せる。
 少年の物ではなかったのだろうか……だが、違っていたとしてもこんなに驚くものなのか……?

「あっ僕のです……ごめんなさい少し考え事してて……」
「そうか……」

 考え事、というのは母親の事だろうか。
 やはり不安なのだろう、少年くらいの歳の子にとって親というのは最も信頼出来る、出来なくてはならない相手のはず、だから、やはり探し出さなくてはならない。
 だが、今の不安を少しだけでも無くす為に、俺に出来る事は……

「少しキャッチボールでもするか」
「えっ」
「よっと」

 軽く、あまり高く飛ばない様に力を抜いて投げる。
 白いボールは一瞬雲に重なり消えて様に見えた。

「うぉあぁ……」
「ほら、全力で投げてこい!」
「っ……えい!」

 少年は両腕で振り下ろす様に投球した。
 年相応の力、そう感じたがどこか違和感がある……わざと弱々しく投げている、そんな風に感じた。

 飛んできたボールを掴み、軽く投げ、また投げられ軽く投げ返す。

 その白い球体でのやり取りは何度も何度も繰り返される。
 同じ繰り返しの中でたまに勢い、向きが変わり、1度の変化により繰り返しは別の繰り返しへと変化する。
 そしてその変化を繰り返す事で初めとは全く違う投げ方となっていく。

 俺もこうやって家族とキャッチボールをしていたのだろうか。
 父、母、もしくは兄弟と……ボールを通じてやり取りを繰り返していたのだろうか……いやしていたのだろう。
 俺が忘れている、忘れてしまっただけでしていたはずなんだ。

「あれ……」

 気が付くと投球の繰り返しは終了していた。
 思考を巡らせている間にキャッチボールは終わり、そして……

「円也!」

 1人の女性、少年……円也の母親と思われる女性が現れた。

「っ……お母さん!」

 円也は表情を明るくし、女性に向かい走り出す。
 何も無く再会出来て、終わって良かった……いや……待てよ……

「擬態型……」

 そうだ、出現報告の際に脚本家は擬態型である、そう言っていた、となると……確かめた方が良さそうだな……

「少し待て」
「えっ……」

 円也と女性の間に割り込み、女性の目の前に立つ。
 人間か害虫か、それを見分ける方法は1つだけ……簡単な方法が1つだけ存在する。

「おらぁ!」
「っ!?」

 俺は右拳を全力で女性の顔面に向かい放った。

「……っ?」
「違うらしいな」

 鼻先の距離残り僅かの所で拳を止めた。
 見分ける方法、というのは単純に危機を感じた際に人間のままか反射的に害虫の姿となるか、それだけの事である。

「何するんだよ!?」
「……元気に生き続けろよ」

 困惑し、怒り叫ぶ円也の肩に手を置き、背を向けて歩き出す。
 弁解はしない、このまま別れれば彼が俺と関わる事はもう無いはずだから。
 一般人は普通の人生を、俺が失い手に入れられなかった普通を生きていればいい。

 そう、どこかお話にオチを付ける様に脳内で文字を連ねていた時の事だった……

 何か、何かが落ちる様な音がした。

 その音は……そう、音鈴がコオロギの攻撃により倒れた時と同じ……若干違うが近い音だった。

「……」

 振り返る、振り返った、その視界には、その景色の中には居た……それが立っていた……

 変貌

 危機出現

 立っていた、そこには害虫……ダンゴムシガイセクトがたたずんでいた。

 そして、その足元には……

「畜生め」

 女性、円也の母親が頭部を砕き、緑の上に散らされ倒れていた。


「残念! 害虫でした!」

 ダンゴムシは両腕を広げ、嘲笑する様に言う。
 女性の死体を邪魔と言う様に蹴飛ばす様子は邪悪そのものだった。

「いやぁどういう風に君達殲滅隊を殺すのがいいかなぁっと思ってたんだけどね、結構良くない? 助けようとした子供が実は怪人でしたっていうの……その子供に殺されるっていうの」

 ダンゴムシは害虫のくせして人間の言葉を流暢に扱う。
 人間の心の仕組みを理解している様に、精神を逆撫でする様に、人間に人間の言語で、口論での戦いを挑んでくる。

「ほら、ほらほら! 黙ってないで何か反論してよ! 虫と議論してよ人間さん!」
「議論、議論か……」

 害虫が言葉で戦おうというのなら俺は……人間として……

「暴力で戦おう……ぜ……」

 そう、普段とは口調を変え、そして……

「何それ……?」

 右腕にシュランテバングを装着した。


——回想、本部、司令室

「おぉ、来てくれたか大牙君」
「……」
「どうしたんだい? そんな死ぬ覚悟でも決めた様な顔をして」
「そりゃあする、俺はガイセクトにマッハビートラーを渡して、つまり裏切り者だからな」

