桜の華 ― *艶やかに舞う* ―

設樂理沙

文字の大きさ
上 下
72 / 108

71

しおりを挟む
71


嘘よ……。
私は俊の裏切りを許さないと今の苦しみから解放されないっていうの?  

何もしてない自分がどうしてこうも理不尽な目に合わねばならないのか。

涙枯れるほど泣き続けた桃の瞳から、残されていた最後の光までもが
すっかりと影を潜めてしまった。



 退院してからの第一回目の診察では思いもかけないことを女医から指摘された為、
取り乱してしまった桃だったが、2回目の診察では落ち着きを取り戻し 
素直な姿勢で女医の言うことに耳を傾けた。 


……というより、そのように振舞ったというほうが正しいかもしれない。

違うと異論を唱えて嫌な雰囲気になるより、自分の意見を強く主張せずに

『そうですか、そうですね。分かりました』
と無難に診察をやり過ごし、早々と病院との関わりを断ち切って
しまいたかったのである。


女医には感謝している。だが、桃はこれ以上苦しい思いをしたくなかった。



相手はプロの精神科医である。
桃は診察時には心からそう自分は思っていると暗示をかけて臨んだ。


実際女医が自分の言うことをどこまで真面まともに受け取ったかは
分からないが、三回めの診療を受ける指示はなく無事女医の元から
本当の意味で退院できたのである。

 ◇ ◇ ◇ ◇

両親との暮らしも半年を過ぎた頃、 先々で懐に余裕ができれば、奈々子を
連れて実家を出ていこうと考えていたのだが、あんなに最初は桃が出戻ることに
難色を示していた母親がその話をした折に、すっかり娘と孫のいる暮らし向きに
馴染み(慣れ親しんだ結果)居心地がいいらしく『奈々子もまだ小さいし、家に帰って
誰も居ない鍵っ子にするのは可哀そうだ、その点ここなら私がいるのだから』と、
奈々子が小学生の間はここにいればいいと言った為、桃はそうすることに決めた。



今は俊からの婚費もある、家のことは娘の自分がしているので
母親の都合の良い時に孫と関われて母からすると今のこの生活が楽なのだ。


だが、実際に自分が働きに出るようになれば母親の気持ちにも
変化が起こるかもしれない。


いくら奈々子を保育園に預けるといっても、送迎や病気の時、自分
仕事から帰るまでの間の子守など、小さな子がいるとどうしたって
手を取られるのは目に見えているからだ。


その時は今度こそ、桃は奈々子と一緒に実家を出ていく心づもりでいた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ことりの上手ななかせかた

森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
恋愛
堀井小鳥は、気弱で男の人が苦手なちびっ子OL。 しかし、ひょんなことから社内の「女神」と名高い沙羅慧人(しかし男)と顔見知りになってしまう。 それだけでも恐れ多いのに、あろうことか沙羅は小鳥を気に入ってしまったみたいで――!? 「女神様といち庶民の私に、一体何が起こるっていうんですか……!」 「ずっと聴いていたいんです。小鳥さんの歌声を」 小動物系OL×爽やか美青年のじれじれ甘いオフィスラブ。 ※エブリスタ、小説家になろうに同作掲載しております

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...