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" 萌枝の欲望2-23 "
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23.
私はかねてより彼に抱かれてみたい、触れ合ってみたいと思っていた。
私はそういった心の欲望に蓋をし続けてきた。
家庭があったから。
家庭という守るべきモノがあったから。
けど、もういいよね?
自分の欲望に忠実になっても。
もう操を立てなければいけない夫なんて居ないのだから。
仕返しとは少し違うと思う。
一生懸命我が身を守っていた盾をポイっと捨てるだけのことだもの。
そう、夫の裏切りで私は操という厄介なモノを守らなくてもよくなった。
罪悪感……というものが私の一番の敵だった。
だがもう敵はいない。
なくなったのだ。
私は守らなければならないものを守らなくてもよくなったのだ。
捨てて困るものが何一つなくなったのだ。
私は今や無敵の女になった。
わっしょいっ
神波コーチに関していうと、もしかしたら私の大きな勘違いって
いうことも有りうる。
だって私たちの間には愛を紡ぐ言葉も、夢を語る語らいもスキンシップも、
何もナニも、これっていう確固たるものはないから。
ただ勘違いでないとして、私は薄いガラス1枚で神波コーチとの間に
バリヤーを作って何とかふたりの関係が特別なモノにならないように
踏ん張っていたのだけれども、もし相手がその薄いガラスにヒビを
入れ始めたり、あるいは私の方がこのガラスをとっぱらって
しまいたくなったら、スイミングを止め神波コーチからも永遠に
離れるつもりでいた。
◇ ◇ ◇ ◇
だけど……今はふたりの気持ちが同じなのかどうか確認する為に
ガラスをとっぱらおうと思っている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私は神波コーチの前で悲壮感漂う自分を演出することにしてみた。
「今日はあまり調子よくないみたいですから早く切り上げましょうね」
そう言い、コーチはスイミングスクールの一角にあるラウンジコーナーに
誘ってくれてココアを直に作ってくれた。
「ここのスタッフが使ってるココア、結構上手いんですよ、さっ……
どうぞ!」
「ありがとうございます」
「いつも元気でいきいきしてる里中さんが元気ないって珍しいですね」
「ハハ、そう……デスネ」
「僕でよければ……」
神波コーチは『相談に乗りますよ』と言ってくれた。
この日は別の指導員が見てくれている息子のレッスンも
もうすぐ終わりそうだった為ゆっくり話せる時間がなく、お互い
プライベートなメルアドと電話番号を交換しただけで終わった。
帰宅すると神波コーチから早速メールがあった。
こんな時だからこそ、よけいに自分を見ててくれる人がいることは
胸にズキューンときた。
そしてこれからふたりの間に何かが始まる予感は、今抱えている嫌な問題を
吹き飛ばすほどの威力を備えていた。
私はかねてより彼に抱かれてみたい、触れ合ってみたいと思っていた。
私はそういった心の欲望に蓋をし続けてきた。
家庭があったから。
家庭という守るべきモノがあったから。
けど、もういいよね?
自分の欲望に忠実になっても。
もう操を立てなければいけない夫なんて居ないのだから。
仕返しとは少し違うと思う。
一生懸命我が身を守っていた盾をポイっと捨てるだけのことだもの。
そう、夫の裏切りで私は操という厄介なモノを守らなくてもよくなった。
罪悪感……というものが私の一番の敵だった。
だがもう敵はいない。
なくなったのだ。
私は守らなければならないものを守らなくてもよくなったのだ。
捨てて困るものが何一つなくなったのだ。
私は今や無敵の女になった。
わっしょいっ
神波コーチに関していうと、もしかしたら私の大きな勘違いって
いうことも有りうる。
だって私たちの間には愛を紡ぐ言葉も、夢を語る語らいもスキンシップも、
何もナニも、これっていう確固たるものはないから。
ただ勘違いでないとして、私は薄いガラス1枚で神波コーチとの間に
バリヤーを作って何とかふたりの関係が特別なモノにならないように
踏ん張っていたのだけれども、もし相手がその薄いガラスにヒビを
入れ始めたり、あるいは私の方がこのガラスをとっぱらって
しまいたくなったら、スイミングを止め神波コーチからも永遠に
離れるつもりでいた。
◇ ◇ ◇ ◇
だけど……今はふたりの気持ちが同じなのかどうか確認する為に
ガラスをとっぱらおうと思っている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私は神波コーチの前で悲壮感漂う自分を演出することにしてみた。
「今日はあまり調子よくないみたいですから早く切り上げましょうね」
そう言い、コーチはスイミングスクールの一角にあるラウンジコーナーに
誘ってくれてココアを直に作ってくれた。
「ここのスタッフが使ってるココア、結構上手いんですよ、さっ……
どうぞ!」
「ありがとうございます」
「いつも元気でいきいきしてる里中さんが元気ないって珍しいですね」
「ハハ、そう……デスネ」
「僕でよければ……」
神波コーチは『相談に乗りますよ』と言ってくれた。
この日は別の指導員が見てくれている息子のレッスンも
もうすぐ終わりそうだった為ゆっくり話せる時間がなく、お互い
プライベートなメルアドと電話番号を交換しただけで終わった。
帰宅すると神波コーチから早速メールがあった。
こんな時だからこそ、よけいに自分を見ててくれる人がいることは
胸にズキューンときた。
そしてこれからふたりの間に何かが始まる予感は、今抱えている嫌な問題を
吹き飛ばすほどの威力を備えていた。
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