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Encore*玉手箱はお受けいたしかねま…す?

玉手箱はお受けいたしかねま…す?[3]ー③

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「僕は、あなたに出会って自分でも知らなかった自分に出会った。苦手なものに向き合うことも、誰かと真正面からぶつかることも、あなたと会ってから初めて知った。大抵のことは卒なく完璧にこなしてきたはずなのに、あなたのことになると途端に自分を制御できなくなる。こんなにも未熟な自分がいることも、あなたと出会ってから初めて知ったことだ」

「それを言うならわたしだって――」

恋に傷つくことが怖くて臆病になって、挙句の果てにアキをひどい言葉で傷つけた。『いい大人』だとか『年上』だなんてもう口にできないくらいに未熟すぎる自分を知った。

まるでわたしが続けようとした言葉を読んだかのように、アキは小さく首を振ってわたしを制す。

「これが本来の自分かと思うと、あまりに情けなくて遣りきれなくなる」
「アキ……」

形の良い眉をへにょり・・・・と下げた彼に、胸がキュンと甘く鳴る。
だから、その“みみを下げた顔”に弱いんだってば!

自分の胸の辺りにある彼の頭を撫でてあげたいのに、わたしの手を包むアキの手に力が込められてそれも出来ない。

するとアキの瞳がまた真剣なものに戻った。

「だけど、そんな情けない姿もあなただから見せられる。――いや、あなたにしか見せられない」
「っ、」
「僕はビール嫌いも未熟さも必ず克服する。あなたを――家族を守るため、いずれ背負って立つTohmaのために、誰にも何も言わせないほど完璧なトップになる。それを今ここであなたに誓うよ。だから――」

全身の血脈がさっきよりも大きく波打った。

片膝を着いたままわたしを見上げる瞳に吸い込まれそう。
忙しなく鼓動を速める心臓が耳の奥で大きな音を立てながら、これから彼がしようとしていることを告げようとする。

待って、ちがう、そんなはずない。だって―――

声も出せずに立ち尽くすわたしに、アキが上着のポケットから取り出したものを差し出した。

五本の長い指で包むように持った薄水色の小さな箱。ゆっくりと開かれているそれに、息を止めた。

まばゆいほどに輝くダイヤモンドが、黒い台座の上でこれでもかと言うほど存在感を放っている。

「Will you marry me?  Let’s continue to live together forever.」
「…っ!」
「生涯をあなたと共に歩みたい。僕と結婚してください、吉野」

大きく見開いた目に映る、二つの虹彩とダイヤモンド。ほぼ同じ大きさのそれらが、朝陽を浴びてキラキラと輝いている。

眩しくて目を開けていられない。でも、今目を閉じたらきっと――。

「返事は? 吉野」

下から小首を傾げてそう訊いたアキの瞳が、チョコレートのように甘く蕩けそう。
わたしは小刻みに戦慄わなないている唇を一度キュッと噛み締め鼻から息を吸い込んだ。

「Yesよ…! するっ…アキと結婚したい!」

勢いよくそう言うと、アキがホッと息をつく。そしてわたしの左手を取ると、薬指に指輪を通した。

「ありがとう、吉野」

垂れ目を甘く細めてそう言ったアキに、わたしは何度も頷く。右手の甲で頬を拭うけれど、次々とあふれ出してくる涙に追いつかない。すると、立ち上がったアキがわたしをふわりと抱きしめた。

「泣かせてごめんね?」

そうよっ…こんなところでこんなプロポーズ、最高過ぎて泣いちゃったじゃないの!
おかげで「玉手箱はノーセンキュウ!」って言う余裕もなかったじゃないか…!

「あなたが『御曹司らしいプロポーズを』お望みだったんだろう?」

え…?わたし、いつそんなこと言ったっけ……。

「前の時は完全に勢いだったから、今度こそはきちんとあなたを満足させられるプロポーズがしたかったんだ。残念ながら薔薇の花束は持ってこれなかったから『指輪をパカッと』くらいしか出来なかったけど」

あっ…!あの執務机エグゼクティブデスクでのすったもんだ・・・・・・の時に、どさくさに紛れて言ったことをちゃんと覚えていてくれたんだ!

「夜景の見えるレストランで、っていうのも考えたけど、静さんなら絶対こっちだろうと思って」

はい、正解です。相変わらずわたしのツボを押さえていらっしゃるわね、CMO。
しかも、てっきりあれが正式な“プロポーズ”だと思っていたのに、こんなふうにもう一度完璧な形で“プロポーズ”してくれるなんて……。

感心しきりで頷いていると、アキがみみを下げた。

「本当はブルックリン橋の上でプロポーズしたかったのだけど、休みを取る暇も無くて……。こんな手近なところでごめん」
「そんなことないっ! ここで…ここがいい! だって、ここがわたしたちの始まりの橋だもの。アキとわたしのことを繋いでくれたのは、『渡月橋』でしょ?」
「そうだな。僕もそう思った。あの時あなたがここの写真を観ていなかったら、きっと声を掛けることなんてなかったと思う。僕たちを繋いでくれたここで、あなたに誓いたかったんだ」
「アキ……」
「愛してる、吉野。こんなにも欲しいと思ったのはあなただけだ」

耳元で囁かれた言葉に、全身が甘く痺れるよう。彼の背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめると、アキがさらに強く抱きしめ返してくれて、わたしは硬い胸板に顔を埋めた。

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