あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか

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Chapter16*虹の橋の彼方でーOver the Rainbow Bridge-***

虹の橋の彼方で[1]ー①***

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「吉野」

耳のすぐ後ろから熱く湿った声がする。

だけど、今のわたしにはそれに言葉を返す余裕など――ない。


「ナカ、すごく狭い」
「んっ…そんなことっ、……ぁやっ、アキっ…!」
「久しぶり、だからだよな……だけど、ごめん」

一旦そこで言葉を切ったアキは、大きく腰を引く。熱く固い塊にずるりと内襞うちひだを擦られて、全身が大きく戦慄わなないた。

「んあっ…」
「余裕がない」

切羽詰まった声を耳に吹き込まれた次の瞬間、ギリギリまで引いた腰を、一気に最奥まで埋め込まれた。

「あぁ……っ」
「あなたに会いたくて、堪らなかった」
「んっ、……ぁっ、」
「会えなくて死にそうだった……もう二度と離さない。今夜はそれを分からせるから」

何度も後ろから腰を強く激しく打ちつけられる度、口からあられもない嬌声が飛び出てしまう。

与えられる刺激があまりにも大きくて、ともすると、快感の波に溺れてしまいそう。縋るものを探して必死に伸ばした手は、固く冷たいガラスを滑っていった。

掴めるはずもないガラスの上で、爪が音を立てる。

ガラスを隔てた向こう側では東京湾の夜景がきらめいているはずなのに、今のわたしにはそれを楽しむ余裕などない。
窓ガラスに両手をついて立ち、後ろから与えられる激しい律動に翻弄されるだけだ。

この部屋に入った途端、目に飛び込んで来た『レインボーブリッジ』に歓声を上げて、小走りで窓辺に一直線になったのは、ほんの数十分前のことだったはずなのに――。

―――――――――――――――
――――――――――
―――――

CEO室から出たあと、アキはわたしを抱えたままエレベーターに乗り込んだ。
「誰かに見られる前に下ろして」と訴えるわたしに、アキは「役員専用機だから大丈夫」と言う。

それって、もしこの・・状態を見られるとしたら確実に“お偉いさん”ってこと!?
サーっと顔を青ざめさせたわたしが、本格的に抵抗を始めようとした時、エレベーターが到着を告げた。

地下駐車場にある一台の車にわたしを下ろしたアキは、ドアを閉めてから自分は左側に回り込んだ。

ステアリングの中央には、一匹のネコ科肉食獣。
今まさに獲物に飛びかかろうとしている瞬間に釘付けになった時、耳のすぐそばで「シートベルト、出来る?」という声。ドキッと胸が跳ねて、「大丈夫」と答えた声が上擦った。
慌ててシートベルトを締めると、「ふっ」と息を吐くような笑いを漏らしたアキが、滑らかに車を発進させた。

最初、エンジンの重低音が響く小さな空間で、わたしは中々口を開けないでいた。
二人乗りの小さな空間は若々しくもセクシーな香りで満たされていて、ハンドルを握っている人は仕立ての良い三つ揃えに身を包んでいる。
心臓がドキドキとうるさく鳴る音が、向こうに聞こえてやしないだろうか。

これでもかというくらい座り心地の良い上質なシートに体を包まれているというのに、落ち着かなすぎて何度も収まりを探してしまう。
するとアキの方が先に口を開いた。

「静さんは明日も仕事?」

ハンドルを握っているのは間違いなく“エリート御曹司”なのに、軽快な口調が完璧に“アキ”のもの。当たり前だ、どちらも同じ人物なのだから。
そう思った途端、ふっと肩から力が抜けた。

「ううん、この土日はお休みなの。最終プレゼン出場の慰労休暇だって」
「そうか。じゃあ大丈夫だな」
「何が?」

キョトンと首を傾げると、アキが隣からチラリと視線を寄越した。なんだろう。
彼の答えをじっと待っていると、横から伸びてきた手がスッと頬を撫でた。

「このままあなたを駅まで送らなくてもいいんだってこと」
「っ、」

慌てて目を逸らした。

だって、彼の瞳が溶けかけのチョコレートみたいに甘ったるい。見つめられているこっちが溶かされそう。
もしも、その薄茶色の虹彩が本物のチョコレートだとしたら、きっと胸焼けするくらい甘いに違いない。

トクトクと鼓動が速まっていく音が静かな車内に響きそうな気がして、わたしは急いで口を開いた。

「それよりもっ……、聞いてなかったんだけど」

わざとむくれた顔で隣をじろりと見ると、アキはすぐに何のことか分かったよう。

「ブルワリーのこと?」
「そう! ……というより、それにわたしも参加するってことよ」
「黙っていてごめん……。設立の基盤が無事整って、本格的に動き出すタイミングで話そうと思ってたんだ。だけど直前で色々あったから……」

彼が言う『色々』に、わたしたちの危機的大喧嘩も含まれるような気がして、わたしは押し黙った。
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