66 / 88
第十話【差し入れレアチーズムース】報告と告白はきっちりと!?
[3]ー1
しおりを挟む
[3]
ちゃぽん。湯船に足を入れる。
温めの設定されたお湯の中に静かに体を浸し、肩まで浸かったところで美寧はゆっくりと長い息を吐きだした。
「またちゃんと言えなかったな……」
一人の男性として怜のことを好きだと意識するようになってから、簡単に「好き」と口にすることが出来なくなった。
うっかりすると今日のように軽々しく「好き」と口にしそうになるけれど、それは何だか自分が考えている告白とは違う。
(おじいさまに言ってた時の調子で、勝手に口から出ちゃうんだもの……)
祖父は生前、一人孫娘である自分のことをとても可愛がってくれていた。小さなころから祖父と暮らしていた美寧は、孫に甘い祖父にくっついては「おじいさま大好き」と口にしていたのだ。
(れいちゃん、困ってたのかなぁ……)
彼の横顔を思い出す。耳の端が赤く染まっている。
普段はあまり大きく表情を変えることのない怜が、そんなふうになることは珍しい。それがどうしてなのか美寧には見当もつかなくて、また自分の発言が彼を困らせてしまったのかも、と心配になる。
ちゃんと告白しようと思えば思うほど、かえってそれを意識してしまうせいで不自然な態度を取ってしまい、どんどん言いづらくなってしまっていた。
むき出しの首筋にひとすじの汗が伝う。温めとはいえ、晩夏の夜、長湯をすればすぐにのぼせてしまう。
夏でもシャワーだけでなく湯を沸かすのは、冷え性の美寧の体を改善するための怜の思惑だ。怜が一人だった時はシャワーだけで済ませていたことを、美寧は知らない。
ずぶずぶと、口のすぐ下まで湯船に埋める。愛用のタオル生地のヘアキャップはユズキからもらった“女の子の必需品”の一つで、洗いあがりの長い髪がまとめて包める優れものだ。
「頑張ろう……」
小さく呟くと、美寧は湯船から立ち上がった。
美寧が風呂から上がると、怜はソファーで本を読んでいるところだった。
彼は美寧の姿を見るとすぐに、読みかけの本を閉じ、掛けていた眼鏡と一緒にローテーブルの上に置いた。
「大丈夫ですか?」
「ん?」
何を心配されているのかピンと来なくて、美寧は小首を傾げる。すると、ソファーから立ち上がった怜がこちらまでやってきた。
「真っ赤になっています。のぼせましたか?」
今度はちゃんと分かって、「ううん」と小さく頭を振る。
「でもちょっと湯船に浸かり過ぎちゃったかも」
体がとても熱くて、のぼせる寸前だった自覚はあった。
「気分は?」
長い指がすーっと美寧の頬を撫でた。
「大丈夫だよ?ちょっと熱いだけ」
ひんやりとした指先が気持ち良くてうっとりと瞳を細めると、頬を撫でていた手が一瞬ピタリと止まった。
そして「ちょっと待っていてくださいね」と言い残すと、怜はキッチンの方へ行ってしまった。
すぐに戻っていた怜の手には、氷の入ったグラスがある。
「どうぞ」
「ありがとう」
グラスを受け取ると、両手がひやりと気持ち良くなる。
美寧はグラスに口をつけてごくごくと一気に半分ほど飲んだ。
「おいしい~っ!やっぱりれいちゃんの梅サイダーは美味しいね」
自家製の梅シロップを炭酸水で割った梅サイダーを風呂上りに飲むことが、この夏の美寧の定番となっている。
「気に入って貰えて良かったのですが、あと少しで梅シロップが無くなりそうです」
夏の終わりと共に、この定番ドリンクも終わろうとしているようだ。
怜の言葉を聞いた美寧は眉を下げ、手に持っているグラスの中身をじっと見つめた。
「そっかぁ……もう飲めないんだね……」
至極残念そうに呟いた声に、怜は思わず口にした。
「次はもっと沢山作りますね」
「ほんと?」
「はい。来年の梅はミネの為にたくさんシロップ漬けにします」
「やった!楽しみにしてるね」
「はい」
美寧は嬉しそうにグラスの残りを飲み干した。
そしていつものように彼女の髪をドライヤーで乾かした怜は、自分も風呂入ってくるとリビングを後にした。
ちゃぽん。湯船に足を入れる。
温めの設定されたお湯の中に静かに体を浸し、肩まで浸かったところで美寧はゆっくりと長い息を吐きだした。
「またちゃんと言えなかったな……」
一人の男性として怜のことを好きだと意識するようになってから、簡単に「好き」と口にすることが出来なくなった。
うっかりすると今日のように軽々しく「好き」と口にしそうになるけれど、それは何だか自分が考えている告白とは違う。
(おじいさまに言ってた時の調子で、勝手に口から出ちゃうんだもの……)
祖父は生前、一人孫娘である自分のことをとても可愛がってくれていた。小さなころから祖父と暮らしていた美寧は、孫に甘い祖父にくっついては「おじいさま大好き」と口にしていたのだ。
(れいちゃん、困ってたのかなぁ……)
彼の横顔を思い出す。耳の端が赤く染まっている。
