裏切りの扉 非公開にしていましたが再upしました。11/4

" 最期の時1-51 "

51.




　医師も萌枝も……誰も俺に何も言ってくれない。いや、違うか!
　言えないのだ、もう後少ししか生きられないなんて。

　
　術後、快復に向かうものだとばかり思っていたが、数日間熱が続いた。
　熱が引いてからも身体のだるさはなくならなかった。



　薬のせいか身体がだるいのは今までと変わりないが、寝ている時の気分は
それほどでもなく、夜もなんとか寝られる。



　昼間も夜もここ最近ずっと、萌枝が翔琉といっしょに病室にいてくれる。
　それで分かってしまった。



　親族が快復に向かってる患者に昼も夜も付き添うなんて
聞いたことないからね。

　これって明らかに末期患者に対する対応じゃないか。



　萌枝は俺に病気は治らないという真実を、話さないという選択を
したのだろうと思う。



　翔琉が傍らで機関車トーマスを走らせて楽し気にしていて
妻は見舞いに来た俺の両親にあれこれしてくれている。



　両親は悲しそうだな。
　そんな日々を何日が過ごした。



　そして何となく感じる、俺が産まれて来た道を今度は帰っていくのかも
しれない今日、妻は悲しそうにしながら励ましてくれている。

　本当に?
　俺を励ましてくれるのか?



　妻の……萌枝の瞳を見ているけれど、俺は死にゆくこの今際の際いまわのきわになっても、
妻から愛されてあちら側に旅立って逝けるのか、確信出来ぬまま俺の魂はスルスルと
身体から離れ、そして現世から離れた。


　身体から離れゆく時、俺は気付いた。


　
　オレは、自分で思ってた以上に、妻の心が欲しかったのだということに。
　そして愛を、彼女の愛を欲していたことに。



　そんな資格などないと自分を戒めていたにも係わらず、
愚かにも……
我儘にも……
妻の真実の愛を欲していたのだった。



　俺は気付くと泣きながら、黄泉の世界へと吸い込まれて逝った。



　俺の全てが吸い込まれてしまう最後の時に、悲しいくてつらいことだけど
妻は俺との別れにそれほど悲しんでいないように見えた。



　『萌枝、さよなら!』