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第一話【ふわとろオムライス】ケッチャップで愛の言葉を!?
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美寧が見惚れてしまうのも致し方ない。
怜の容姿は一般人のそれとは比べ物にならないほど、美しく整っている。
切れ長の二重の瞳は知的で涼しげ、スッと通った鼻筋、その下には厚すぎない唇。そのどれもが計算されたかのように完全に配置され、今を時めく人気俳優にも勝るとも劣らぬイケメンなのだ。
更に百八十センチの高身長を備えているとあれば、世の女性たちの心を掴まないわけはない。
彼の周りの人々は老若男女皆、こう思うであろう。“眉目秀麗”とは彼の為にある言葉なのではないかと。
美寧とて立派な成人女性だ。そんな怜にとろけるような笑みを見せられて、心を奪われないはずはない。
ポーッとなっている美寧を見て、くすりと小さな笑いを漏らした怜は、自分の手元にあるグラスを持ち上げ向かいに座る美寧の方へと軽く突き出した。
反射的に美寧もグラスを掲げ彼のものと触れ合わせる。ガラスとガラスがカチンと涼しげな音を立てた。
「乾杯。ミネが来てちょうど一か月に」
「あっ!」
美寧はここで暮らし始めて今日でちょうど一か月、と言うことに今気が付いた。
「記念に美寧の好きなものを描いてあげますよ」
そう言った彼が左手で持ち上げたのは、トマトケチャップ。
怜の作るオムライスは、特製デミグラスソースやホワイトソースとチーズのグラタン風も美味しいのだけど、美寧はシンプルにケチャップで食べるのが好きだ。その方が玉子の甘みとふわふわの触感がより楽しめるというのが美寧の持論なのだ。
「私の好きなもの……」
スプーンを持ったままジッと考える。
「じゃあ、いつもれいちゃんが私に言うアレ!」
「あれ…とは?」
「も…ねっと?…う~ん、フランス語…かな?」
「ああ――」
怜は得心したという顔をして、ケチャップの先をサラサラと動かし器用に何か文字を書いていった。
「なんて書いてあるの?」
「ma minette―――マ・ミネット」
「マ、ミネット……」
なんだかよく分からないけど、ちょっと恥ずかしくて頬が紅潮してしまう。流暢な外国語を口にする怜に、妙な色気を感じるのは美寧の気のせいかもしれない。
「冷める前にいただきましょう」
「う、うん!いただきます!!」
美寧はスプーンを掴むと、目の前のオムレツを目で捉える。そして意を決して左の端にスプーンを差し込んだ。
少しだけスプーンに力を入れると表面の玉子がプチっと切れ、湯気と共に半熟のとろとろ玉子が出てくる。その下にはケチャップライスが綺麗にくるりと包まれているのだ。ほんのりバターの香りのするそのケッチャップライスは、チキンではなくウィンナーが入っているのが怜流だった。
スプーンの上にこぼれんばかりに乗せたオムライスをパクリと口に入れる。ふわふわの触感と甘みや酸味が口いっぱいに広がって、美寧は何とも言えない幸せな気持ちでいっぱいになった。
「んんん~~んっ、おいしいっ!!」
口いっぱいにあったオムライスを飲みこむと、美寧は満面の笑みでそう言った。
目の前の大好物に気を取られている美寧には、自分のことを蕩けそうなほど愛おしげに見つめている怜には、まったく気付いていない。
小首を傾げ、サラサラの前髪を斜めに垂らしたまましばらくの間怜は、自分の分を食べることなく美寧の食べる姿を満足げに見ていた。
怜の容姿は一般人のそれとは比べ物にならないほど、美しく整っている。
切れ長の二重の瞳は知的で涼しげ、スッと通った鼻筋、その下には厚すぎない唇。そのどれもが計算されたかのように完全に配置され、今を時めく人気俳優にも勝るとも劣らぬイケメンなのだ。
更に百八十センチの高身長を備えているとあれば、世の女性たちの心を掴まないわけはない。
彼の周りの人々は老若男女皆、こう思うであろう。“眉目秀麗”とは彼の為にある言葉なのではないかと。
美寧とて立派な成人女性だ。そんな怜にとろけるような笑みを見せられて、心を奪われないはずはない。
ポーッとなっている美寧を見て、くすりと小さな笑いを漏らした怜は、自分の手元にあるグラスを持ち上げ向かいに座る美寧の方へと軽く突き出した。
反射的に美寧もグラスを掲げ彼のものと触れ合わせる。ガラスとガラスがカチンと涼しげな音を立てた。
「乾杯。ミネが来てちょうど一か月に」
「あっ!」
美寧はここで暮らし始めて今日でちょうど一か月、と言うことに今気が付いた。
「記念に美寧の好きなものを描いてあげますよ」
そう言った彼が左手で持ち上げたのは、トマトケチャップ。
怜の作るオムライスは、特製デミグラスソースやホワイトソースとチーズのグラタン風も美味しいのだけど、美寧はシンプルにケチャップで食べるのが好きだ。その方が玉子の甘みとふわふわの触感がより楽しめるというのが美寧の持論なのだ。
「私の好きなもの……」
スプーンを持ったままジッと考える。
「じゃあ、いつもれいちゃんが私に言うアレ!」
「あれ…とは?」
「も…ねっと?…う~ん、フランス語…かな?」
「ああ――」
怜は得心したという顔をして、ケチャップの先をサラサラと動かし器用に何か文字を書いていった。
「なんて書いてあるの?」
「ma minette―――マ・ミネット」
「マ、ミネット……」
なんだかよく分からないけど、ちょっと恥ずかしくて頬が紅潮してしまう。流暢な外国語を口にする怜に、妙な色気を感じるのは美寧の気のせいかもしれない。
「冷める前にいただきましょう」
「う、うん!いただきます!!」
美寧はスプーンを掴むと、目の前のオムレツを目で捉える。そして意を決して左の端にスプーンを差し込んだ。
少しだけスプーンに力を入れると表面の玉子がプチっと切れ、湯気と共に半熟のとろとろ玉子が出てくる。その下にはケチャップライスが綺麗にくるりと包まれているのだ。ほんのりバターの香りのするそのケッチャップライスは、チキンではなくウィンナーが入っているのが怜流だった。
スプーンの上にこぼれんばかりに乗せたオムライスをパクリと口に入れる。ふわふわの触感と甘みや酸味が口いっぱいに広がって、美寧は何とも言えない幸せな気持ちでいっぱいになった。
「んんん~~んっ、おいしいっ!!」
口いっぱいにあったオムライスを飲みこむと、美寧は満面の笑みでそう言った。
目の前の大好物に気を取られている美寧には、自分のことを蕩けそうなほど愛おしげに見つめている怜には、まったく気付いていない。
小首を傾げ、サラサラの前髪を斜めに垂らしたまましばらくの間怜は、自分の分を食べることなく美寧の食べる姿を満足げに見ていた。
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