裏切りの扉  

設樂理沙

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" 事故15 "

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15.


 俺は左腕と肩を痛めたものの事故の大きさの割りに
軽傷で済んだようだった。


 一方彼女のほうは意識を失っていて、どこからか流血も
していたようで搬送後も意識が戻らず……俺は自分の怪我の治療を
施してもらいつつ、彼女の意識回復を待つ状態だった。


 自分の診療やらなにやら全てを終え、彼女の入ってる病室に
来た時にはもう時刻は夕方になっていた。


 しかし、本当に疲れた。




 診療では、レントゲンetc,検査を受けた後、処置され
薬の処方、そして支払いのことなど、いろいろとこなして
いるうちにいつの間にか空の色も変わっていた。



 彼女が眠るベッドの傍らに座り、病室の窓から見える風景を眺めながら
なんでこうなるんだろう? との、苛立ちを覚えた。


 暴走しそうな彼女の気持ちをなんとか宥めようと重い腰を上げて
付き合ったのに、これだからな。 

 ほんと参る。 


 そんなほとほと参っている俺の元へ……医師と看護師が
訪れた。




 彼女を担当してくれている医師から

 『奥さんの赤ちゃんのことですが、誠に残念ながら事故の衝撃に
耐え切れなかったようで流産してしまいました。
 奥さんには健康状態が快復するのを待ちもう少し様子見してから
お知らせしたほうがいいと思います』

……との知らせが。




 救急隊員には、北原との関係は職場が同じ同僚だとちゃんと
伝えてあったのに……。


 なんで伝達がちゃんとなされてないんだ。






          ◇ ◇ ◇ ◇



「妻ではないんです」そう言うのが精一杯だった。

 「ではお子さんの父親ではないのですか?」

 「いえ、私が父親です、おそらく……」



 医師も側に付き添っている看護師も微妙な表情でいるのが
見てとれ、いたたまれなかった。


 早くその場から退散してしまいたかった。


 だが彼女が流産したこともあり、入院が少し長引きそうで
困った。

 気の毒だとは思うが、困っているのも本当だからしかたがない。





 萌枝に何と言おう。

 萌枝は今回も怒りを爆発させたりしないのだろうか?


 北原のお腹の子は俺の子で流れてしまったというのに、俺は
無慈悲な人間だな。


 心配するのは萌枝の気持ちばかりなんだから。

 ちっとも北原に対して可哀相だと思えない。
 酷い父親で非情な男だな俺という人間は。


 負傷した部位《ところ》は痛いが入院するほどではない。



 入院が少し長引きそうな北原のことをこのまま放って
おくこともできないし、警察の取り調べも今後再度受けなければ
ならないだろうし。


 やるべきことが多すぎて眩暈がしそうだが、ひとつずつ
なんとかこなしていかなければならない。
 
 
 ただ、救いは今日の警察からの事情聴取は自分が運転して
いなかった為か、思ったほど時間がかからなかったことだな。



 後は北原の意識回復待ちということだろう。

 見るともう時刻は18時を廻っている。



 負傷している為、公共の乗り物は混雑しているので難しく
萌枝に連絡を入れて迎えに来てもらうことにした。

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