『別れても好きな人』 

設樂理沙

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6◇様子見

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※※※※※


 翌朝。
 私宛に手紙が届いた。大きな封筒に厚みのある書類。何かと思えば婚約者からだ。
 上体を起こせるようになった私は机を出してもらって中身を広げる。

「……え?」

 婚約解消のお知らせだ。穢れた私は要らないという内容がしたためられた冊子が届いたらしかった。
 私が頭痛を覚えて額に手をやる。
 アメシストが心配して私の顔を覗き込む。

「どうしたの?」
「来月に控えていた結婚がなくなったのよ」

 これ、うちの両親はなんて言っているんだろう。聞いたところでは実家経由でこちらに届けられたとの話だったが。

「じゃあ、僕たちと一緒にいられる?」
「可能性は高くなったけれど、それよりも面倒なことを処理しないといけなくて……」

 婚約者――いや、もう元婚約者、か。あの人は本当にそんなことで婚約解消を選んだのだろうか。
 この結婚は私の家と彼の家の都合による政略結婚だった。この結婚は必要な仕事であるとお互いに割り切っていたのではなかったのか。それなのに、私が精霊管理協会の世話になってしまったという点で結婚はなかったことに、とは。

「別にあの人と結婚がしたかったわけじゃないけど……」

 そう。結婚がしたかったわけではない。
 だが、このために私は外界から隔離された生活を強いられていたのだ。結婚後も自由はないからと、最後の自由な時間になるだろうからと、苦労して苦労してやっと外出許可がおりたと思ったらこれである。

「どうしよう」

 魔物と遭遇したのは不運だ。そもそも都会で魔物が観測されることは極めて稀であり、ここ数年は報告がなかったはずなのだ。そうじゃなければ、単独でのお出かけの許可がおりるわけがない。
 だったら、泣いて縋って、私が清いことを証明すべきだろうか。
 いや、無駄だ。
 瘴気を取り除くために隔離された上で入院させられているのだ。弁解がしようがない。詰みだ。
 私は長く長く息を吐き出した。

「深刻そうだな」
「縁を切られそうなんで」
「どうして?」

 シトリンとアメシストが私の左右から様子をうかがってくる。
 どう説明したらいいのだろう。
 私の家がだいぶ特殊であることは察しているつもりだが、彼らにどの程度の常識があるのかもわからない。どこが一般的な家庭と違うのか、自分の感覚があてにならないので悩ましいのだった。

「……家庭の事情が複雑なもので。結婚が白紙になると、私は実家に居られないんですよ。というか、そもそも穢れなき身である必要があったんですよね。それがまあ、この度、魔物に襲われて失われてしまったわけで」

 伝わりやすく説明するならこんなところだろうか。
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