裏切りの扉  

設樂理沙

文字の大きさ
上 下
26 / 61

"神波芙緒《こうなみふみお》の想い1-26 "

しおりを挟む
26.
"神波芙緒の想い1 "

 
 私と神波コーチの交際が、ようやく実のある一齣ひとこまとして
進められたのは1ヶ月も過ぎた頃のことだった。

 後半月もすると盛夏を迎えようという季節になっていた。

 それは神波コーチの部屋でだった。

 もう私たちふたり、お互いの欲望には気付いていた。
 後はそれをどうおしゃれにスムースに進めていくかだけの
状況だったのだ。


          ◇ ◇ ◇ ◇




 とうとう彼の部屋に来た。

 電話やメール越しの話ではなく実体のある本人を目の前にして、
今日こそ、自分は望みを叶えるのだと密かに? 心に誓っていた。

 そして私はそういう同じような気持ちを相手からも感じ取っていた。



 「はじめての密会? で緊張しますね」と彼がちゃかして言い放ち、
 そう言いながらコーヒーを淹れてくれる。



 2LDKらしい彼の部屋は薄い茶系色で、家具なども同じような
色合いで揃えられている。



 配置されているテーブルから見える壁にはこれまた全体的に見ると
茶系の絵が飾られている。



 おとぎ話の中に入り込んだような絵だった。
 描かれているのは半裸の少年と馬。



 絵画の下に壁いっぱいに並ぶ備え付けの棚は2段で統一されており
書籍やオブジェ、時計、観葉植物がほどよい間隔で置かれている。



 この面の壁だけ無色の周りの壁とは違い、濃い茶色の縦じまが
入っている。




 キッチンも、後ろに適度な幅のカウンターがあり、作業の後、
テーブルに運ぶ配膳までの導線が素晴らしい。




 カウンターのすぐ前に配置されているテーブルは円形のもので
二人掛けのテーブルセットになっている。

 




🦋
 彼の部屋に一歩足を踏み入れた瞬間から、そこにはほっと寛げる
空気感があった。

 私は、淹れてくれたテーブルの上のコーヒーを一口飲んだ。


 彼はこちらには来ず、キッチンのシンクを背に立ったまま淹れた
コーヒーを一口飲んだ。



 彼と私の距離は1.5mそこそこ。
 そしてカップを手にしたまま彼は言った。


 「恥ずかしいからこのままで話すね。ちょっと自分語りが入るかなぁ~。
 俺の母親は俺がまだ小学生だった頃外に男を作り、俺を置いて家を
出て行きました。

 だからT Vドラマ(昼顔)なんかで持て囃されてる主婦のように、
夫がいながら色目を使ってくる女が一番嫌いなんですよ」
  



 はぁ~、彼の第一声を聞いて私は怯んだ。


 彼も私と同じ気持ちだと勝手に思い込んでいたようだ。
 とんでもないことになってない? 私。

 
 もしかしたら、ピエロになっちゃうかも。
 しかしことここに至って、逃げも隠れもできない。

 今、私にできることは彼の話の続きを聞くだけだ。



 「ご存じの通り、俺はスイミングスクールのコーチをやってます。
 大人のクラスを受け持つこともあります。

 そんな中、いろんなことがありました。

 その中でも特に印象深かったことを話ます」





 彼はモテるだろうから、きっと色恋の話だなって思った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...