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第四話【スペシャルパンケーキ】休日ブランチは極甘に!?
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(れいちゃんのこと、よく分からないかも………)
ダイニングテーブルにトレイを置き、紅茶の準備を始める。沸いたお湯を注いだポットにティコージーを被せると、砂時計をひっくり返す。
慣れたことなのでスムーズに手は動ごくが、心のほうは乱れている。
怜の家は昔ながらの平屋の一軒家で、キッチンは完全な独立型。
ダイニングとキッチンの間はガラス障子で仕切られていて、ダイニングからリビングは畳み敷きで十九畳ほどある。
怜は調理のためこちらに背を向けているし、美寧のいるダイニングテーブルの端からは怜の姿もほとんど見えない。
(あれって、やっぱり夢だったのかな……)
美寧は数日前のことを思い返した。
突然のキスに困惑していたあの日、美寧よりも先に帰宅していた怜と夕飯を食べた。食後に出てきた梅サイダーゼリーを食べたところまではしっかりと記憶している。
けれど、その後。
『大人は、恋人じゃなくても……キスするの?』
思い切って怜にそう訊ねた。………はずだ。
『ゆうべはすみませんでした』
謝罪の言葉に哀しくなった。自分の子どもっぽさにも。
何かぐちゃぐちゃとした気持ちになったけれど、そこからの記憶が曖昧だ。怜と何か遣り取りをしたし、その度に何かを考えたきたするけど、詳細が思い出せない。
ふわふわくらくらして、最後の方は何も考えられなくなっていた。
『美寧が好きだ』
『俺の恋人になってくれませんか?』
そんな台詞を聞いた気がする。
(私はなんて答えたんだろう……でもやっぱり夢だったのかも)
美寧がそう思ってしまうのは、他にも理由がある。
気がついたら美寧は自分の布団の中で、怜の「朝食が出来ましたよ」といういつもの声で目が覚めたからだ。
「あれ?」となった。
昨夜の記憶のどこまでが現実でどこからが夢なのかが分からず、ぼーっとしたまま起きていくと、普段と変わらない怜の姿。
彼はいつもと同じように「おはようございます」と言い、朝食を一緒に食べて、普段通りに「いってきます」と出勤して行った。
それからの数日間、特に変わったことはない。
(あ、ちょっとだけあった。)
“変わった”と言っていいのか分からないが、怜の雰囲気が今までよりも柔らかくなった。最初は気のせいかと思ったが、今では間違いないと思っている。
「どこが」と問われると何と答えていいか悩むが、瞳とか声色とかが、これまでとはどこか違う。
ふと目が合った時の瞳。美寧を呼ぶ声。
これまで通りの丁寧で涼やかな口調の中に、ほどけるようなまろやかな甘さがある。
そしてたまにこうやって美寧との距離を“同居人以上”に縮めてくる。
その度に顔を赤くして慌てる美寧を見て、いつになく楽しそうな声を漏らすから、美寧はやっぱりからかわれているようにしか思えなかった。
血の繋がらない男性に抱きしめられたことなどない美寧には、怜に抱き寄せられるだけで、どうしたら良いのか分からなくなってしまう。
(ううん…家族にだって、抱きしめられた記憶なんてない)
自分を抱きしめてくれた異性は、記憶にある限り祖父だけ。
(でも、いやじゃない。れいちゃんの腕の中はおじいさまみたいに温かいから………)
さっきもほんの一瞬だったが、服越しに感じた彼の体温はとても温かかった。
(でも、おじいさまの時はこんなふうに心臓が忙しくなったりしなかったのに……)
思い返して頬を赤くした美寧の視界の端に、砂時計が最後の砂を落としきったのが映った。
ダイニングテーブルにトレイを置き、紅茶の準備を始める。沸いたお湯を注いだポットにティコージーを被せると、砂時計をひっくり返す。
慣れたことなのでスムーズに手は動ごくが、心のほうは乱れている。
怜の家は昔ながらの平屋の一軒家で、キッチンは完全な独立型。
ダイニングとキッチンの間はガラス障子で仕切られていて、ダイニングからリビングは畳み敷きで十九畳ほどある。
怜は調理のためこちらに背を向けているし、美寧のいるダイニングテーブルの端からは怜の姿もほとんど見えない。
(あれって、やっぱり夢だったのかな……)
美寧は数日前のことを思い返した。
突然のキスに困惑していたあの日、美寧よりも先に帰宅していた怜と夕飯を食べた。食後に出てきた梅サイダーゼリーを食べたところまではしっかりと記憶している。
けれど、その後。
『大人は、恋人じゃなくても……キスするの?』
思い切って怜にそう訊ねた。………はずだ。
『ゆうべはすみませんでした』
謝罪の言葉に哀しくなった。自分の子どもっぽさにも。
何かぐちゃぐちゃとした気持ちになったけれど、そこからの記憶が曖昧だ。怜と何か遣り取りをしたし、その度に何かを考えたきたするけど、詳細が思い出せない。
ふわふわくらくらして、最後の方は何も考えられなくなっていた。
『美寧が好きだ』
『俺の恋人になってくれませんか?』
そんな台詞を聞いた気がする。
(私はなんて答えたんだろう……でもやっぱり夢だったのかも)
美寧がそう思ってしまうのは、他にも理由がある。
気がついたら美寧は自分の布団の中で、怜の「朝食が出来ましたよ」といういつもの声で目が覚めたからだ。
「あれ?」となった。
昨夜の記憶のどこまでが現実でどこからが夢なのかが分からず、ぼーっとしたまま起きていくと、普段と変わらない怜の姿。
彼はいつもと同じように「おはようございます」と言い、朝食を一緒に食べて、普段通りに「いってきます」と出勤して行った。
それからの数日間、特に変わったことはない。
(あ、ちょっとだけあった。)
“変わった”と言っていいのか分からないが、怜の雰囲気が今までよりも柔らかくなった。最初は気のせいかと思ったが、今では間違いないと思っている。
「どこが」と問われると何と答えていいか悩むが、瞳とか声色とかが、これまでとはどこか違う。
ふと目が合った時の瞳。美寧を呼ぶ声。
これまで通りの丁寧で涼やかな口調の中に、ほどけるようなまろやかな甘さがある。
そしてたまにこうやって美寧との距離を“同居人以上”に縮めてくる。
その度に顔を赤くして慌てる美寧を見て、いつになく楽しそうな声を漏らすから、美寧はやっぱりからかわれているようにしか思えなかった。
血の繋がらない男性に抱きしめられたことなどない美寧には、怜に抱き寄せられるだけで、どうしたら良いのか分からなくなってしまう。
(ううん…家族にだって、抱きしめられた記憶なんてない)
自分を抱きしめてくれた異性は、記憶にある限り祖父だけ。
(でも、いやじゃない。れいちゃんの腕の中はおじいさまみたいに温かいから………)
さっきもほんの一瞬だったが、服越しに感じた彼の体温はとても温かかった。
(でも、おじいさまの時はこんなふうに心臓が忙しくなったりしなかったのに……)
思い返して頬を赤くした美寧の視界の端に、砂時計が最後の砂を落としきったのが映った。
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