耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか

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第十一話【たこ焼きくるくるパーティ】お客さまもやってくる?

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***


「ユズキだろう?」

あれからすぐに怜は彼を家の中へ招き入れた。
「手土産だ」と言って手に持っていたものを紙袋ごと怜に渡した彼は、慣れた足取りでキッチンとダイニングの間のガラス障子を引いて部屋に入り、ソファーの前に腰を下ろした。


怜の問いかけに、ナギと呼ばれた男性は飲みかけのコーヒーカップをローテーブルのソーサーの上に戻し、視線を上げた。

「何が?」

「俺がミネと住んでいることをお前に言ったのは」

「ああ、それか――まあな」

「ったく、ユズキは本当に……」

ユズキは怜の大学からの友人で、美寧の主治医でもある。眉をかすかに寄せて迷惑そうに呟いた怜は、視線を感じて隣を見た。

「どうかしましたか?ミネ」

ローテーブルの下に敷かれたラグの上に座っている怜は、隣に座る美寧を見て首を傾げる。美寧は少し躊躇ったあと、怜に訊ねた。

「今日のお客様って……」

「ええ、彼のことですよ?ナギが来ると言いませんでしたか?」

「えっと…お友達が来るとは聞いたよ?でもナギさんって、女の人だと思ってた……」

言いながら美寧は、昨日の晩、『明日の夕方ナギが来ます』と怜から告げられた時のことを思い返した。

以前ユズキからその名を聞いた時、美寧はすっかり“ナギ”が女性だと思い込んでいた。そのせいで、怜と仲の良い女性が来ることに、密かに緊張していたのだ。

自分がバイトから帰る前にその人がやってきたら、彼女と怜が二人きりになってしまう。なぜだかそのことがとても気になって、バイト中もそわそわしていた。そしてバイトが終わってすぐに、飛び出すようにラプワールを後にしたのだった。

「そうだったのですか?…すみません、俺としたことがうっかりしていて、ナギのことをちゃんと紹介できていませんでしたね。彼は俺の大学の時の友人で、」

高柳滉太たかやなぎこうただ」

客人は怜の紹介の言葉を途中から引き受けるように自分の名前を名乗った。

「はじめまして。美寧、とっ、…き、杵島美寧きじまみねです」

美寧がそう名乗ると、奥二重の瞳がじっと美寧を見つめてくる。
真っ直ぐな視線を無言で向けられて、美寧は隣の怜の方に無意識に体を寄せた。

「……俺は君とどこかで会ったことがあるだろうか?」

「っ、」

ピクリと美寧の背が跳ねる。
気付いたら怜のシャツの裾をギュッと握りしめていた。

怜は美寧の方をちらりと見た。言葉どころか息すら吐くことを拒むように、ギュッと口を引き結んでいる。
怜は視線を前に座る友人に向け、静かに口を開いた。

「ナギ―――」

「なんだ?」

「勝手にミネを口説くな」

「は?」

何を言っているのか分からない、という顔の高柳を横目に、怜は自分にピッタリとくっ付くように座っている美寧の肩に腕を回し更に自分の方へと引き寄せると、こめかみ辺りに軽く口づける。

「はにゃっ!」

驚いた声を上げた美寧の頬が、みるみる真っ赤になっていく。

「ミネは俺のものだから」

肩を抱く手にギュッと力を込めてそう言った怜のとなりで、美寧はハクハクと口を空振りさせた。

「………ユズキの話は本当だったみたいだな」

あまり表情に変化はないが、その声からは “意外だ”という雰囲気が漂っている。

「『フジくんは、ただ今拾った子を大事に溺愛してる』と聞いたときは、子猫か何かのことで、しかもユズキが話をっていると思ったが……」

「それでか。貰った紙袋の中にペット用のおやつが入っていたのは……」

「――そういうことだ」

友人同士の会話の下で、美寧は真っ赤な顔を両手で覆って俯いていた。


「それはそうと、突然邪魔してすまないな」

「いや、別に。お互い仕事が忙しいと中々会えないから、こうして久しぶりに会えてよかった。夕飯はあれでいいんだろ?」

「ああ。ありがとな」

「礼はちゃんと出来たらでいい。あれを使うのはずいぶん久しぶりだからな」

美寧はそれまで二人の会話を黙って聞いていたが、ふと気になって顔を上げた。

「れいちゃん……あれ、って何?今日の夕飯なの?」

隣から小首を傾げて見上げてくる美寧に、怜は柔らかく瞳を細めると頷いた。

「今日の夕飯は“たこ焼き”です」

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