普段はあまり大きく表情を変えることのない怜が、そんなふうになることは珍しい。それがどうしてなのか美寧には見当もつかなくて、また自分の発言が彼を困らせてしまったのかも、と心配になる。
ちゃんと告白しようと思えば思うほど、かえってそれを意識してしまうせいで不自然な態度を取ってしまい、どんどん言いづらくなってしまっていた。
むき出しの首筋にひとすじの汗が伝う。温めとはいえ、晩夏の夜、長湯をすればすぐにのぼせてしまう。
夏でもシャワーだけでなく湯を沸かすのは、冷え性の美寧の体を改善するための怜の思惑だ。怜が一人だった時はシャワーだけで済ませていたことを、美寧は知らない。
ずぶずぶと、口のすぐ下まで湯船に埋める。愛用のタオル生地のヘアキャップはユズキからもらった“女の子の必需品”の一つで、洗いあがりの長い髪がまとめて包める優れものだ。
「頑張ろう……」
小さく呟くと、美寧は湯船から立ち上がった。
美寧が風呂から上がると、怜はソファーで本を読んでいるところだった。
彼は美寧の姿を見るとすぐに、読みかけの本を閉じ、掛けていた眼鏡と一緒にローテーブルの上に置いた。
「大丈夫ですか?」
「ん?」
何を心配されているのかピンと来なくて、美寧は小首を傾げる。すると、ソファーから立ち上がった怜がこちらまでやってきた。
「真っ赤になっています。のぼせましたか?」
今度はちゃんと分かって、「ううん」と小さく頭を振る。
「でもちょっと湯船に浸かり過ぎちゃったかも」
体がとても熱くて、のぼせる寸前だった自覚はあった。
「気分は?」
長い指がすーっと美寧の頬を撫でた。
「大丈夫だよ?ちょっと熱いだけ」
ひんやりとした指先が気持ち良くてうっとりと瞳を細めると、頬を撫でていた手が一瞬ピタリと止まった。
そして「ちょっと待っていてくださいね」と言い残すと、怜はキッチンの方へ行ってしまった。
すぐに戻っていた怜の手には、氷の入ったグラスがある。
「どうぞ」
「ありがとう」
グラスを受け取ると、両手がひやりと気持ち良くなる。
美寧はグラスに口をつけてごくごくと一気に半分ほど飲んだ。
「おいしい~っ!やっぱりれいちゃんの梅サイダーは美味しいね」
自家製の梅シロップを炭酸水で割った梅サイダーを風呂上りに飲むことが、この夏の美寧の定番となっている。
「気に入って貰えて良かったのですが、あと少しで梅シロップが無くなりそうです」
夏の終わりと共に、この定番ドリンクも終わろうとしているようだ。
怜の言葉を聞いた美寧は眉を下げ、手に持っているグラスの中身をじっと見つめた。
「そっかぁ……もう飲めないんだね……」
至極残念そうに呟いた声に、怜は思わず口にした。
「次はもっと沢山作りますね」
「ほんと?」
「はい。来年の梅はミネの為にたくさんシロップ漬けにします」
「やった!楽しみにしてるね」
「はい」
美寧は嬉しそうにグラスの残りを飲み干した。
そしていつものように彼女の髪をドライヤーで乾かした怜は、自分も風呂入ってくるとリビングを後にした。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
後宮の偽物~冷遇妃は皇宮の秘密を暴く~
山咲黒
キャラ文芸
偽物妃×偽物皇帝
大切な人のため、最強の二人が後宮で華麗に暗躍する!
「娘娘(でんか)! どうかお許しください!」
今日もまた、苑祺宮(えんきぐう)で女官の懇願の声が響いた。
苑祺宮の主人の名は、貴妃・高良嫣。皇帝の寵愛を失いながらも皇宮から畏れられる彼女には、何に代えても守りたい存在と一つの秘密があった。
守りたい存在は、息子である第二皇子啓轅だ。
そして秘密とは、本物の貴妃は既に亡くなっている、ということ。
ある時彼女は、忘れ去られた宮で一人の男に遭遇する。目を見張るほど美しい顔立ちを持ったその男は、傲慢なまでの強引さで、後宮に渦巻く陰謀の中に貴妃を引き摺り込もうとする——。
「この二年間、私は啓轅を守る盾でした」
「お前という剣を、俺が、折れて砕けて鉄屑になるまで使い倒してやろう」
3月4日まで随時に3章まで更新、それ以降は毎日8時と18時に更新します。
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める
緋村燐
キャラ文芸
家の取り決めにより、五つのころから帝都を守護する鬼の花嫁となっていた櫻井琴子。
十六の年、しきたり通り一度も会ったことのない鬼との離縁の儀に臨む。
鬼の妖力を受けた櫻井の娘は強い異能持ちを産むと重宝されていたため、琴子も異能持ちの華族の家に嫁ぐ予定だったのだが……。
「幾星霜の年月……ずっと待っていた」
離縁するために初めて会った鬼・朱縁は琴子を望み、離縁しないと告げた。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる