裏切りの扉  

設樂理沙

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" 愚かな娘《ヤツ》18 "

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18.


「娘は否定してますがね、警察の見解はそんな風でした。
 ブレーキを踏んだ形跡がなかったそうです。

 娘が頑なに否定しているので警察のほうも悩ましいところで
しょうが、娘とあなたの関係を知っている私からすれば、警察の
考察がドンピシャなのではと思います。

 愚かなヤツです。

 あなたの奥さんを傷つけたことでしょうね。
 奥さんのことも娘は悪し様に話してまして、恥ずかしい限りです。

 まぁ、ここは痛み分けということで、私も娘にはよくよく諭しますが
あなたもきっぱりとうちの娘が何だかんだと言ってまた接触するかも
しれませんが撥ね付けてください」


「ご理解いただけてありがとうございます。

 またそれと共に本当に申し訳ありません。
 私が誘惑に負けなければお譲さんが傷付くこともなかった訳ですから。

 今後このような不幸なことが起きないよう、わたくしども
精進して参る所存です」

 北原の父親とは殊の外落ち着いて穏やかに話し合うことができた。

 俺はその足でまだ病室にいる北原に会いに行った。
 彼女は案の定、俺を見るなり思いつく限りの罵詈雑言を繰り広げた。


 「何しに来たの? うれしいんでしょ? 良かったね、ほっとした?

 欲しくなかった子が死んで。

 この子が死んだのはあなたのせいなんだから、忘れんな!
 あなたが産まないで欲しいって願ってたから赤ちゃん
死んじゃったのよぉ~

 慰謝料払いなさいよぉ~、1000万円耳を揃えて払ってもらうから」


 木原の父親がもう帰ってくださいと、目配せしてきた。


「すまない」

 そう言って俺は病室を後にした。


 北原ってあんな女性だった?

 ふとどうでも良いそんなことが頭に浮かんだ。
 今の彼女とただの同僚だった頃の彼女のイメージは違っていたと思う。

 どちらかというと、良いイメージだったんじゃないかな。
 
 俺には仕事のできるキャリアウーマンさながらで物事を
きちんと正確に判断できる人に見えていた……と思う。

 けど、こんなことになって昔の彼女がどんなだっか
俺の捉えていた彼女のイメージに自信ないし、どんどん
おぼろげになってきている。

 きっと彼女のことを俺の脳が辛すぎて忘れたがっているのかも
しれない。
 

 彼女の中にこんなにも深い闇があったなんて。

 俺が女性の機微に疎いだけなのか? 
 俺は萌枝が好きだ。
 
 愛する女性と結婚した俺は今まで他の女性に余所見したこともないし、
考えた事もなかった……のに、このザマで自嘲するしかない。

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