裏切りの扉 非公開にしていましたが再upしました。11/4

" おちゃめ? いやいや……いじましい復讐6-49 "

49.




　あの頃、俺は深く考えてなかった。バレた後のことも……。
　浮気相手の妊娠なんてもってのほかで、想像の遥か範疇外だったし。



　妻との関係の修復がこんなにも難しいってことも、そして結局
俺も妻もあの時の出来事を一日も忘れることが出来ないでいる。
　人の心の機微なんて何ひとつ判ってなかったのだ。



　当たり前のように幸せを享受していて、生きていくのに
とても大事だったモノを、当たり前過ぎて俺は軽んじていた。



　時に人生は長く、時に短く……時は確実に過ぎゆくのに
自分達の言動だけは、時のようにそう簡単には流れ過ぎ去っては
くれない。



　いつもここに、この胸の中に居座り続けるのだ。



 妻のスマホを見て、そこに書かれてあることに対して俺が妻を責める
資格などないのはいわずもがなのこと。

　人とは勝手なものだ。


　自分の犯した過ちには寛大で、他者の過ちにはとても厳しく
敏感なんだからな。


　　　　　　　　　　　◇　◇　◇　◇


　私が売店から病室に入ると夫は眠っていた。



　夫が、置いて行った私のスマホの画面を見たかどうかは分からないけれど、
私は既読をつけ、そのまま引き続き忘れた振りで椅子の上にスマホを
置いたまま、病室を後にした。

　

――――――――――――――――――――――――――――――――



　これで夫は気になる他の過去LINEも、心起きなく読むことが出来るだろう。

　今夜は夫にとって辛い夜になるのか、呆れるだけの夜になるのか
私には分からないが。


　これが私からの最後のあなたへの-おもてなし-なんだよ?
　いろんな気持ちを知っておくことは悪いことじゃないから。


　そのお陰で私も自分がこんなことの出来る人間だったんだって
知る事ができたしね。


　嬉しいことでも褒められたことでもないけど。


　病室を出て、タクシーに乗って電車に揺られる頃には
もう夫がスマホの中に残っているネット上だけの、そして私が
作り上げた架空の人物でもある浮気相手との遣り取りを
夫が読んでも読まなくても、もうどちらでも良くなっていた。


　夫の手術が済んでひとまず一段落した私の心は遥か別の神波ひとへと
飛んでいたから。



　夫が入院してからも時間の許す限り私たちは逢瀬を重ねていた。