裏切りの扉  

設樂理沙

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" 萌枝の欲望4-25 "

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25.




  何と言っても萌枝は人妻だ。

 スイミングスクール以外の場所で大っぴらに会う事は互いに憚られた。
 なかなか会える機会がない。

 なので、最初の相談事と称しての会話はもっぱらメールや
電話でだった。
 
「何があったんですか? 話しづらいところは端折って構いませんので
話してみてください。俺に話すだけでも少しは気持ちが楽になるようなら」


「不倫なんて人事だと思ってたのに……」
 次の言葉を探していたら、掠れ声で神波が促す言葉をささやいた。


「思ってたのに……?」

 その低音でなまめかしくもやさしい声に誘われて
萌枝は次の言葉を続けた。


「私の夫が会社の同僚と不倫してたの。しかも……」

「しかも……?」


 
「妊娠まで」


「相手の女性が妊娠してるってことですか?」


「ええ、そうなの。とても信じがたいことなんだけれども」

 そんな風に私たちの電話は始まった。

 私は簡単に掻い摘んでではあるが、2人が運悪く?  事故に遭い、結局
その女性の赤ちゃんは流れてしまったこと等を話した。




              ◇ ◇ ◇ ◇



 🦋
「そうですか、短期間の間に怒涛のごとくいろいろなことが
起こってたんですね。俺は独身で子供もいないので何て言えば
いいか……赤ちゃんのことは良かったとばかりも言えないのかな
ぁ~とかって思います……って萌枝さんにとっては結果的に
良かったってなるのは分かるんですけどね。だけど相手の女性に
してみれば我が子を亡くした訳ですし、実際ひとつの命がこの世
から消えてしまったことも事実ですから。相手の女性は自己責任
な所があって可哀相にって言葉は掛けられませんけど、お気の毒です
ね。里中さんが一番つらい思いをされましたね」



「ほんとっ、神波さんに話を聞いてもらって下降気味だった気分が
何ていうか、少しだけ浮上しました」



「じゃあ良かった。またこうやってお話しませんか。悲しい事は
もちろんですけど、楽しい事も」


「ふふっ。 ええ、もちろん」




 神波も? 私も互いの身体を欲していたはずなのに、私たちは
思っていた以上に緩やかな交際を進めることになった。



 そしてその後1ヶ月の間、私たちが外で会うことはなかった。

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