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◇心震える瞬間



「え~と、私、トイレに行こうかな」

 そう言うと瑤ちゃんがベッドから抜け出して私の側に立った。



 私はなんとなくそう言って部屋履きに形の良い素足を入れた瑤ちゃんの
足元を見ていた。


 ン? 動くはずの足が動かない。
 私は視線を上に上げた。




「苺佳、辛かったな」

 そう言うと瑤ちゃんが私をやさしく包むようにして抱きしめてくれた。



 こんなに瑤ちゃんからやさしくされていいのかな?
フニャってなりそうだよ。



 悲しい時にやさしく癒してくれる人がいるって有難いな。

 私はお言葉に甘えて瑤ちゃんの背中に手と腕を回し数分間の尊い時間を
過ごした。




 あんまり長い時間瑤ちゃんを立たせておくのも忍びなく、本当はもう少し
寄り添っていたかったけれど瑤ちゃんを想う力で欲を振り捨てて、
瑤ちゃんが私から離れ易いように言葉を掛けた。




「瑤ちゃん、ありがと。病気に障るといけないからトイレに行ってきて」

「苺佳・・トイレはまだ行かなくて済みそうだ」

「じゃあ、しばらくこのままでいいのかな?」

「うん」

「瑤ちゃん、慰めてくれてありがとね」


 私がそう言うと少し身体を離した瑤ちゃんがやさしい眼差しでじっと
私を見つめてきた。



 え~っと、どうしよう。

 ドキドキして自分の胸の鼓動がほんとに聞こえてくる。



          ◇ ◇ ◇ ◇



「ひとりになって不安だろうけど私が苺佳の支えになるから」
 
 
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