裏切りの扉  

設樂理沙

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" 一筋縄ではいかない8 "

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8.


 認知して俺が妻以外の子をもうけてしまったら、妻が自分の元から
去っていくような気がして怖い。

 だから俺は北原紗栄子に、堕胎を再度勧めた。


「なぁ、俺達は恋愛したわけでもないし一夜の酒の上での過ち
なんだから、父親から望まれて産まれない子が可哀相じゃないか。

 それに何も望まないって言うけれど、例えば君が病気になったら?
 生活費と育児はどうするの? 

 今回は諦めてくれないだろうか。
 君ならちゃんと恋愛して普通に結婚して……っていう、そういう
相手に巡り会えると思う。
 だから……」




 「何言ってるの? 認知してくれるだけでいいって言ってるのに、
ごちゃごちゃ、私の人生設計を勝手に作らないで欲しいわね。

 そうだ、奥さんが怖いのね。
 奥さんに許さないって言われたのね。

 ほんと心の狭い女だよね、あなたの奥さん。
 1度見てやりたい」



 そんな怖いことを目の前の女はしゃあしゃあと言う。

 俺は何でこんなくだらない女に惑わされてしまったのだろう。

 頭を壁にぶちつけたくなった。
 

          ◇ ◇ ◇ ◇


 夫から告白された日の夜のこと……息子の部屋で
なかなか寝付けなかったのだけれど、明け方にようやく
私は眠りにつくことができた。


 



 午後目覚めた時、ようやくドキンドッキンと煩く鳴って
止まらなかった心臓の鼓動が通常運転に戻ってくれたみたいで
ほっとした。


 午後のアンニュイ感に包まれた空気の中で、私はあることに気付いた。

 なんだ……はははっ……なんだぁ~。
 私が自分の欲望を押さえ込んでいた気持ちは何だったのか!

 私が夫を想い己の欲望と戦っていた時、夫は簡単に自分の欲望に
身を投じていたんだ。

 そっか……そっか……。

 なんだぁ~何かこんな結末に、改めて心底ガックリきた。
 ガックリはしたけれど、それは一瞬だった。



          ◇ ◇ ◇ ◇


 私は何だかとっても解放されたされた気持ちになって
心が軽くなっていく自分を感じた。

 それは己自身と戦わなくてよくなった身軽さなのかもしれなかった。
 その時の気持ちったら……どんな風に表現出来るだろうか。


 とても日常的に使っている言葉等では表現できないような気がする。


 とにかく私の身体と心は解放されたのだ……解放されたような
気持ちになった。


 愛していた夫に裏切られたことに真正面から向き合うのは辛すぎる。


 だから心から悲しみ苦しみたくはないが為に、こんな風に
別に抱えていた問題をここでおっ広《ぴ》ろげているのだろうか。

 自分を力づける為に? 
 それとももしかして仕返し?
 意趣返しの為?

 今の私はグチャグチャだな。


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