 どんな罰を受けてもおかしくはない、自分の命で償えるのかも分からない……だが覚悟は出来ている。
 たとえ俺がどうなろうと旺夜が……アーマードヘクスがガイセクトを殲滅してくれるはずだから。

「え、別にその件はどうでもいいんだけど、想定内だったし」
「なっ……じゃあ何故俺を読んだんだ……」

 想定内、という事はこいつは……脚本家はマッハビートラーをアーマードヘクスが搭乗する、その前提で開発していたというのか?

「これだよこれ、シュランテバング……これを君に渡したくてね」
「なんだそれ……シュランテ……」

 脚本家は白衣の内ポケットから青と銀の腕輪を……シュランテバングを取り出して見せつけてくる。
 シュランテ、というのは何かの造語だろうか。

「ガイセクトも一気に強くなったからねぇ、こちらも戦力の増強をと思ってね」
「新しい武器か……何を仕込んであるんだ?」

 こんな小さな腕輪の中にガイセクトを倒す事が出来る何かが入っているとはとてもじゃないが思えない。

「鎧だよ、君が変貌、変態……そして……」

 脚本家は心の内までを見通す様に、強く見つめてくる。

「アーマードシュランテに変身する為の鎧だよ」
「アーマード!?」

 アーマード、その名はつまり……旺夜と同じ……

「っ……待てよ」

 もし、もし本当にこんな小さな腕輪でアーマードヘクスと同等の力を手に入れたとしよう。
 だが、そうだとするならば何故その技術を扱わなかったんだ……?
 これまでと比べ強力なガイセクトが現れたから開発を急いだ、急いだ……それだけで技術が進化するはずがない……という事はつまり……

「犠牲が出ると理解していて、その上で最新ではない技術を渡していたんだな……っこの畜生が……!」

 こいつはきっと知っている、旺夜がアーマードである事を知っている。
 そして旺夜に戦う事の覚悟を決めさせる、その為に奇龍をムカデに変貌させるよう誘導した……!

「いつか……いつかお前をぶっとばしてやる……!」
「残念だけど、物語の筋書きにそんなくだりは無くてね」
「……だったら」

 なら、それならこうすればいい。

「今ここでぶん殴る!」
「はぶっ……!」

 脚本家の顔面を、数段上の上司の顔面を全力でぶん殴ってやった。

「はは……はぁ……!」
「っ……?」

 気味の悪い笑い声を上げ、揺らめく影の様に立ち上がりそして不敵な笑みを浮かべた。
 何か、本能的な……いや生理的な嫌悪を、そして恐怖を感じる。
 こいつは本当に人間……いや人間なのだろう。
 害虫なのであれば本能的な恐怖と憎しみを覚えるはずなんだ……だがこれは……この生理的な何かは……人間に対してしか感じない。
 同種族だからこそ、醜い同種を嫌うんだ。

「やはり君がこれを使うべきだねぇ……!」
「っ……お前みたいな奴が同じ種族だと考えると反吐が出る……が……これは受け取らせてもらう」

 強く、鋭く睨み付けシュランテバングを受け取った。
 この男は信用ならない、そしてこの力もするだって信用する事は出来ない……だが……それでも……

「ガイセクトを殲滅する力は必要だからな……」

 そして、旺夜……アーマードヘクスと共に、肩を並べて戦う為にも必要だから。
 シュランテバングをポケットにしまい歩き出した。

「君と僕が同種族……本当かなぁ……?」

 大牙の去った司令室でただ1人、脚本家は嘲笑う様に、どこか不安げに呟くのだった。


——回想終了、自然公園

「なるほどねぇ……じゃあアーマードに変身して僕と戦おうってわけだ」
「変身じゃない……俺自身は変わらない……鎧を装甲するだけだ」

 変貌、変態、そして変身でもない……俺が、二双 大牙がするのは……



 アーマー装甲ド……!



