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第十二話【金平糖の想い出】雨と紫陽花とあの日の追憶
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雨が降っている―――
ぱらぱらと窓や地面や枝葉をたたく雫の音。
ひっきりなしに落ちてくる雨だれの音が、閉じた瞼の向こう側から聞こえていた。
「美寧」
誰かが呼んでいる。
ザーザーと降る雨に混じって聞こえてくる声。少し雨音に似ている。
優しくて静かで包み込むような。大好きな声。
眠りの底から浮上したばかりの意識は、さっきまで見ていた夢と現実をすぐに分けることができない。
けれどその声は、時間も場所も忘れた美寧を“今”へと呼び戻す。
「美寧」
瞼が持ち上がらない。
呼ぶ声は音程も音質もまったく違っているのに、なぜか大好きな祖父が思い出される。
その声の主を見たくて、重たいそれを何とか持ち上げようと睫毛を震わせ、美寧は必死で瞼を持ち上げた。
「ミネ―――」
開かれた双眸に映ったのは、涼しげな瞳の端正な顔。
整い過ぎた顔に表情乗せないため、一見クールに見られがちな彼が、本当はとても優しい人だということを、美寧は最初から知っていた。
あの雨の日に、美寧を拾ってくれた人。
そして、今の美寧になくてはならない人。
「―――ミネ?」
目を開けたのに何も言わない美寧の顔を、少し心配そうな怜が覗き込んでくる。
「どうかし、」
「どうかしたのですか」と怜がすべてを言い終わる前に、美寧は怜の首に腕を回し、ギュッと抱き着いた。
「っ、……ミネ?」
戸惑った声が聞こえてくる。
そんな声すらも胸の底をじわりと熱くさせて、瞼にも熱が集まってくる。
下瞼にみるみる溜まっていくしずくが、あともう少しでこぼれ落ちそうで―――
何か言いたそうな気配を怜から感じたが、美寧の口から言葉がこぼれ落ちる方が早かった。
「好き…………」
「え?」
「……れいちゃんのことが、好き」
美寧の瞳から涙がひとしずくこぼれ落ちた。
【第十二話 了】
雨が降っている―――
ぱらぱらと窓や地面や枝葉をたたく雫の音。
ひっきりなしに落ちてくる雨だれの音が、閉じた瞼の向こう側から聞こえていた。
「美寧」
誰かが呼んでいる。
ザーザーと降る雨に混じって聞こえてくる声。少し雨音に似ている。
優しくて静かで包み込むような。大好きな声。
眠りの底から浮上したばかりの意識は、さっきまで見ていた夢と現実をすぐに分けることができない。
けれどその声は、時間も場所も忘れた美寧を“今”へと呼び戻す。
「美寧」
瞼が持ち上がらない。
呼ぶ声は音程も音質もまったく違っているのに、なぜか大好きな祖父が思い出される。
その声の主を見たくて、重たいそれを何とか持ち上げようと睫毛を震わせ、美寧は必死で瞼を持ち上げた。
「ミネ―――」
開かれた双眸に映ったのは、涼しげな瞳の端正な顔。
整い過ぎた顔に表情乗せないため、一見クールに見られがちな彼が、本当はとても優しい人だということを、美寧は最初から知っていた。
あの雨の日に、美寧を拾ってくれた人。
そして、今の美寧になくてはならない人。
「―――ミネ?」
目を開けたのに何も言わない美寧の顔を、少し心配そうな怜が覗き込んでくる。
「どうかし、」
「どうかしたのですか」と怜がすべてを言い終わる前に、美寧は怜の首に腕を回し、ギュッと抱き着いた。
「っ、……ミネ?」
戸惑った声が聞こえてくる。
そんな声すらも胸の底をじわりと熱くさせて、瞼にも熱が集まってくる。
下瞼にみるみる溜まっていくしずくが、あともう少しでこぼれ落ちそうで―――
何か言いたそうな気配を怜から感じたが、美寧の口から言葉がこぼれ落ちる方が早かった。
「好き…………」
「え?」
「……れいちゃんのことが、好き」
美寧の瞳から涙がひとしずくこぼれ落ちた。
【第十二話 了】
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