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 出先から予定より一日早く帰宅した俊介。
 インターホンは鳴らさずドアを開ける。

 出張の時に限りいつも鍵は携帯している鍵で開けるのが常だ。

 いつもなら、鍵を回す音で奥から出迎えてくれる理恵が出てこない。
 小さな声で『ただいま』と言ってみる。


 ん! 理恵の話声がくぐもって聞こえてくる。
 電話中だったのかと思い、そっとリビングまでの廊下を進む。


 リビングのドアがぴっちりとは閉まってなかったようで妻の電話する声が
クリアに聞こえてきた。

『うんまぁね。時々残業で22時頃になったりすることもあるけど。
飲みとか仕事以外で遅くなるっていうのはないかな』

『・・・』


『やだぁ~、そんなでもないよー。まぁ家計とか私が管理してるから
好きなものを好きなように買えるけどね。ン? そうなんだ麻衣んところは
大変だね。なんかいい方法あるといいね』

『・・・』


『えっ、何もかも手に入れて羨ましいって? そんなことはないよ。
私にだって足りないものはあるわよ』

『・・・』


『うんとねぇ、ドキドキときめきなくがなくなったかな。
実はさ俊介に冷めてきてんの。どこかにいい男《ひと》いないかなって
思うもの』


 やだっ、私ったら何言ってんのかしら。
 あんまり麻衣が自分と旦那のことで愚痴ったり羨んできたりする
ものだから、上手く慰められなくて俊介さんのことを下げてしまった。

 俊介のことは好きだし、惰性で暮らしているわけでもない。

 夫婦の時間は今でもドキドキしてるのに。
 私の駄目なとこだなー、本人いないからって下げちゃ駄目でしょ。

 今のは反省だよ、理恵。と思っていたら、麻衣が地雷を踏んできたぁ~。


 地雷なのに私はつい喰いついてしまう。えっ? 
 子供は作らないのかって?


『ないない。私、子供って嫌いなんだよね。できれば料理だって
したくないくらいなのに、子育てなんて無理、絶対無理。

 姉の子育て見ててよけいそう思うもん。
 子供の世話なんか真っ平よ。疲れるだけでしょ。

 自分の時間なんてなくなっちゃうだろうし。
 子供なんていらない。

 これ大きな声で言えないけど私、ピル飲んでるんだ、妊娠しないように』

『・・・』


『うん、麻衣の推測通り。
私、どうしても俊介さんと結婚したかったから。
妊娠したーって言ったらすぐに籍入れてくれて、ほんといいヤツだよー。
何でもすぐ信じてくれるから助かるわー。ちょろい旦那だよ』



『・・・』



『そりゃあそうよ。元々妊娠なんてしてないんだから、流産のしようが
ないもんね』


『・・・』

『・・・』

          ◇ ◇ ◇ ◇

 延々続きそうな妻の電話。

 それ以上聞く必要のなくなった俊介はどっと疲れを感じつつ、
そのまま踵を返し、そっと家を出た。






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