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第六話【熱々じゅわっとハンバーグ】何事にも初めてはつきものです。
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「い…いえ……」
赤く染まった頬が恥ずかしくて、テーブルに視線を落とす。
「とりあえず、“まだ”なのは分かったわ」
「えっ!?」
びっくりして顔を上げて「なんで?」と思わず口にすると、「主治医だから?」というよく分からない言葉が返ってきた。
それから頬を赤らめている美寧に気を遣ったのか、ユズキは全然違う話題を振って来た。
「フジ君の料理は美味しいでしょ」
「はい。ユズキ先生はれいちゃんのお料理、食べたことあるんですか?」
「ええ。学生の時は時々ご馳走になっていたけど、お互い仕事を始めてからは忙しくてなかなか、ね」
「そうなんですね…」
ユズキが怜の大学時代の友人であることは以前聞いていて知っていたが、家で手料理を食べるほど親しい間柄だったんだ、と改めて怜とユズキの付き合いの深さを理解する。
(学生時代のれいちゃん、どんな感じだったんだろう…)
「フジ君は大学の時からあまり変わっていないわ。同い年の女としては悔しいくらいね」
美寧は丸い瞳をパッチリと開け、ユズキを見た。
(私、今声に出したっけ?)
口に出さなかった疑問に的確な答えが返ってきたため、思わず頭の中を読まれたのかと思う。
「あの通り綺麗な顔と抜群のスタイルでしょ?黙ってても女の子達が寄ってくるのは、ホント変わんない」
辟易といった口調でユズキは言った。
「女の子たちが寄って……」
「そうそう。まぁ、モテるのはナギも一緒だったわね……」
「ナギ…さん?」
美寧は小さく首を傾げる。
「大学時代の友人よ」
それから少しの間ユズキから大学時代の話を聞いた。
怜とユズキは同じ大学に通う同級生で、学部は違ったが英会話サークルで一緒だったという。
そのサークルは彼らの大学だけでなく市内の他大学も含めて広く活動している団体で、総勢百名近くになるビックサークルだったという。
サークル活動の中で、もう一人の“ナギさん”という人とも仲良くなったということだった。
気が合った三人は、専攻科目はバラバラだったが、時間が合えばサークル外でも集まって色々なことを楽しんだらしい。
「素敵ですね、大学生活って」
「そうね。なんだかんだと忙しかったけれど、今となってはいい思い出かしら」
(ちょっとだけ羨ましい…かも)
美寧は小さく息を吐く。
「美寧ちゃんは?大学は?」
美寧の様子を目聡く拾ったユズキに訊ねられ、美寧は少し言い澱んだ。
「大学には行ってない、です」
「そっか。就職?」
「えっと…その就職もしてなくて…私……」
何をどう説明していいのか自分でも考えがまとまらなくて、俯いて口をもごもごと動かした。
「言いたくないことは言わないでいいのよ?詮索したいわけではないから」
「……ごめんなさい」
「謝らないで?こちらこそごめんなさいね。あなたを困らせたって知られたらフジ君に怒られちゃうわ」
最後の言葉を悪戯っぽい瞳で言ったのは、落ち込みかけた美寧をフォローする為だろう。
「そうだ。そんなことよりも、今日の夕飯は何か、美寧ちゃんは知ってる?」
「今夜はハンバーグです」
脈略もなく飛んできた質問に反射的に答えると、「ハンバーグ、良いわね…たまには私も……」と、ユズキは何やら呟いている。
その姿を美寧が黙って見ていると、ユズキは鞄の中のスマホを確認し、顔を上げた。
「そろそろ帰らないと、クール王子がブリザード王に豹変しちゃうわね」
(クール王子がブリザードに……)
初めて聞いた言葉を頭の中で反芻してみる。それから一拍置いてから、美寧は「くすっ」と小さく笑いこぼれた。
