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『特別な人』136

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 そして明けて金曜日の朝、相馬さんと仕事の打ち合わせをする。


「相馬さん、私今日は保育所の方の夜間保育には入らなくてよくなりましたので、
急な仕事がなければ久しぶりに定時帰りしたいと思います」


「そうなんだ。んっと……、大丈夫だと思う」

『よしっ、久し振りに早く帰れそう、やったー』

 ここのところ金曜は定時で帰れたことがなかったのでうれしい。

 凛ちゃんと相原さんに会えないのは寂しいけど。

 果たして……。
 勤務を終えて1階まで降り、1歩外に踏み出すと晴れているものの薄暗く
寒風が刺すように肌が痛い。


『ぎゃあ~、さぶっ』
 言葉に乗せて口からつい出てしまう。


 ふと見ると視線の先に相原の姿が……。
 少し離れたところに立っているのが見えた。

 今日はもう夜間保育もなくて会えないのだろうなという思いと、
そう思う一方でメールをもらっていたので少しだけ会えるかもという
期待もないわけではなく……みたいな、さまざまな感情に揺さぶられた
後のこと、うれしくなって彼に一声掛けて帰ろうとそちらに向かうと
相原が顔を上げたので手を振ろうとした……のだが。

 
 花が手を振ることは叶わなかった。

 振るはずの腕を何者かに掴まれたからだ。

『えっ』

 見ると誰かの手が自分の腕を掴んでいるではないか。

 視線を手、腕、肩、そして顔へと辿るとそれは相馬の顔だった。

「びっくりしたぁ~、どうしたの?」

「いゃぁ~、驚かせてごめん。
 実は急ぎの仕事があったのをすっかり忘れててね。
 申し訳ないけど少し手伝ってもらえないかな」


「いいですよ。早く片してしまいましょう」

 この前向きな言葉を聞き、改めて掛居に対する好感度が更にアップする
相馬だった。

『あ……そういえば』

 驚き過ぎて一瞬相原のことを忘れていた花は相原のいた方を見るも、
もはや誰もそこにはいなかった。


『声くらい掛けたかったなぁ~、残念』

 ほんの少しだけ相馬のことを恨めしく思ってしまう花だった。
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