耳が痛い話にご注意を。

はじめ

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第二章 恋の闇

弁明

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 復讐。なんて言えば度が過ぎてるが、それでもこれは誰がどう見ても復讐の一つだろう。
 火のないところに煙は立たぬとは言うが、これほど早く煙が周りの目に止まるとは流石に思っていなかった。
 いや、違うか。
 確かに俺たちは、それが人の目に止まる瞬間に気付いていた。しかも、おそらく一番目にしてはいけない人に。
 そこら中で、アイツ……みたいな目を向けられている。
 昨日の昼飯からこうも事態が急展開するなんて誰が予想しようか。
 学生食堂のテラスに腰を落ち着けていると、突然野太い声がやってきた。
「お前……ちょっと面貸せや」
 血管が浮き出るほどに闘争心を燃やした男三人だ。
 怒りというのは最も原始的な感情だ。こういう時の心は見えやすい。実際俺には彼が心の中で、由良ちゃんを悲しませやがって、と考えてるのが見えていた。そして同時に、あろうことか逢坂智美と付き合ってるだと? とも。
 こういう時物怖じすると大抵その弱みに付け込まれる。敢えて俺は男に詰め寄る形で一歩前に出た。
「な、なんだよ……」
「お前ら早く片蔵の本性に気付いた方がいいぞー。あと、逢坂とはなんの関係もないからな」
「え、あ、は?」
「おおかた片蔵に何か吹聴されたんだろうけど、確認もせず突っ込むのは良くないな?」
「な、なんだこいつ気味悪いな……行くぞ……」
 誰だって心を読まれるのは気持ちがいいものではない。いつもはひた隠しにしている心を見ることを意図的にやってしかも口から出力したのだ。理解できない気味の悪さに恐怖するのが自然だ。
 怒りより大きな不快に支配されれば、結局人は怒りを忘れる。単純な生き物だ。
 しかし面倒なことになった。こうなってしまえば片蔵問題も逢坂との連絡も簡単には行かなくなった。
 とりあえず噂に関しては最初のうちはさっきの男たちのようにすればいいかもしれないが、そのうち慣れると効かなくなるし、片蔵にも逢坂にも接触を図りづらくなるとなれば、そもそも問題を解決できなくなる。
 考えろ、新倉理也。とりあえずこの場で一番優先すべきはなんだ。
 どこかに、冷静になろうとする自分と焦っている自分がいる。その二人の自分の意見がぶつかり合って、自分が何を考えているのかも見えてこない。
 どうしたらいい。
「おい」
 頭を抱えているとその上から声が降ってきた。
「一体どういうことだ、理也」
「あ、ああ、大志か……」
 顔を上げると少しギラついた目をした大志が俺の方を睨んでいた。
「何があったらこうなるんだ? 片蔵のやつ余計意味不明になってるぞ」
「紆余曲折あってな……」
「……退っ引きならない事情がありそうだな」
 洞察力の鋭い大志は俺の表情から何かを察したようだった。
 大志は俺の服の肩あたりを掴んで俺を立ち上がらせた。
「とりあえずシャキッとしろ。今から飲みに行くぞ」
「そんな顔死んでたか……?」
「お前はたしかに変わってきてはいるが、少なくとも昔の自分がいなくなることはないからな。焦った時には酷い状態になる」
「敵わんな」
「そこは礼を言うところだろ」
 そうやって二人で笑う。
「細かい話は飲みの時に聞こう。まずは一旦このことについて考えるのをやめよう。心を落ち着けるなら一時休戦する方がいい」
「そうだな」
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