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『特別な人』123

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 なんか、どっと疲れを感じた。

 遠野さんったら、やってくれたわねぇ~。

 自分の恋愛ごとに周囲の人間を、それもいきなり巻き込むなんて
由々しきことだわ。

 それにしても、遠野さんの片思い、恋心を相原さんに話すというのも
何かちがうと思うのでここは静観するしかないのかなぁ。

 遠野さんの積極的と言えば聞こえはいいけれど、強引なところを
見せつけられ、つい島本玲子のことを思い出してしまう。

 自分の想いを成就させるためには手段をえらばず、人のことは
お構いなし……か。

 嫌な記憶だ。

 一方相原は今日の掛居を送るという口実の元、送迎デートを楽しみに
していたのだが。

 どうやら遠野が原因で一緒に帰るのはまずかったらしい。


 残念に思いながら相原が車を発進しかけた時だった。

「コンコン……」

 誰かが車窓をノックするのが聞こえた。

 掛居かと思いきや、見上げると見えたのは遠野の顔だった。

 掛居かと思い、少し胸の内側から芽生えた喜び……がスルスルっと
しぼんでいった。

 掛居が一緒に帰れないと話していた理由らしき人物が目の前に現れ、
相原は不愉快でならなかった。

 いっそこのまま、無視してアクセルを踏もうかと思うほどに。

 しかし、同じ会社の人間相手にそれは流石にできず窓を開けた。

「こんばんは」

「何か?」

「え~っと、子守が必要な時は私に連絡いただけたらすぐに飛んでいきますので、
困った時はいつでも連絡ください。それだけお伝えしたくて」

 そう言って遠野は俺にメルアドを記したメモ用紙を車の窓越しに渡してきた。


「じゃあ、失礼しました。お気をつけて」

「あぁ、ありがとう。それじゃ」

 俺は一言返事を返すと、脱兎のごとくその場から車を走らせた。


 掛居さんの懸念は当たったってわけだ。

 おそらく今夜遠野さんが保育所にいたことも、そういうことだったのだ。

 過去の経験から相原には分かっていた。

 ああいう手合いはややこしい。

『ストーカーにだけはならないでくれ』
と相原は祈るのだった。 


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