54 / 108
53
しおりを挟む
53
虫も殺さないような顔をして、私に平気な顔で揺さぶりをかけてくるのだ。
そんな悪い男なのに、悪い人間に見えないのだから始末に負えない。
「桃、これ……脱いで」
俊の指示の言葉で私たちは共同作業に入る。
脇ぐりを大きくとってあるネグリジェを下に引っ張り脱がしにかかる俊と、
身体を捩りながら片腕を大きめの襟ぐりから抜いて上半身からネグリジェを
脱ごうとする私との共同作業で私の胸や背中が空気に晒された。
……と途端、俊の唇が胸元へ落とされ、ブラの淵から緩急をつけた愛撫が
始まる。
そしてそれは、左の脇近くから右へと徐々にブラカップの形状に沿って順に
胸の谷間まで辿り、「桃が好き過ぎて困る……」と呟いたかと思うと、
またそのまま右側へとプラカップの淵沿いに唇で愛撫を続け、右脇まで
到達すると「苦しくて困る」とひと言……呟きが漏れた。
そんなことを言われる私だって困る。
旦那に自分の友だちと浮気された超絶惨めな女にそんなことを言うなんて、
なんて酷い人。
だが、ブラが外されると、いつものように私と夫との饗宴が始まるのだった。
『この行為をどう受け取れと? 苦しくて困っているのはこちらのほう』
この夜、桃は久しぶりに冷めた気持ちに徹することができず、
俊につられるように踊らされるように熱を込めて饗宴に参加して
しまうのだった。
そして宴の後、背に俊の体温を感じながら安らかな気持ちに包まれ……
忘れることが叶うなら、心からあの忌まわしい出来事を忘れたいと
願うのだった。
あの日から自分は一瞬たりとも幸せを感じたことはない。
だが今宵ひと時、嘘か誠か裏切り者の本心がどこにあるのかという疑念も
どこかへうっちゃり、何も頭に浮かべず何も心を泡だたせずフラットにし、
ほんの短い瞬間ではあるけれど桃は心の平安と喜びに包まれながら静かに
眠りについた。
翌朝目覚めてすぐに思ったのは『私はまた幸せになれるの?』だった。
昨夜、俊と交わしたメイキングラブには、やり直せるかもしれないと桃に
思わせるほどの熱量があった。
しかし、起き出してくる俊に笑顔で応えられるほどの余裕のない桃は、
先に目覚めたのをこれ幸いと素早くベッドからするりと抜け出した。
ほど良い肉体疲労と少しの心地よさに桃の気持ちは久しぶりに弾んだ。
そしてそれと共に心に浮かんだことがある。
それは本当にごく自然に浮かんだのだ。
『デッサン教室のモデルも辞めようかな』だった。
虫も殺さないような顔をして、私に平気な顔で揺さぶりをかけてくるのだ。
そんな悪い男なのに、悪い人間に見えないのだから始末に負えない。
「桃、これ……脱いで」
俊の指示の言葉で私たちは共同作業に入る。
脇ぐりを大きくとってあるネグリジェを下に引っ張り脱がしにかかる俊と、
身体を捩りながら片腕を大きめの襟ぐりから抜いて上半身からネグリジェを
脱ごうとする私との共同作業で私の胸や背中が空気に晒された。
……と途端、俊の唇が胸元へ落とされ、ブラの淵から緩急をつけた愛撫が
始まる。
そしてそれは、左の脇近くから右へと徐々にブラカップの形状に沿って順に
胸の谷間まで辿り、「桃が好き過ぎて困る……」と呟いたかと思うと、
またそのまま右側へとプラカップの淵沿いに唇で愛撫を続け、右脇まで
到達すると「苦しくて困る」とひと言……呟きが漏れた。
そんなことを言われる私だって困る。
旦那に自分の友だちと浮気された超絶惨めな女にそんなことを言うなんて、
なんて酷い人。
だが、ブラが外されると、いつものように私と夫との饗宴が始まるのだった。
『この行為をどう受け取れと? 苦しくて困っているのはこちらのほう』
この夜、桃は久しぶりに冷めた気持ちに徹することができず、
俊につられるように踊らされるように熱を込めて饗宴に参加して
しまうのだった。
そして宴の後、背に俊の体温を感じながら安らかな気持ちに包まれ……
忘れることが叶うなら、心からあの忌まわしい出来事を忘れたいと
願うのだった。
あの日から自分は一瞬たりとも幸せを感じたことはない。
だが今宵ひと時、嘘か誠か裏切り者の本心がどこにあるのかという疑念も
どこかへうっちゃり、何も頭に浮かべず何も心を泡だたせずフラットにし、
ほんの短い瞬間ではあるけれど桃は心の平安と喜びに包まれながら静かに
眠りについた。
翌朝目覚めてすぐに思ったのは『私はまた幸せになれるの?』だった。
昨夜、俊と交わしたメイキングラブには、やり直せるかもしれないと桃に
思わせるほどの熱量があった。
しかし、起き出してくる俊に笑顔で応えられるほどの余裕のない桃は、
先に目覚めたのをこれ幸いと素早くベッドからするりと抜け出した。
ほど良い肉体疲労と少しの心地よさに桃の気持ちは久しぶりに弾んだ。
そしてそれと共に心に浮かんだことがある。
それは本当にごく自然に浮かんだのだ。
『デッサン教室のモデルも辞めようかな』だった。
4
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
ことりの上手ななかせかた
森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
恋愛
堀井小鳥は、気弱で男の人が苦手なちびっ子OL。
しかし、ひょんなことから社内の「女神」と名高い沙羅慧人(しかし男)と顔見知りになってしまう。
それだけでも恐れ多いのに、あろうことか沙羅は小鳥を気に入ってしまったみたいで――!?
「女神様といち庶民の私に、一体何が起こるっていうんですか……!」
「ずっと聴いていたいんです。小鳥さんの歌声を」
小動物系OL×爽やか美青年のじれじれ甘いオフィスラブ。
※エブリスタ、小説家になろうに同作掲載しております

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる