裏切りの扉  

設樂理沙

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" 偶然か、必然か? 35 "

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35.



 私が子供だった頃、放課後になるとみんなよく自転車に乗っていた。
 
 その日たまたま私は歩いて近所の菓子屋に行き、チョコレートを買った。

 歩いて行ったのは自転車にするか、徒歩にするのか選んだ
訳ではなかった。



 私には自転車がなかった、だから歩いて行っただけ。
 帰り道には大きな幹線道路を渡らなければならない。

 それは信号待ちしていた時のこと。



 幹線道路の向こうに山田尚美の姿を発見。

『うわぁ~、悪魔がいるよ、どうしよう。



 遠回りしてでも彼女にこんな所で会いたくないなぁ~』と思いながら
遠めに視線だけは離さず彼女の姿を捉えていた。


 取り巻きはおらず、彼女ひとりだった。
 信号が青に変わった。
 
 嫌だ、遠回りしなくちゃって思ってたはずなのに私はそうしなかった。

 自分でも判らなかったけれど、後でなんとなく分かったような気がした。

 たぶん、それはちゃんと自分の目でそのシーンを見る為だったんじゃ
ないかなって思う。

 不思議なことに、私はその一部始終をスローモーションのように
見ることが出来た。 


 とにかく気付かれないように下を向いているしかないと思い顔を
隠そうとした瞬間、山田のいる前方の車線に左方から突如として大型の石油
タンクローリー車がすごいスピードで走ってくるのが視界に入った。




 私は子供の頃から石橋を叩いて亘る性格だったので、信号が青になっても
必ず左右に気をつけながら渡る習慣が身に付いていた。



 子供心に、もう歩行者側が青なのに、あのスピードはおかしいと
思った。



停止しそうにないスピードを出していた。



 普通に山田がそのまま信号の指示通りに渡ったとしたら……
もしもあのタンクローリーが急ブレーキでもかけない限り、
轢かれてしまうンじゃないか。



しかし山田尚美は気付いてないようで、自転車を漕ぎ出した。
 えっ?  嘘ぉ~タンクローリー、スピード緩めてないよ。


 次に手前の車線の右からは停止線を少し超えていた乗用車が
私が様子見で歩き出さず止まっているのを目視で一度確認した後、
右折してそのまま交差点へ入っていった。


 そしてちょうど間の悪いことに大型タンクローリーがちょうど
そのまま横断歩道の上を直進するのに通過するため侵入したことで
横断歩道にはもう人がいないし、入って来れないことを見計らい、
乗用車は急いで右へハンドルを切った。


 私も気になりつつ、まさかね、トラックが入って来る手前で
流石に山田も気がついて自転車を一時停止させたよね? と交差点の
一部始終を見ていた。

 だけどそうじゃなかった。




 人がいないことを確認して右折する為に前進した乗用車の
目の前に人がポーンと空高くまるで空中を飛ぶかのような
勢いで降ってきたのだ。




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