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15-2 ◇妻の桃が更なる苦しみの中にいた頃
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15-2
◇妻の桃が更なる苦しみの中にいた頃……。
俊は、たまたま会うことになった親友の近江健吾にだけ、
浮気の顛末を話していた。
「奥さん相当怒っただろ?」
「ショックは受けてた……かな」
「怒らなかったのか?」
「怒ってはいただろうけど、罵ったり喚いたりとかはなかったな。
『どうしてそんなこと』って言ってたな」
娘に汚い手で触ってくれるなと言われたことはあったのだが
それは親友には話したくなかった。
あまりにあの一言は心を抉られるほど手厳しいもので
今も困惑するしかない言葉で……言えない。
「うちなんてすごかったけどな。
泣くわ喚くわで俺ほんとにほとほと困ったんだぜ。
小遣い制にされちまったしな。
あっちの御奉仕も手抜きすると、愛が足りないって文句言われるし。
水野ん家はその辺どうなんだ」
「最初は離婚してほしいって言われたけど、俺の両親も彼女の両親からも
離婚を反対されてさ、その後諦めたのかもう浮気のことは持ち出して
こないな。
夜の方は以前とあまり変わらないかな」
「すごいな、お前の淡々とした話振りと言いそれだとお前のやり逃げ、
やり勝ちじゃないか。もし奥さんがお前の言うような反応なんだったら
二択だよ」
「二択って?」
「その一、もうお前を見限ってる」
「その二は?」
「我慢していて、その実は心が壊れてる。
何を言っても、訴えても周りには味方がひとりもおらず一人で耐えてるかも
しれんな。それだといつかどこかで何かの拍子にボンっ」
「何だよ、ボンって」
「破裂するってことだよ」
「そのどちらでもないように見えるけど。
ちゃんと誠心誠意謝ったから許してくれてると思う」
「そんなのでき過ぎ……、後でややこしいことにならないよう、様子見して
ちゃんと精神面で奥さんのフォローしておいたほうがいいと思うぞ」
「あぁ、そこは分かってる。
離婚を許してもらう条件に俺は結婚前からの預貯金全部と、この先の給与は
全部彼女に渡すことに決めてるからな。
次浮気があれば、離婚するということで離婚の用紙も記入したものを
渡してるさ」
「そっか。なんか侘しいな、金で解決したんだ」
「それしかないだろ? 死んで見せるわけにもいかないじゃないか」
「まぁな。だけどさ何かお前も奥さんも俺からすると……っていうか
俺たちのすったもんだ劇に比べると淡々としてんだよな。
俺は渡せる貯金もなかったし、元々給料は奥さんに渡してたからなぁ~。
許してもらう条件にはならなかったけど、お前たち見てるとそれで
よかったのかなって思うわ」
「今は浮気相手とは会ってないし、こんなもんじゃないのか?
他にできることないじゃないか」
「お前に足りないのは気持ちなんだよな。
奥さんが壊れてないことを祈るわ」
「大丈夫だよ。今は元の仲のよい夫婦に戻ってる」
「そっか。まぁ、いらんこと言ったかな。すまん」
◇ ◇ ◇ ◇
妻が今も納得していないことは自分が一番よぉ~く分かっている。
『仲のよい夫婦』という言葉は、真実というより俊自身の希望が
盛り込まれていてのものだ。そしてまた、親友に対する強がりでもあった。
弱み……弱わっている自分の姿を見せたくなかった。
―――
そんな風な会話を親友と交わした日から数か月後のこと、全く自分が何も
妻の気持ちに寄り添えていなかったという現実に遭遇することになるのだが、
この時の俊は何も分かってはいなかった。 ―――
◇妻の桃が更なる苦しみの中にいた頃……。
俊は、たまたま会うことになった親友の近江健吾にだけ、
浮気の顛末を話していた。
「奥さん相当怒っただろ?」
「ショックは受けてた……かな」
「怒らなかったのか?」
「怒ってはいただろうけど、罵ったり喚いたりとかはなかったな。
『どうしてそんなこと』って言ってたな」
娘に汚い手で触ってくれるなと言われたことはあったのだが
それは親友には話したくなかった。
あまりにあの一言は心を抉られるほど手厳しいもので
今も困惑するしかない言葉で……言えない。
「うちなんてすごかったけどな。
泣くわ喚くわで俺ほんとにほとほと困ったんだぜ。
小遣い制にされちまったしな。
あっちの御奉仕も手抜きすると、愛が足りないって文句言われるし。
水野ん家はその辺どうなんだ」
「最初は離婚してほしいって言われたけど、俺の両親も彼女の両親からも
離婚を反対されてさ、その後諦めたのかもう浮気のことは持ち出して
こないな。
夜の方は以前とあまり変わらないかな」
「すごいな、お前の淡々とした話振りと言いそれだとお前のやり逃げ、
やり勝ちじゃないか。もし奥さんがお前の言うような反応なんだったら
二択だよ」
「二択って?」
「その一、もうお前を見限ってる」
「その二は?」
「我慢していて、その実は心が壊れてる。
何を言っても、訴えても周りには味方がひとりもおらず一人で耐えてるかも
しれんな。それだといつかどこかで何かの拍子にボンっ」
「何だよ、ボンって」
「破裂するってことだよ」
「そのどちらでもないように見えるけど。
ちゃんと誠心誠意謝ったから許してくれてると思う」
「そんなのでき過ぎ……、後でややこしいことにならないよう、様子見して
ちゃんと精神面で奥さんのフォローしておいたほうがいいと思うぞ」
「あぁ、そこは分かってる。
離婚を許してもらう条件に俺は結婚前からの預貯金全部と、この先の給与は
全部彼女に渡すことに決めてるからな。
次浮気があれば、離婚するということで離婚の用紙も記入したものを
渡してるさ」
「そっか。なんか侘しいな、金で解決したんだ」
「それしかないだろ? 死んで見せるわけにもいかないじゃないか」
「まぁな。だけどさ何かお前も奥さんも俺からすると……っていうか
俺たちのすったもんだ劇に比べると淡々としてんだよな。
俺は渡せる貯金もなかったし、元々給料は奥さんに渡してたからなぁ~。
許してもらう条件にはならなかったけど、お前たち見てるとそれで
よかったのかなって思うわ」
「今は浮気相手とは会ってないし、こんなもんじゃないのか?
他にできることないじゃないか」
「お前に足りないのは気持ちなんだよな。
奥さんが壊れてないことを祈るわ」
「大丈夫だよ。今は元の仲のよい夫婦に戻ってる」
「そっか。まぁ、いらんこと言ったかな。すまん」
◇ ◇ ◇ ◇
妻が今も納得していないことは自分が一番よぉ~く分かっている。
『仲のよい夫婦』という言葉は、真実というより俊自身の希望が
盛り込まれていてのものだ。そしてまた、親友に対する強がりでもあった。
弱み……弱わっている自分の姿を見せたくなかった。
―――
そんな風な会話を親友と交わした日から数か月後のこと、全く自分が何も
妻の気持ちに寄り添えていなかったという現実に遭遇することになるのだが、
この時の俊は何も分かってはいなかった。 ―――
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