上 下
60 / 74

59

しおりを挟む
59

恵子は桃より顔一つ分身長が低い。

うまい具合にちょうど掴みやすい場所で震えてブルブルしている恵子の頭髪を
ガシッと鷲掴みにし、グラグラと振り回すように動かしながらすごんだ。


「次はあんたをめった刺しにしてやろうか? 
ねぇ、どこがいい、どこ刺されたい? 

あんたのような平気で人を不幸にして歩く女はさぁ、歩けないように
したほうがいいと思わない? 
ねぇ~、恵子ぉ~、あなたもそう思うっしょ?」



桃がどやどやどうだ、どうだと、囁き声ですごんでいる間に、
カフェの店員が俊の異常に気付いたようで周りはだんだん騒がしく
なっていく。


そんな中、桃の脅しは続く。
 
「どうなの? ちゃんと答えなよ。あんたもそう思うよね」

「ごっ、ごめんなさい。もう水野くんを誘ったりしないから……ゆ、許して」

周囲の喧騒もうっちゃり、桃は恵子を、髪を掴んだまま店の端に引っ張って
いき、脅し文句を吐き続ける。


「今度誰かに悪さしてるの見つけたらただじゃおかないから。
その自慢の顔に薬品ぶっかけてグチャグチャにしてやるから」

話してるうちに周囲が救急車のサイレンの音、パトカー音と、騒がしくなっていくのが分かる。


この時の桃は、すでに耳に届いていた遠くに聞こえるサイレンの音で、
俊がすでに救急車で運ばれるであろうことには気付いていた。

だがそれを知り、ほっとしたのか残念に思ったのか……
この時の桃には、もう何を? と考える力など残ってはいなかった。



多分もう少ししたら自分は逮捕される、それだけは分かった。

そう思う間もなく、これを最後の捨て台詞に恵子の目の前で、
桃は駆けつけた警察官に拘束された。


その後、桃はパトカーの後部座席に乗り込み座った。
隣には婦警が座った。

いろいろ質問されたが、自分でも分かるほど精神的にきていた。
婦警の質問など耳を素通りで、頭の中にあったのはただひとつ。

--
どうでもいい旦那だけど、籍はガンとして抜かないでおいて恵子と会うって
どういう了見ですかっていう話ですよ。--

ちゃんと自分の思う通り落とし前をつけたことで、それまで張りつめていた糸が
ブチッとパトカーの中で切れた。

もう、どうにでもなれっ。

警察署に着く前に意識を失い、桃はそのまま苦しみも何もない世界へと
雪崩れ込んでいった。


そして……次に目覚めた時には精神病院にいたのだった。

(最初のシーンへと)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Husband's secret (夫の秘密)

設樂理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! 夫のカノジョ / 垣谷 美雨 さま(著) を読んで  Another Storyを考えてみました。 むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

『 ゆりかご 』 

設樂理沙
ライト文芸
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた

宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと -   

設樂理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

夫は帰ってこないので、別の人を愛することにしました。

ララ
恋愛
帰らない夫、悲しむ娘。 私の思い描いた幸せはそこにはなかった。 だから私は……

愛されない妻は死を望む

ルー
恋愛
タイトルの通りの内容です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...