『鍬形の将軍よ、切断せよ、駆逐せよ、殲滅せよその敵を……! アーマード……シュランテ!』

 シュランテバングから放たれた青く輝く粒子が俺の身体を覆い、そして鎧となり装甲し……白い鎧、鍬形の将軍、そしてクワガタの鎧……アーマードシュランテとなった。

「行くぜ……!」

 戦闘開始

 両腕を広げ、そして跳躍する。

『ツインサイザー……!』
「せぁぁあ!」

 シュランテバングから新たな輝きが放たれ、広げられた両腕の先、両手の中に青い双剣を作り出す。

「ダルァ!」
「っ……!?」

 落下し双剣がダンゴムシの頭部を切り裂こうとした瞬間、ダンゴムシは身体を縮め黒い球体となり双剣を弾いた。

「セッ……アァアアァァア!」

 弾かれ、着地した瞬間に双剣を投げ捨て球体に向かい疾走する。

「せがぁっ……!?」

 球体との衝突寸前に勢いを殺し、停止し右拳を放った……が、球体に傷1つ付ける事無かった。

「ははっ……ダルァゥゥア!」

 球体はダンゴムシに姿を戻し、ヒビの入った右腕を弾き、俺の頭部めがけて左拳を放つ。

「ダル……ァ?」
「効かねぇなぁあ……!」
「はぎぃっ!?」

 ダンゴムシの拳はシュランテの頭部に一切の傷を付ける事は無かった。
 一切首をずらす事無く、仮面越しにダンゴムシを睨み拳をその顔面に叩き込んだ。

「だるぃるぁぁ……!?」

 ダンゴムシの頭部にはヒビが走り、そして凹み緑の血が吹き出し、流れ落ちる。

「殺す……俺はお前らガイセクトを殺し尽くす……!」

 その為にこの力を……アーマードシュランテの力を行使する。
 軽く吹き飛び地面に尻を付いたダンゴムシにゆっくりと近寄り、右腕を振り上げた。
 
「っ……ま、待ってよお兄さん!」

 ダンゴムシは円也に姿を変え、命乞いをする様に両手を前に出す。

「誰が待つか……!」

 醜い、あまりにも醜すぎる……こんな生命が、子供の……守るべき命の姿を利用して生き延び、そして見逃した相手の命を奪おうと策略する様な生命が存在していいはずがない。

「俺はお前を殺す……お前を殺さなければならない!」

 こんな腐り切った生命は断たなければ、絶たなければならない!
 俺が……今ここで!

 その思いを込め、右腕を振り下ろした。

「やっぱり家族との記憶が無いから薄情なのかなぁ!?」
「っ!?」

 思わず右腕を止めてしまった。
 家族との記憶、思い出が無いから薄情……それがあったらこいつを殺せないのか?
 俺が家族という概念を理解していないから、だから殺す……それは……俺は……

「家族を覚えてないなりに僕を……俺を助けようとしたらしいがなぁあ! はは! 家族との記憶があれば俺の正体を見抜けたのかもしれないのによぉぉお!」

 俺が家族を記憶していれば見抜けたのか?
 俺が……俺のせいで円也の母親は死んだのか……?
 俺は……記憶は……

「俺の……っがあぁい!?」

 思考の中へと沈みかけた時だった、突然シュランテの鎧に青い稲妻が走り内部の俺の肉体を焼き尽くす。

「あっ……ぁあぁあああがぁぁあ!」

 激痛が、神経の全てが切断される様な感覚が連続して発生する。
 まるでシュランテが、いや俺自身が戦いを拒んでいるかの様に……

「はは! どうやら僕の勝ちみたいだねぇえええ!」

 ダンゴムシの右拳が迫る、今の状態ではおそらく、シュランテの装甲は簡単に破壊され……そして俺は死ぬだろう……でも、それでも、俺が死んでもアーマードヘクスがいる……だから……

「ヘクスターミネートォォオオオ!」
「っダルァァ!」

 必殺撃

 右拳が俺の命を終わらせる寸前、上空からアーマードヘクスが現れ、その必殺撃を回避しダンゴムシは逃亡する。

「また逃がした……っ大丈夫か!?」
「ぃあがぁいぁあっ……あ、あぁ……」
「大牙……!?」

 ヘクスはダンゴムシを追いかけず、もがき苦しむ俺に駆け寄りシュランテバングを無理矢理腕から外した。
 シュランテの鎧は粒子に変換しシュランテバングの中へと戻っていく。

 何故稲妻が発生したのだろうか、シュランテの鎧が俺を弾いたのだろうか……俺が家族を覚えていないから……薄情で、ヒーローになれる人間ではないから……


——支部、病室

 家族とはなんだろう、
 記憶とはなんだろう、
 ヒーローとはなんだろう……

「あぁぁ……!」

 俺は何者なんだろうか。
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