裏切りの扉  

設樂理沙

文字の大きさ
上 下
58 / 61

" 音信-58 "

しおりを挟む
58.

"音信"

 
 神波と街中で会ったのは3月に入ってすぐのことだった。

          ◇ ◇ ◇ ◇


 私と翔琉はこちら実家に来て1週間余り。
 気にいった家が見付かり次第、翔琉とふたりでの生活を始めるつもり。
 
 神波と最後に逢ったのは街中で会ってから一度だけ……
これまでのように身体を重ねて別れた。

 それから5日後、私は翔琉と共に実家へ引っ越したのだけれど、神波とは
それっきりになっている。

 それっきりって言ってもまだ10日ちょい経っただけだけど。
 元々LINEでのこまめなやりとりがあったわけじゃないから
今までと変わらないといえば、変わらないんだけど、ただ距離が
離れてしまったので次の連絡は来るのだろうかと少し不安になっていた。


 そして、翌5月に入っても神波からLINEは来なかった。

 私ったら馬鹿だなぁ~、あんなのただの社交辞令だっただけなのに、
少し期待してしまったりして。

 若くて独身イケメン男子が子持ちの女を追いかけて来るはずなんて
ないのに。

 そうやって自分の心を宥めていたのに……諦めようとしていたのに
神波から2日後に会いに行くよとLINEがきて、心底私は驚いてしまった。





          ◇ ◇ ◇ ◇





 
 彼は私に会いに来るって言ってたけど、本当に来るの?
 彼が本当に来るってことが現実味を増してくると胸のドキドキが
止まらなかった。

 会えるだけでもうれしいと、私の心は正直だ。

 
  流石に今の関係で両親のいる実家で会うわけにもいかず、最寄り駅まで
迎えに行き、話しのゆっくり出来るお店を一緒に探すことにした。


 駅で改札口を通り抜ける彼の姿を見て、本当に来てくれたんだなぁと
思い、少し感傷的になった。


「久し振りっ」


「いらっしゃい」


「ねっ? 俺とうとう来ちゃいましたよ?」


「本当に来たのね」


 私たちは駅近のちょっぴりこじゃれた感じのカフェに入ることにした。
 私たちは同じもの、ホットコーヒーを注文した。

「疲れたでしょ?」

「少しね、だけど萌枝さんに会えると思うと全然大丈夫だったかな!」

 神波は注文したコーヒーが置かれるとすぐに口にした。

「あ~、癒されるぅ~」

「ふふっ、お疲れさま」

「今日はね、会ったらすぐに言っておきたいことがあったんだ」


「え~っ、何なに?」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...