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第五話【優しさ香るカフェオレ】迷い猫に要注意!
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美寧が怜の家で暮らすようになって二週間ほど経った頃。
降っては止み、止んだと思ったら直ぐにまた降り出す、そんな梅雨らしい曇天がずっと続いていたのが嘘のように、その日は朝から気持ちの良い青い空が広がっていた。
「今日は夕方には帰って来られると思います。留守の間、ミネは好きなことをして過ごしてくださいね」
朝食を挟んで向かい合った怜が、言う。
ついさっき起きたばかりの美寧は、まだ眠い目を擦りあくびを噛み殺しながら頷いた。
「鍵はお財布と同じところに置いています。出掛ける時は戸締りを忘れずに」
「はーい」
必要なものが有ればすぐ近くの商店街で好きに買っていいと、怜は美寧用の小さな財布を用意してくれた。もちろん中身もそれなりに入っている。
「昼ご飯は冷蔵庫に入れてあります。今日はチャーハンです。レンジで温めて食べて下さいね。ミネストローネも冷蔵庫のタッパーに淹れてありますよ」
「やったぁ!ありがとう、れいちゃん」
美寧はつい最近電子レンジの使い方を怜に教わったばかり。それからというもの、美寧はレンジを使うことが楽しくてたまらない。
お礼を言った後「いただきます」と手を合わせてから、一口大にちぎったロールパンを口に運ぶ。
怜が買ってくるパンは商店街のベーカリーのもので、どれを食べてもとても美味しい。
相変わらず一度に食べられる量は少ないが、食べ物を口にして「美味しい」と思えることが、今の美寧には嬉しくて仕方ない。
(れいちゃんが用意してくれるご飯は、いつも美味しいなぁ)
しみじみと思いながらロールパンを咀嚼していると、先に食べ終わったのか、怜が食器を持ち立ち上がった。
「今日は一コマ目から授業なので、早めに出ますね。」
「うん。」
「ミネはゆっくり食べていてください。」
そう言い残すと怜は食器を片付けにキッチンへと行ってしまった。
怜を見送った後、しばらく美寧は縁側に座ってくつろいでいた。
大きなビーズクッションに背中を預ける。このクッションを初めて使ってから、すっかりリラックスの相棒になっていた。
藤波家の南側は細長い縁側になっている。美寧は、ここで暮らし始めてからすぐにこの縁側を気に入って、暇さえあればここでのんびりと庭を眺めるのが日課になっていた。
庭先にある紫陽花の花は今が見ごろ。青紫のこんもりとした固まりがとても可愛らしい。
玄関近くに植えられたクチナシの木には純白の花が幾つも咲いていて、爽やかな風が甘い香りを運んでくる。他にもゼラニウムや撫子の花などが梅雨の庭を鮮やかに彩っていた。
「いいお天気。」
思わず口からこぼれる。
見上げた青い空には白い雲が幾つか浮いていて、昨日までの曇天が嘘のように澄んでいる。
(そう言えば、ずいぶん外に出てないなぁ……)
行き倒れていたところを怜に助けてもらってから二週間以上経つのに、美寧はこの家から一歩も出ていない。靴を履くのは庭に降りるときだけ。
熱が完全に下がって数日間は体がだるかったが、今はもう普通に動ける。
朝怜が言っていたように、合鍵は貰っているから出掛けるのも家にいるのも美寧の自由。
(お天気もいいし、お散歩に行ってみようかな……)
家のすぐ前が緑地公園で、そこを抜けると商店街があるという。
『気晴らしに散歩するにはちょうど良いところですよ』
怜の言葉を思い出し、美寧は縁側のクッションから腰を上げた。
美寧が怜の家で暮らすようになって二週間ほど経った頃。
降っては止み、止んだと思ったら直ぐにまた降り出す、そんな梅雨らしい曇天がずっと続いていたのが嘘のように、その日は朝から気持ちの良い青い空が広がっていた。
「今日は夕方には帰って来られると思います。留守の間、ミネは好きなことをして過ごしてくださいね」
朝食を挟んで向かい合った怜が、言う。
ついさっき起きたばかりの美寧は、まだ眠い目を擦りあくびを噛み殺しながら頷いた。
「鍵はお財布と同じところに置いています。出掛ける時は戸締りを忘れずに」
「はーい」
必要なものが有ればすぐ近くの商店街で好きに買っていいと、怜は美寧用の小さな財布を用意してくれた。もちろん中身もそれなりに入っている。
「昼ご飯は冷蔵庫に入れてあります。今日はチャーハンです。レンジで温めて食べて下さいね。ミネストローネも冷蔵庫のタッパーに淹れてありますよ」
「やったぁ!ありがとう、れいちゃん」
美寧はつい最近電子レンジの使い方を怜に教わったばかり。それからというもの、美寧はレンジを使うことが楽しくてたまらない。
お礼を言った後「いただきます」と手を合わせてから、一口大にちぎったロールパンを口に運ぶ。
怜が買ってくるパンは商店街のベーカリーのもので、どれを食べてもとても美味しい。
相変わらず一度に食べられる量は少ないが、食べ物を口にして「美味しい」と思えることが、今の美寧には嬉しくて仕方ない。
(れいちゃんが用意してくれるご飯は、いつも美味しいなぁ)
しみじみと思いながらロールパンを咀嚼していると、先に食べ終わったのか、怜が食器を持ち立ち上がった。
「今日は一コマ目から授業なので、早めに出ますね。」
「うん。」
「ミネはゆっくり食べていてください。」
そう言い残すと怜は食器を片付けにキッチンへと行ってしまった。
怜を見送った後、しばらく美寧は縁側に座ってくつろいでいた。
大きなビーズクッションに背中を預ける。このクッションを初めて使ってから、すっかりリラックスの相棒になっていた。
藤波家の南側は細長い縁側になっている。美寧は、ここで暮らし始めてからすぐにこの縁側を気に入って、暇さえあればここでのんびりと庭を眺めるのが日課になっていた。
庭先にある紫陽花の花は今が見ごろ。青紫のこんもりとした固まりがとても可愛らしい。
玄関近くに植えられたクチナシの木には純白の花が幾つも咲いていて、爽やかな風が甘い香りを運んでくる。他にもゼラニウムや撫子の花などが梅雨の庭を鮮やかに彩っていた。
「いいお天気。」
思わず口からこぼれる。
見上げた青い空には白い雲が幾つか浮いていて、昨日までの曇天が嘘のように澄んでいる。
(そう言えば、ずいぶん外に出てないなぁ……)
行き倒れていたところを怜に助けてもらってから二週間以上経つのに、美寧はこの家から一歩も出ていない。靴を履くのは庭に降りるときだけ。
熱が完全に下がって数日間は体がだるかったが、今はもう普通に動ける。
朝怜が言っていたように、合鍵は貰っているから出掛けるのも家にいるのも美寧の自由。
(お天気もいいし、お散歩に行ってみようかな……)
家のすぐ前が緑地公園で、そこを抜けると商店街があるという。
『気晴らしに散歩するにはちょうど良いところですよ』
怜の言葉を思い出し、美寧は縁側のクッションから腰を上げた。
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