「さ、出ましょうか?」
「はい!」
最後の紅茶を飲みきってから、美寧とユズキは店を後にした。
赤く染まった頬が恥ずかしくて、テーブルに視線を落とす。
「とりあえず、“まだ”なのは分かったわ」
「えっ!?」
びっくりして顔を上げて「なんで?」と思わず口にすると、「主治医だから?」というよく分からない言葉が返ってきた。
それから頬を赤らめている美寧に気を遣ったのか、ユズキは全然違う話題を振って来た。
「フジ君の料理は美味しいでしょ」
「はい。ユズキ先生はれいちゃんのお料理、食べたことあるんですか?」
「ええ。学生の時は時々ご馳走になっていたけど、お互い仕事を始めてからは忙しくてなかなか、ね」
「そうなんですね…」
ユズキが怜の大学時代の友人であることは以前聞いていて知っていたが、家で手料理を食べるほど親しい間柄だったんだ、と改めて怜とユズキの付き合いの深さを理解する。
(学生時代のれいちゃん、どんな感じだったんだろう…)
「フジ君は大学の時からあまり変わっていないわ。同い年の女としては悔しいくらいね」
美寧は丸い瞳をパッチリと開け、ユズキを見た。
(私、今声に出したっけ?)
口に出さなかった疑問に的確な答えが返ってきたため、思わず頭の中を読まれたのかと思う。
「あの通り綺麗な顔と抜群のスタイルでしょ?黙ってても女の子達が寄ってくるのは、ホント変わんない」
辟易といった口調でユズキは言った。
「女の子たちが寄って……」
「そうそう。まぁ、モテるのはナギも一緒だったわね……」
「ナギ…さん?」
美寧は小さく首を傾げる。
「大学時代の友人よ」
それから少しの間ユズキから大学時代の話を聞いた。
怜とユズキは同じ大学に通う同級生で、学部は違ったが英会話サークルで一緒だったという。
そのサークルは彼らの大学だけでなく市内の他大学も含めて広く活動している団体で、総勢百名近くになるビックサークルだったという。
サークル活動の中で、もう一人の“ナギさん”という人とも仲良くなったということだった。
気が合った三人は、専攻科目はバラバラだったが、時間が合えばサークル外でも集まって色々なことを楽しんだらしい。
「素敵ですね、大学生活って」
「そうね。なんだかんだと忙しかったけれど、今となってはいい思い出かしら」
(ちょっとだけ羨ましい…かも)
美寧は小さく息を吐く。
「美寧ちゃんは?大学は?」
美寧の様子を目聡く拾ったユズキに訊ねられ、美寧は少し言い澱んだ。
「大学には行ってない、です」
「そっか。就職?」
「えっと…その就職もしてなくて…私……」
何をどう説明していいのか自分でも考えがまとまらなくて、俯いて口をもごもごと動かした。
「言いたくないことは言わないでいいのよ?詮索したいわけではないから」
「……ごめんなさい」
「謝らないで?こちらこそごめんなさいね。あなたを困らせたって知られたらフジ君に怒られちゃうわ」
最後の言葉を悪戯っぽい瞳で言ったのは、落ち込みかけた美寧をフォローする為だろう。
「そうだ。そんなことよりも、今日の夕飯は何か、美寧ちゃんは知ってる?」
「今夜はハンバーグです」
脈略もなく飛んできた質問に反射的に答えると、「ハンバーグ、良いわね…たまには私も……」と、ユズキは何やら呟いている。
その姿を美寧が黙って見ていると、ユズキは鞄の中のスマホを確認し、顔を上げた。
「そろそろ帰らないと、クール王子がブリザード王に豹変しちゃうわね」
(クール王子がブリザードに……)
初めて聞いた言葉を頭の中で反芻してみる。それから一拍置いてから、美寧は「くすっ」と小さく笑いこぼれた。
「さ、出ましょうか?」
「はい!」
最後の紅茶を飲みきってから、美寧とユズキは店を後にした。
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